第12話 学院の日常と予感

 じろじろと視線を感じる。


「「「じーっ……」」」


 授業中というのに、全方位から。


「うっ」


 ダンジョン女学院に来てから数日。

 授業にはまだ慣れない。


 だって──席が教室のド真ん中・・・・なんだから!!


「ダンジョンというのは~」


 きょうだんでは先生が授業を続けている。

 けど、周りからはひそひそと話し声が聞こえてくる。


「顔赤くなってない?」

「ほんとだ、かわいー」

「何考えてるんだろ」


 教室の右側からはじっくりと見られている。

 ダメだ、左側に椅子の向きを変えて……。


「「「……っ!」」」

「えっ」


 こっちはこっちでチラチラ目が合う!

 気になるけど周りは見ない様にしないと!


 なんてことをしていると、先生が僕をあててくる。


「アルス君、聞いてます?」

「は、はい!」

「本当かなあ。聞いてなかったでしょ」

「すみません……」


 挙動が大きすぎたのかバレていたみたいだ。

 それから先生は、少しため息をついて続けた。


「しょうがないですね。授業はここまでで終わりにしますが……アルス君!」

「はい!」

「明日は “特別授業” ね。放課後に一人で先生の部屋に来るように」

「えっ」


 その瞬間、教室内ではわあっと声が上がる。


「あー先生ずるい!」

「抜け駆けだ!」

職権しょっけん乱用らんようはダメですよ!」


 それでも先生は、人差し指を左右に振りながら答えた。


「ノンノン、アルス君は新入生だから教えてあげるだけ。色・々・と」

「~~~っ!」

「では授業はここまで。復習もおこたるなよ~」


 先生はそのまま、スキップをしながら教室を出て行った。


「ふぅ……」

 

 中々苦労しながらも、今日の授業はこれで終わり。

 この学院では午後から隊活動があることも多く、ほとんどの日は午前で授業が終わる。


 でも、その分授業は難しめだ。

 あんまり集中できなかったし、また復習しないとなあ。


 なんて考えていると──


「ねえねえ、アルス君!」

「うわっ!?」


 またいつものが始まってしまう。

 一人を皮切りに、席の周りにはたくさんの女の子が集まってくる。


「うちの隊に移籍してこない?」

「あーずるい! 私の所に来なよ!」

「私の隊はホワイトだよ~」


 大体は隊への勧誘、デートのお誘いなんかだ。


「ご、ごめん! 僕は第三小隊だから!」


 授業後はこうしてよく囲まれてしまう。

 僕なんかを勧誘しても良い事ないと思うんだけどなあ。


「えー、あんなとこ抜けちゃいなよー」

「そういうわけにもいかないよ……って、え?」


 そうして、いつものように断っていると、後ろからすそを掴まれた感触がする。


「あ、ミリア」


 振り返った先にはミリアがいた。

 彼女は、第三小隊で唯一の同じクラスだ。


「どうしたの?」

「ん」

「わわっ!」


 ミリアは口を閉じたまま、少し強めに僕を引っ張って行く。

 

「アルスは第三小隊」

「そ、そうだね」

「だからちゃんと断って」

「……!」


 ミリアのほおが少しふくらんで見える。

 彼女はそのまま、若干怒り混じりの声でつぶやいた。


「行くよ」

「う、うん!」


 クラスの女の子達にはごめんねと両手を合わせながら、教室を去った。

 




「やーっと来たわね!」


 第三小隊の集合場所へ行くと、両手を腰に当てたルージュが声を上げた。

 

「ごめん。中々教室を抜け出せなくて」

「ったく。浮かれて鼻の下伸ばしてんじゃないわよ」


 いつものように毒を吐かれた後、ルージュは今日の隊活動を伝えてくれる。


「ま、今日は軽い連絡事項だけね」

「連絡事項?」

「聞いてなかったの? 今日はアタシは定期健診、セリカは隊長会議よ」

「え、じゃあ」


 僕はハッと隣のミリアに目を向けた。


「今日の活動は私と二人」

「……!」


 じっと見つめて来るミリア。

 そのあまりに真っ直ぐな視線に少したじろいでしまう。


「なに、アルス」

「い、いや別に……!」


 今朝、あんなことがあったばかりなんだ。

 思い出すと途端に緊張してしまう……!!


 そんな様子を見てか、ルージュは腕を組んだまま尋ねてくる。


「なんかあったのかしら、アンタたち」

「何もない! 何もないから!」

「ふーん……」


 細目でじろりと見てくるルージュだけど、やがてくるっと僕たちに背を向けた。


「ま、いいわ。アタシもそろそろ時間だし。くれぐれもミリアに変なことはしないように」

「わ、わかったよ」


 そのままルージュが去って行き、ミリアと二人きりとなる。


「じゃあ行こう」

「う、うん」


 今朝のベッドの事もあり、これから何かが起こる予感はした。


 だけど、さすがにああなるとは予想できるはずもなかった。

  まさか彼女と物理的にも・・・・・距離を縮めることになるとは──。

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