第13話 親近感

 今日の隊活動は「見回り」。

 セリカさんとルージュは別件があるそうで、ミリアと二人で学院周りを歩く。


「……」

「……」


 でも、ドキドキして話しかけづらい!

 なんたって今朝は一緒に、一緒に……~~~っ!


「ねえ」

「!」


 そんな心情を読み取ってくれたのか、ミリアが先に口を開いた。


「アルスは相変わらずだね」

「え?」

「女の子の人気」

「あ、あー」


 さっきの教室での話か。


「あはは、きっとまだ男子が珍しいだけだよ」

「それにしては、みんなアルスを見る目がハート」

「……」


 それは若干感じなくもない。

 本当にミリアの言う通りなら嬉しいことなのかも。


 でも、本音を言うと……。


「ちょっと怖いんだ」

「怖い?」

「うん。みんな自分に自信があるように見えて仕方なくて」


 ミリアだからかは分からない。

 だけど、気が付けば僕は本音をらしていた。


「僕が弱いから尚更なのかな。自分からガンガンいける周りの子達が、少しうらやましく見えちゃって」

「……」

「ど、どうしたの?」


 ミリアはじーっと僕を見てくる。

 それから、と少し目を開いて言葉にした。


「アルスがそんなこと言うの、意外」

「そうかな」

「そう。だって第三小隊にもすぐに馴染なじんだ。私なんかよりずっとすごい」

「そ、そんなことはないよ」


 ミリアは少し目を伏せて話を続ける。


「ううん、ある。セリカは立派な隊長で、ルージュはすごい努力家、アルスはすぐに溶け込んだ。何もない私とは違って」

「ミリア……」


 今のミリアはどうしてか、とても自信なさげに見えた。

 まるで僕みたいだ。


 それから、少し間を置いてミリアが再び口を開く。


「隊員になるために一番必要な事、何かわかる?」

「ええと……“強さ”とか?」

「違う」


 自分で出した問いに、ミリアはハッキリと答えた。


「コミュニケーション」

「……!」


 じっと見つめてくるミリア。

 きっと今までの経験からの言葉なんだろう。


「隊は連携が命。連携が出来ないと隊じゃない」

「う、うん」

「私のスキルは強い」

「……」


 自分で言うんだ。

 そうは思いつつも、真剣な彼女の話に耳を傾け続ける。


「でも、私は人とうまく話せなかった」

「……!」

「この第三小隊に来る前、スキルだけは有用だった私はたくさん隊を回った。でも、どこに行ってもその内放り出された」


 ミリアは乾いた笑いを浮かべながら続けた。


「あの時はスキルの精密さも無かったから、隊に爆弾を抱えているようなものだった。すごく扱いづらかったと思う」

「ミリア……」


 そうだったんだ。

 第三小隊でのミリアしか見ていないから、そんなことは全く感じなかった。


「でも、セリカがたくさん教えてくれた」

「セリカさんが……」

「セリカは真っ直ぐに時間をかけて、私に向き合ってくれた。だから私にとってもお姉さん」


 なんだかセリカさんらしいな。

 ミリアもルージュも、セリカさんをすごく信頼しているのが分かる。


 それから、ミリアはキリっとキメ顔でこちらを見る。

 

「あと、効果音も教えてくれた」

「効果音?」

「ちょどーんとか、どかんとか。これを言えば親しみやすいって」

「あ、あー……」


 それ教えたのセリカさんだったのか~。


 どちらかと言えば、親しみやすさから外れているような……。

 セリカさんもちょいちょいズレてる所あるし、それを全面的に信頼するミリアもミリアな気がする。


 でも──


「ふふ、あははっ!」

「アルス?」

「ごめん、なんでもないよ」


 あの効果音ですらも、ミリアとセリカさんの信頼の証だと思うと、すごく良いものに思えてくる。

 

 そうして、ミリアが再び僕の方を覗く。


「だからアルスはすごい。すぐにみんなとも打ち解けて」

「ううん。それはミリア達が温かかったからだよ」

「……! そ、そっか」

「ミリア?」


 そう言うと、ミリアは僕から顔を背けた。

 耳が赤くなっている気がするけど、どうしたんだろう。


「それでね、アルス」

「え、うん」

「セリカがしてくれたように、私ももっとアルスをもっと知りたい」

「えっ?」


 バッとこちらを振り向いたセリカは、教室の時みたいにすそを握ってくる。

 そして、とんでもない事を口走る。


「だから、今朝は一歩踏み出してみた」

「どういう意味?」

「保健室のエチア先生が言ってたの。仲の良い男女は一緒に寝るものだって」

「!?」


 保健室の先生、それ間違ってませんか!?


「私、アルスともっと仲良くなりたい」

「……!」

 

 最初はクールな人だと思った。

 物静かで、仕事人で、あまり関わってこなくて。


 でも、本当は不器用なだけなのかもしれない。

 コミュニケーションに悩んで、消極的だったり積極的だったり、バラバラな歩幅で不器用に距離を詰めてくる。


 そんなミリアに親近感が湧く。


「あとこれも言ってた」

「……!」


 そう言うと、ミリアは不意に右手を上げる。

 ちょうど頭の位置ぐらいだ。


「ハイタッチ」

「へ?」

「仲良い人はハイタッチをするみたい」


 エチア先生、また妙な事を教えてる……。


「ダメ?」

「ううん、いいよ! じゃあ──」


 そうして僕も応えようとした時──


「きゃああああああ!」

「「……!」」


 後方から大きな悲鳴が聞こえてきた。

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