冰牢龍 ゲルゼナード
第7話 日本滅亡?
「四大龍の内、唯一の生き残りである冰牢龍ゲルゼナードがいいでしょう。彼は人間への復讐心こそ強くありませんが、気まぐれで国を滅ぼしかねません。手遅れになる前に行きましょう。」
ついさっき出来た魔王軍サークルの目標は、このゲルゼナードという龍に会いに行くことだ。
会いたくない要素満載だが、魔王の臣下が人を殺す可能性は高い。
それを止めるためでもあるし、魔王に元の世界に帰ってもらい、日常を取り戻したい私にとって、避けては通れない道だった。
ていっても、闇雲に帰還方法を探すよりは効率が良いだろうってだけなんだけど。
そんな風に考えていると、あまり現状を飲み込めていない千春が口を開いた。
「その、ゲルマニウム?さんに会いに行くのが、私たちの活動なの?そうだとして、その人がどこにいるのか分かってるの?」
「ゲルマニウムじゃなくてゲルゼナードです。こんなことも覚えられない鶏頭で、灯様にお仕えできるとお思いですか?その小さな脳みそで、よ~く考えてから話してください。」
またもや二人は言い争いを始める。
それをなだめつつ、そのゲルゼナードという龍の所在を聞いてみる。
「それで、エルはどのあたりにゲルゼナードがいるのか分かってるの?」
「そんな。灯様、ひどいです。僕のことを忘れてしまったのですね。」
「え?」
ショックを受けてしまったらしい。
何か私、おかしなことを言ったかな?
{ねえ、魔王?なんでエルが傷ついてるのか分かる?}
{貴様、なんてひどいやつなんじゃ!エルギノイストは、複眼族の最上位個体じゃぞ!?探したいやつがどこに隠れようと、こやつから逃れることはできん。貴様の発言はエルギノイストの自尊心を傷つける行為じゃ!弁償しろ!べんしょう!}
いや、私それ知らんし。
けど、これで納得がいった。
エルが私たちのところまでやって来れたのは、その能力のおかげなのだろう。
「その、ごめんね。エル。ここでも前と同じように見れるのか分からなかったからさ。だからほら、元気出して。」
「はい…わかりました。この世界は元の世界と変わらず魔力に満ちています。変わらず、存分に僕をお使いください。」
なんとか立ち直ったみたいで安心した。
さっきまで千春が泣きかけのエルを煽っていたが、それに関しては気にも留めてい ないようだ。
「それじゃあエル、ゲルゼナードの場所を探して。」
「御意。」
瞬間、エルの周りの時間が止まったかのような錯覚を受ける。
千春も異様な空気にたじろぎ、横で黙ってエルの瞑想を眺めていた。
すると、ゆっくりとエルが3つの目を開く。
「場所が分かりました。ここから、10km南西の建物の中です。」
あれ?思ったより近い。
龍っていうくらいだから、最悪空の上を飛んでいて、諦めることになると思っていたのに。
そしたら、行かなくてよくなるかもと思ったのはここだけの話。
「本当にそれは合ってるの?また、適当言ってるんじゃないでしょうね。」
「いい加減にしてください。僕はこれに関して間違えたことはありません。」
「千春。エルを信じよう。間違ってるかどうかは、行ってみれば分かるんだし。」
「むう。灯ちゃんがそう言うなら…。」
ようやく行き先がまとまった。
それにしても、建物の中に龍がいるってどういうことなんだろう?
気になるけど、相手は気まぐれで国を滅ぼせる奴だ。
覚悟を決めて乗り込むとしよう。
△▼△▼△▼
魔族の移動方法を考えてみよう。飛行魔法?もしくは転移魔法だろうか?
少なくとも、魔族だと隠したい私たちに、そんな方法は使えない。
なら、移動手段は限られる。
「なんですかこれ!?すごいですよ灯様!魔力の流れを一切感じないのに、これほどの質量が動くなんて!本当にすごい!景色が勝手に動いていきます!」
「ねえ、灯ちゃん。エルってどこから来たの?名前からして日本人じゃないし、電車も知らない場所なんてこの世界にあるの?」
「えーと、なんかカルボニア(適当)ってところから、来たらしいよ。電車が走らないくらい貧しいところみたい。」
つい適当な言葉を並べ立ててしまった。
千春は可哀想な人を見る目で、はしゃぎまわるエルの痴態を眺めていた。
ごめん、エル。だけど今は、他人のふりをさせてほしい。
電車で20分ほど乗った後、はしゃぎ回っていたエルを到着駅で引きずり降ろす。
抵抗したエルを降ろすのは大変だったが、命令したら渋渋降りてくれた。
さっきまでの頼りがいはどこえやらだ。
私の命令はエルにとって魔王の命令なはずだけど、魔王信者のエルをここまでにするとは、電車恐るべし。
そんなこんなで、私たちは少し栄えた繁華街を抜け、エルの案内で目的の建物に着く。
そこは、龍が入りそうな巨大な建造物。
ではなく、ボロアパートの101号室だった。
「エル、確認なんだけど、本当にここにゲルゼナードがいるんだよね?」
「ええ、僕が見たのですから間違いありません。」
「とりあえず、その人を私たちのサークルに誘えばいいのよね?どうしたら入ってくれるのかしら。」
今更だが、千春をこんな危険な場所に連れてきて大丈夫なんだろうか。
当人には危険だという認識がないが、いざという時は魔王に守ってもらおう。
{魔王、お願いなんだけど、いざという時は千春を守ってくれない?}
{なぜ我がそれを守らねばならんのじゃ。それに、ゲルゼナードとやり合うなら、我とて油断はできんぞ。そのピンポン女を守り切れる保証などない。}
うそでしょ。あのプライドの高い魔王にここまで言わせるなんて。
今から対峙する相手の強大さを、改めて思い知る。
どうしよう。やっぱり千春はここから離れてもらって…
ピンポーン!
私がそんな風に考えていた時、ピンポン女が躊躇なく呼び鈴を鳴らす。
「ちょっと、千春!早いって!もう少し考えてから…」
「?この人をサークルに誘うのよね?早いってどういうこと?」
魔族のことを隠そうとするあまり、情報共有をしなかったのが仇となった。
まずい!このままじゃ龍がこっちに来ちゃう!
ガタッ!ガタッ!ガン!ガン!
そうすると、玄関の扉が変形しそうなほど揺れ始める。
やばいやばいやばい!怒らせちゃった!?
大丈夫?ここから国、滅ばないよね?
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