第10話 おまけにおまけ
<三人称視点>
アルスダンジョンでの任務から数日後。
アルス達「第三小隊」は副校長室に呼び出されていた。
「あの、セリカさんこれって……」
呼び出しの理由は大体分かっていながらも、アルスは不安げに口を開いた。
「まあ、君の本入隊についてだろうね」
「……!」
セリカは
彼女の警告通りならば、ここで本入隊できなければ、アルスは実験動物いきだ。
震えるアルスだが、副校長室の前に来たところで止められた。
「じゃ、アルス君はここで待つように」
「え、でも今から結果を聞くんじゃないんですか?」
「そうなんだけどー」
ごめんね、とセリカはウインクを飛ばしながら口にした。
「その審査員、ワタシ達なんだ」
「ええ!?」
「だから、今からワタシ達の評価を副校長に伝えて来るの。そこで合否が分かるわけだね」
「そんな……!」
その瞬間、アルスは
「な、なによ」
「ルージュ……!」
「そんな情に訴えたって無駄だわ」
「がーん」
ルージュはぷいっと顔を
落ち込むアルスに、ミリアがポンと肩に手を乗せる。
「ミリア……」
「大丈夫。ルージュはツンデレだから」
「ツン……?」
記憶喪失の影響か、アルスにはピンとこない言葉だったらしい。
そうして、アルスがショックで膝を付く中、セリカ・ルージュ・ミリアは副校長室に入室した。
「第三小隊、ここに集まりました」
机に両肘を付く副校長を前に、隊長のセリカが手を頭にやる。
「来たわね。早速だけど、約束通り君達には評価を下してもらうわ」
副校長のカサイは、三人にそれぞれ紙を提示する。
そこには、アルスについて「0~5点の評価」・「備考」を記す欄がある。
「もう一度言うわ。条件は三人で“11点以上”よ」
紙を渡されるや否や、彼女らは早速手を付ける。
──
「……」
ルージュだけは手が止まっているようだ。
彼女が思い出すのは、アルスと出会ってからの数々の出来事。
石から解放して早々、胸を
学院に来てすぐさま、裸を見られたこと。
それ以外にも、ここ数日で色々とハプニングは起こった。
もはやわざととしか思えないほど、ルージュを狙い打ちにしたラッキースケベばかりである。
そもそも、男だからという理由でチヤホヤされるアルスを、ルージュはまだ認めていない。
「~~~っ!」
何度思い出しても恥ずかしいが、悪いことばかりではない。
アルスのスキル≪キズナノチカラ≫には、二度も救われた。
一度目は、石から解放された時。
二度目は、大型と
二度目に至っては、アルスのスキルもあって、セリカにスキルを使わせずに済んだと言える。
「……」
そして何より──
「まだなの。ルージュさん」
「……!」
と、回想をしているところで副校長から声をかけられる。
「他の二人はとっくに書き終えているわよ」
「……あ」
左右を振り返ると、じーっと見てくるセリカとミリア。
すでに副校長へ提出し、ルージュの様子をうかがっているようだ。
「あーもう!」
そして、頭を抱えながら出した答えとは──。
「仕方ないわね!」
バンっと机に紙を置き、ルージュは筆を走らせた。
「おまけにおまけして、1点だけあげるわよ!」
そこに書かれたのは「1点」。
備考欄には漏れなく「ケダモノ」とある。
「どーせ不合格でしょけどねっ!」
顔を赤らめ、ぷいっと顔を横に逸らすルージュ。
そうして紙が
「では彼にも入ってもらうとしよう」
「し、失礼します……」
指示により、アルスも入室した。
そこで、コホンと一息ついた副校長が四人を順に見る。
いよいよ合否発表だ。
「仮入隊していたアルス君だが、この度──」
「「「……」」」
一斉にごくりと
「第三小隊への本入隊を認めます」
「え」
「は」
「お」
「おー」
それぞれ思い思いに口を開いた後、
「「「やったー!」」」
バンザイと両手を上げた。
「うそでしょ……」
ただ一人、
そんなルージュは、バッとセリカとミリアに視線を向ける。
「アンタたち二人、まさか!」
彼女に対しては、二人とも指を五本立てた。
「お姉さんは5点」
「私も5点」
「甘すぎでしょー!?」
信じられないといった表情のルージュ。
だがセリカは、ニヤリとしながら彼女の頭をなでる。
「ルージュはわざとらしいなぁ。分かってたくせに。ね、ミリア」
「そうそう」
「~~~っ! アンタたちねー!」
顔をさらに赤らめていくルージュだが──
「コホン」
「「「……!」」」
副校長の話はまだ終わっていないようだ。
続いて、本入隊にあたっての連絡をし始める。
「それでは本入隊したアルス君について、まずは一つ通告よ」
「え?」
「ん?」
デジャヴ。
何か嫌な予感がする、と感じ取ったアルスとルージュの勘は当たる。
「君には本日より、第三小隊と同じ部屋で寝泊まりしてもらうわ」
「ええええええっ!?」
「はあああああっ!?」
アルスもだが、ここ一番に大きな声を上げるルージュ。
もう我慢ならなかったのか、ずんずんと副校長へ詰め寄る。
「副校長! 彼は常日頃から胸を狙い、あろうことか裸を覗こうとするヘンタイでケダモノなヘンタイです! 一緒に暮らすことなど考えられません!」
ルージュは感情のままに言葉にする。
ヘンタイが二度出てきたことなどが考える余裕もない。
しかし、副校長のカサイは至って冷静なまま。
「まだ会って四日だというのに、随分と彼のことを知っているみたいね」
「ええ、それはもう! 色々とされましたからね!」
「でも、後ろの二人は了承しているようよ?」
「え?」
ルージュが振り返った先、セリカとミリアはにっこりとしていた。
「お姉さんは別にいいよ。むしろ他に行っちゃう方が心配かな」
「私も大丈夫」
「アンタたち、本気なの……?」
またも唖然としてしまうルージュであった。
そんなタイミングを見て、副校長が続ける。
「ルージュさんの気持ちも分かるわ。でも、こちらも手一杯でね。昨日まで彼が寝泊りしていた場所も、遠征隊が帰って来て埋まってしまったの」
「そ、そんな……」
あのおまけの1点さえなければ。
ルージュは早速後悔しているようだ。
「それにアルス君は世界で唯一の存在かもしれない。おいそれと外部へと活かせるわけにも行かないわ」
「ぐ、ぐぐぐ……」
ようやく了承したのか、無理やり受け入れたのか。
とにもかくにも、ルージュはがっくりと肩を落とした。
「~~~っ!」
だが、すぐにアルスの方へ振り返る。
そのままピッと人差し指を真っ直ぐに向けた。
「聞きなさいケダモノ!」
「ひっ……!」
「絶対、ぜ~~ったい、アンタの好きにはさせないんだから!」
「は、はい……」
ルージュすらも
★
夜、第三小隊の部屋。
「「「すー、すー」」」
今日はルージュを中心にぎゃーぎゃーと騒いだが、その分疲れが出たようだ。
常夜灯だけ灯した中、みんな眠りについている。
部屋にあるのは、二段ベッドが二つ。
片方は、上がルージュ・下がミリアのもの。
もう片方は、セリカが上だけを使っていた。
アルスは自然と、セリカの下に入る形となった。
「「「すー、すー」」」
時間も時間ものため、それぞれ寝息を立てている。
「……」
一人起きているのは、ミリアだ。
その可愛らしい枕を持ったまま、アルスの近くに突っ立っている。
「……うん」
そして何を思ったか、そのまま──
「よいしょ」
アルスのベッドに潜り込んだ。
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