第14話 特別なスキル

<三人称視点>


「きゃああああああ!」


 アルスとミリアが見回りをしている途中、ふいに後方から悲鳴が聞こえてくる。

 いかにも普通の事態ではない。


「「……!」」


 バッと振り返った先は、研究棟の方角。

 お互いにうなずき合い、そのまま急いで向かった。


 それから少し走った先。


「アルス!」

「──!?」


 研究棟に足を踏み入れてすぐさま、バッとミリアがアルスの前に立つ。

 視線の先には、魔物……に近い何か・・


「グギャアアアア!!」


 黒い皮膚や大まかな見た目は、よく見る魔物と変わらない。

 サイズから、おそらく中型だ。


 だが、所々妙な場所から生える腕など、普通の魔物とは違う点がいくつか見て取れる。


「なんだあれ!?」

「たぶん実験魔物」

「じ、じっけん……!?」


 ミリアの言う通り、これは実験魔物。

 魔物の生態を調べるため、学院内で色々と研究されている魔物だ。

 ここは研究棟ということもあり、どこかから脱走したのだろう。


「アルスは下がって。ここは私が──」

「ミリア、前!」

「……っ!?」


 一瞬目を逸らしたすきに、実験魔物の手が降りかかる。


「グギャアアアアア!」

「アルス!」

「うわあっ!」


 通常の魔物よりも明らかに速い振り下ろし。

 ミリアも、まさかここまでのスピードとは思わなかったのだろう。


 咄嗟とっさにドンっと押されたアルスは、そのまま地面を転がった。

 

(って、だとしたら!)


「ミリア! 大丈夫!?」

「だ、大丈夫」

「……っ!」


 すぐさま起き上がったアルスは、ミリアへ駆け寄る。

 先にアルスをかばったからか、け損ねたミリアが負傷してしまっていた。


(これじゃ、前と同じじゃないか……!)


 嫌でも想起してしまうのは、石から出たばかりの時。

 あの時も同様に、セリカを傷付けてしまった。


「くそっ! また僕は仲間を……!」


 アルスの悔しさがこみ上げ、それが力に変わる。

 彼の体から光があふれだした。


「≪キズナノチカラ≫」

「アルス……!」


 光はミリアの傷をきずし、彼女を立ち上がらせる。


「ありがとう」

「ううん。でも、こいつを倒すには≪機械仕掛けオートマタ≫を頼るしかないかも」


 残念ながら、アルスができるのは他人の強化だ。

 けど、ミリアならきっとなんとかしてくれる。


 ──そう思ったのが、甘かった。


「できない」

「え!?」

「ここじゃ周りに被害が及ぶ」

「……っ!」


 アルスはハッとして改めて周りを確認する。


「きゃあああ!」

「助けて!」

「早く応援を呼んで!」


 周りには、白衣を着た研究棟の人たち。

 学院関係者とはいえ、彼女らの多くは非戦闘員だ。


「それに、周りは危険物だらけ。ここでぶっ放せば何が起きるかは分からない」

「……っ!」


 ここは研究棟内。

 有害なものもたくさん置いてあるだろう。

 最悪、誘爆や二次被害の恐れもある。


 ミリアにとっては最悪のフィールドだ。


「でも、だからって……!」


 アルスはぐっと拳を握る。

 いつも肝心な所で役に立てないのが悔しいのだ。


「僕は……!」


 そんな気持ちに≪キズナノチカラ≫が応えた。

 アルスとミリア、二人を包む光がより強く輝き出す。


「こ、これは!?」 

「アルス……!?」


 そうして、光と共にお互いの距離が徐々に縮まっていく──。








 一方その頃、学院内の会議室にて。

 本日、ここでは隊長会議が行われている。


「第三小隊セリカ、について思う事は」

「うーん、かっこいいよ?」

「そういうことを聞いているのではない!」

「あらら、ごめんごめん」


 定期的に開かれる隊長会議だが、今日の議題はやはり「アルスについて」。

 ここ数日、学院を大いににぎわせているこの話題を置いておけるはずもない。


「真面目に答えろ、セリカ」

「そーですねぇ」


 セリカは真剣な眼差しを向け、ニッと口角だけ少し上げた。


「アルス君のスキル≪キズナノチカラ≫なんですけど」

「なんだ?」

「ちょっと特別・・に思えてならないかなぁって」

「「「……ッ!」」」


 ざわっとした他隊長たちの中、一人の隊長が尋ねる。


「具体的にはどう特別だと?」

「うーん。まだ多くは分かりませんが、ワタシ達の通常スキルとは“一線を画す”。そう思ってます」

「……っ」


 そんな話の中、一番奥に座る者がセリカへ口を開く。

 席順から、トップに近い役職の者だろう。


「それは彼のスキルが『ユニークスキル』だと言いたいと?」

「「「……ッ!」」」


 その言葉に、周りは再度ざわつく。

 誰もが「信じられない」と言いたげな表情だ。


 だが、それでもセリカは視線を逸らさず頷いた。

 

「はい。そういうことです」

「……ほう」


 さすがに我慢ならなったのか、周りがついに声を上げ始めた。


「セリカ、それは予測で言っていいものじゃないぞ!」

「そうだ! それが何を意味するか!」

「本当なら興味深いけどねえ」


 彼女らはみな、『ユニークスキル』の名を聞いてから動揺したように見える。

 それもそのはず、これは隊長達を含め、学院の一部にしか知られていない情報だ。


せいしゅくに」

「「「……ッ!」」」


 だが、そんな周りを一番奥の者が静めた。

 そして、セリカに再度問う。


「ではセリカ。彼のスキルがそう・・だと、いつ判別できる」

「うーん」


 人差し指を口元に当て、考える素振りを見せるセリカ。

 そうして、少しペロっと舌を出した口で答えた。


「そろそろではないかと」

 






<アルス視点>


「ねえ、アルス」


 ミリアがぶっきらぼうに尋ねてくる。


「は、はい」

「これはどうなってるの」

「……」


 僕はミリアの背後・・で答えた。


「僕の方が聞きたいです。だってこんな……」


 それもそのはず、明らかにおかしな事になっていた。

 

 研究棟の作りから、ミリアの≪機械仕掛けオートマタ≫は機能しない。

 だから、どうにかしなければと思った矢先、僕たちの光が増す。

 それが≪キズナノチカラ≫の第二段階・・・・だと直感した。


 でも、気がついたら──


「僕自身がミサイルランチャーになるなんて!」


 ミリアと合体してしまっていた。


「アルス、耳元くすぐったい」

「ご、ごめん!」


 いつもミリアが出すミサイルランチャーは、両肩から生えてくる。

 それと同じような形で、僕の光で包まれた体がミサイルランチャーになり、後ろからハグでもしてるような態勢だ。 


「これは事案・・

「うっ……!」


 じろりと背後をのぞいてくるミリア。

 僕も悪いと思ってるけど、解除の仕方が分からないんだ。


「でも、不思議といける気がする」

「ミリア……!」

「じゃあ倒そう」

「うん!」


「グギャアアアアア!」


 そうして僕たちは、もう一度実験魔物へ向き合った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る