第18話 自由回答

「いただきまーす」

 完成したお茶漬けを食べながら、向かいでテレビを観ている母に問う。

「問題です。友達が悪い男に引っかかっています。どうするのがよいでしょう?」

 少し間を置いて反応があった。

「————え。三択とかじゃなくて?」

「自由回答です」

「うーん、そうねえ」悩ましげな母。「こればかりは教えてあげても意味ないもんねえ」

「意味ない?」

「そう。意味ない。悪い男と付き合う子って2パターンあるよね。悪い男と知ってて付き合ってるか、悪い男と気付かず付き合ってるか。

 まず知ってる場合はそもそも教える意味がない。それから気付いてない場合だけど、付き合ってる相手のこと悪く言われても、素直に聞けないと思うのよね。好きな人を疑うのって辛いもの。高校生ならなおさら」

「うーん。そうかー」

 確かにいい気はしないと思うけど。巴は箸を止めて頬杖をつく。

「お行儀ー!」速攻で窘められた。

「ごめち。でもさー、放っておくのも心配なんだよねー」

「本人に危害が及ばなければいいと思うけど。高校生の恋愛なんてフィクションみたいなもんじゃない。焦って現実に引き戻さなくても、いつか気付かされるんだから」

「おー、いうねえー。現役高校生が目の前にいるんですけど?」

「まあ、若い頃は恋愛至上主義でも仕方ないと思うな。それが若さでしょ。私も若い頃は……」

「あーはいはい。モテまくり武勇伝は間に合ってるから」

「巴ちゃんもモテるでしょ」

「え? ノーコメント」

「お母さんには分かっちゃうんだよなあ。そうだ。2人でアイドルデビューしない?」

「は? 2人って!?」

「私と巴ちゃん」

「寝言は寝て言って」巴は眉をひそめた。

「えー。巴ちゃん可愛いんだから自信持って?」

「いや、それよりあなたの歳がね……」

「私? 見た目若いからイケるでしょ」

「確かにそれはそうだけど……」

 歳の割には。その点だけは認めざるを得ない。ちょいちょい姉妹に間違われるからな……。お世辞ももちろんあると思うけど。

「冗談キツいわって感じ」

「てへぺろ」

「古い……!」

 やっぱダメだ。巴は母にいにしえの者の烙印を押す。

(あーん、やっぱり見た目だけだとこういう大人になっちゃうよなあ。絶望しかない)

 大変失礼なことを考えながら、巴はお茶漬けを完食した。

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