第11話 寝起きびっくり

<アルス視点>


「うーん……」


 日差しが目の辺りに当たるのを感じて、ふと目を覚ます。


「もう朝か──んん!?」


 起き上がろうとすると、背中側に何か感触を感じる。

 僕はそーっと、恐る恐る横に視線を向けた。


「……!?!?」


 思わず出そうになった声を口で抑えた。

 そこにはありえない光景があったからだ。


「すー、すー」


 なんと、僕と同じベッドにミリアが横になっているじゃないか。


「……っ」


 ミリアはまだ眠っているみたい。

 でも、何がどうしてこうなったんだ。

 昨日の寝る直前の事をを思い出してみるも、何も心当たりがない。


 ということは、ミリアから入ってきた!?

 けど一体どうして!?


 そうこうしている内に、向こう側のベッドから声が聞こえてくる。


「ふわ〜あ」

「……!」


 ルージュが起きた声だ。


 ──って、待てよ。

 今のこの状況、彼女に見つかりでもしたら!


『初日から女の子をおそいやがって! やっぱりケダモノじゃない! 死ね! ヘンタイ! このクズ!』


 そう言われるに決まってるー!


 ルージュの僕に対する信頼はゼロだ。

 いくら言い訳しても通じないだろう。

 ここはなんとしても誤魔化ごまかさなければ。


「んぅ?」

「──ッ!」


 そうして、対ルージュ策を考えていると、布団の中がもぞもぞと動く。

 

「……っ!」


 僕は自分からおおかぶさるようにしてミリアを隠す。

 後でいくらでも謝るから、今はこうするしかない!


 だけど、ルージュはすぐに異変に気づく。


「あれ、ミリアは」

「……!」


 そりゃそうだ。

 向こう側の二段ベッドは、ルージュが上で、ミリアが下。

 ルージュが少し下をのぞき込めば、いないことぐらいすぐに分かる。


 そんなルージュを見ていたからか、彼女と目が合う。


「ああ、アンタも起きてたの。てかミリア知らない?」

「……! さ、さあ〜? トイレとかじゃないかなあ……なんて、あはは」

「トイレ~? ったく、朝から下品な言葉並べないでよね」

「あ、あはは……ごめんごめん」


 ベッドの中はもっとやばい状態なんですけどねー!!

 今は何を言われても耐えられる気がする!!


「じゃあアタシも支度をするわ。アンタも遅れるんじゃないわよ」

「う、うん!」


 ふう、セーフ。

 起きたばかりだからか、ルージュの感覚もそれほど鋭くなかったらしい。


 よし、今の内にミリアをどうするか考えるとしよう──


「アールス君!」

「うわあっ!」


 と思った矢先、上のベッドから明るい茶髪が垂れ下がってくる。

 上のベッドで寝ているセリカさんだ。


「あれ、どうしたのかなぁ。そんなにあわてて」

「え、あ、いや別に何も……あはは」

「ふ〜ん」

「うっ」


 セリカさんはジト~っとした目でこちらを見てくる。

 いかにも何か企んでいそうだ。


「あ、そうそう。君に聞きたいことがあったんだけどね」

「なんでしょうか」

「ミリア、トイレなんか行ってないよね」

「いっ!?」


 セリカさんは、さらにニヤリと口角を上げた。


「すこーし前から起きてたんだけどね。ワタシが見る限り、人の出入りはないんだぁ」

「そ、そうなんですね〜」

「嘘はよくないと思うよ、アルス君」

「……っ!」


 上のベッドから、スタッと隣に着地したセリカさん。

 そのまま僕の方に手を向けてくる。


「なにかあるでしょ、ここ・・に」

「……ッ!」


 セリカさんは、少し浮き上がった僕の布団を指差す。

 中にいるのはミリアだ。


「うっ……」


 もう弁明のしようがない。

 僕はただ否定することしかできなかった。


「こ、これはダメなんです! とにかくダメなんです!」

「なんで──あぁっ!」

「え?」


 だけど、今までの勢いはピタっとなくなり、セリカさんは手を止めた。

 さらには、顔もかーっと赤くなっていくように見える。


「ご、ごご、ごめんね!」

「え、セリカさん?」

「男の子にはあるんだよね。その……朝におっきくなっちゃうやつ……」

「!?」


 セリカさんはとんでもない事を口走った。


「わーごめんね! そんなつもりじゃないからー!」

「ちょ、セリカさーん!?」


 すっかり赤面したセリカさんは、ぴゅーっと部屋を出て行った。

 あんなセリカさん、初めて見たかもしれない。

 それに、とんでもない勘違いをされた気がする。


 けど、一応バレずには済んだみたいだ。

 

「ま、まあいいか」

「一件落着?」

「……っ! ミリア!」


 チラリと布団をめくると、当の本人がこっちを見ていた。

 そのまま、もぞもぞと布団から出てくる。


「お、起きてたの?」

「あれだけ騒がしければ」

「だよねーあはは……」


 いや、あははじゃなくて!


「ど、どうして僕のベッドにいたの!?」

「別に」


 こんな状況にもかかわらず、ミリアは冷静に答える。


 そっかー、「別に」かー……って!


「いやいや! 言ってる意味が──」

「でも、こんなもんか」

「え? あ」


 そう言い残すと、ミリアは淡々と部屋から出て行った。

 結局、どうして僕のベッドに入り込んだかは分からず。


「ど、どういうこと……?」


 朝からあまりの展開の速さに、少しぼけーっとしてしまう。

 だけど、すぐに校内に放送がひびいた。


『本日も八時半に集合だぞ! 遅刻は校庭百周だ!』


「……!」


 その言葉に体がビクンとなる。


「やばーい! 早く準備しないと!」


 こうして、僕の「第三小隊」としての生活はあわただしく始まった。





─────────────────────

ミリア「私のターン」キリッ

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