第9話 配信者の素質
奥の部屋へと歩みを進めると、まず目に着くのは大量のごみ袋だった。
「これはひどいですね。ゲルゼナードもそうですが、元の体の人間もあまり片付けはしなかったようです。」
至る所にごみごみごみ。
飲みかけのペットボトルを見たとき、あまりにも不衛生で鳥肌がたった。
「はぁ、これでは話すこともままなりませんね。まずは片付けをしましょうか。灯様は部屋の外でお待ちいただけますか?」
「え?うん。」
そう返事をし、部屋から出るや否やエルは途轍もない速度で片付けを始めた。
この世界のごみをよく知らないので結局私も片付けを手伝うことにはなったが、それでもエルは清掃業者顔負けの速度で片付けを行う。
エルはやっぱり優秀だな~。
「クリーン」
エルは簡単な清掃魔法を最後に施し、ゲルゼナードがお風呂から上がるころにはすっかりピカピカになっていた。
一家に一台エルが欲しいよ。
すると、千春たちが綺麗になった部屋に入ってくる。
「じゃじゃーん!どう?ゲルちゃん可愛くなったでしょ?ピンク髪可愛いから、ちょっと髪型遊んじゃった。」
「おお!儂の部屋がきれいになっているのである!礼を言うぞ!エルギノイスト。サルティヌス。」
ツインテールの先にお団子が付いた部屋の主は、お風呂からあがり、つやつやになっていた。
てか、数日風呂に入ってなかったのに肌きれいだな。
普通にうらやましい。
「よかったですね、ゲルゼナード。ですが、今はケルミスもいませんし、これから身の回りのことは自分でお願いします。」
「ハハハ!儂はあの冰・牢・龍ゲルゼナードである!安心して任せるのである!」
「任せられるような龍は、ここ2日風呂に入らないことはしないと思うのですが…。」
「ハーハッハッハッ!エルギノイスト。君はそう細かいからモテないのである。儂を見習うがいい!」
あんたも大概モテない要素満載だよ。
と、脳内でツッコむが、こんな話をしにここに来たんじゃない。
「ゲルゼナード。私たちは用があってここに来たんだ。話してもいいかな?」
「サルティヌス、君の口調はさっきから変であるな。どうしたのであるかな?」
「そこも含めて、僕からお話しましょう。」
全員が床に座ると、エルは魔王の部下に会いながら帰還方法を探っていると伝えた。
その途中で、私たちの呼び名や口調を変えている訳も話してくれた。
すると、黙って聞いてきたゲルゼナードが口を開く。
「ふむ…。儂の知らぬところでそこまで考えて行動していたとは流石である。エル。灯よ。先に結論から話しておくのである。儂は帰還方法について何も知らん。」
予想はしてたが、そりゃそうか。
魔王軍の人たちは、女神に飛ばされただけの被害者だしね。
そしてゲルゼナードは言葉を加える。
「そして、君たちには申し訳ないのであるが、儂はしばらく元の世界に帰る気はないのである。」
それは予想外だ。
みんな帰りたいのだと勝手に考えていたが、こういう人?もいると考えると、情報収集が大変になりそうだ。
「訳を聞いてもいいですか?」
「…この体の持ち主の夢を、託されたのである。それが成せるまで儂は帰るわけにはいかないのである。」。」
「その夢とはなんですか?」
たて続けにエルが質問を加える。
「配信者としてお金を稼いで自由に生きることである。」
「配信者?ですか?」
まさか過ぎる返答に私も困惑する。
確かに部屋を掃除したときに、デスクにマイクがあったのが気になったのだ。
どうやらあれが配信用だったらしい。
「それは職業ということでよろしいのでしょうか?もしそうであるなら、自由に生きられるほど稼ぐとは、いったいどれくらいの基準を考えているのですか?」
「え~と。それは…。」
どうやら何も考えていなかったようだ。
けど、無理もない。
この世界に来てまだ2日。
日本円のことも知らないのだろう。
それなら私が頑張るとしますか。
この中で現代日本の知識とネット文化に通じているのは私だけ。
聞きかじりの配信者知識でも、無いよりはマシでしょ。
夢を成し遂げてもらってゆくゆくはこのサークルに入ってもらう。
その足掛かりになってやろうじゃないの。
「わかった、ゲルゼナード。まずはあんたの配信者としての素質を見てあげる。私についてきなさい。」
配信者育成をするプロデューサーってちょっとワクワクする。
そんなことを考えていると、ゲルゼナードが期待の眼差しをこちらに向ける。
「おお!あの灯が頼もしく見えるぞ!こっちの世界で変わったのは、口調だけではないのであるな!」
{やっぱりあんた、頼りがい無いみたいよ。}
{やっぱりってなんじゃ!?おのれゲルゼナード。今度出たときは、コテンパンにしてやるのじゃ。}
そんなこんなで突如始まったゲルゼナード有名配信者計画。
私たちは無事ゲルゼナードを有名配信者にできるのか!?
乞うご期待!
「灯ちゃん。なんかテンション高いね。」
「元の世界ではこれが平常運転でしたけどね。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます