第17話 マザー・イン・ザ・ダイニング

 巴は家に着くなり自室に向かい、ベッドにダイブした。

「つっかれたー。いつもの3倍つかれたー」

 無駄に声が出る。思えば、濃ゆい一日だった。皇とのお昼に始まり、緊急のバイト、公園で泣いていた小野、久しぶりに再会した碧、そしてコンビニでの八神。

「明日のデートの約束とか忘れるくらいだわ……」

 皇には聞かせられない呟きが漏れる。

「あ!」

 そこで巴は思い出した。

「夜ご飯買うの忘れた……」

 コンビニで。アイツがいたからだ。

「もー、余計なストレス溜めさせないでよー」

 これに関しては八つ当たりに近いものがあるが、八神に対する評価値がだだ下がりの今、そんなことは気にならなかった。


 家から近いとはいえ、今からまたコンビニまで行くのは相当にだるい。巴は慌てて自室を出て階下へと降り、食料の調査へと向かった。


 時刻は午後9時過ぎ。ダイニングでまだ母がテレビを見ていたので聞いてみる。

「お母さん。夜ご飯残ってたりしない……よね?」

「え。バイト入ったって言うからみんな食べちゃったわよ」

 ですよね。連絡したもんね。巴は自身の行いを悔いるが、帰りが遅いと心配されるから仕方ない。

「くぅー、アイツさえいなければ……」

 思わず犯行に及ぶ前みたいなセリフを口走ってしまう。

「あら、ご機嫌斜めねえ。これはそのアイツとやらを好きになっちゃうパターンね」

「それは100%ないから」

 変なフラグ立てないでほしい。

「その反応、やっぱり男の子ね。恋バナなら任せて?」

「そういうのいいから。友達の彼氏だから」

「え! 叶わぬ恋!?」

「恋じゃない」

「略奪愛!?」

「違うって」

「あーん、巴ちゃんこんなに可愛いのに可哀想!」

「聞いてない……」

 なんかめんどくさいことになったな。そんなことよりお腹空いた……。もうヨーグルトとかでもいいから、とりあえず空腹を誤魔化したい。巴が冷蔵庫を漁り始めると、母から提案があった。

「お茶漬けでも食べれば? 巴ちゃん好きじゃない」

「それは昨日食べたんだよなあ……」

 でもま、いっか。巴は連夜のお茶漬けを受け入れた。昨日は梅だったから、今日は鮭にしよう。


 隣のキッチンに行き炊飯器の蓋を開けると、もうもうと湯気が立ち昇った。よかった。ご飯は十分残っている。お茶漬けにすればと言われて炊飯器が空だったらびっくりしちゃうけど、過去に何度かあったことなので油断はできなかった。

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