第8話 もうひとり

 「ミリアが周りを牽制けんせいしつつ、ルージュを先頭に前方を突破するよ! みんな決して無理はしないこと!」


 隊長セリカの指示により、四人は一斉に動き出す。

 目指すは前方にそびえたつ“大型”魔物だ。


 指示通り、まずミリアが動きを見せる。


「ちゅどーん」

「「「「グギャアアァッ!」」」


 放ったのは、≪機械仕掛けオートマタ≫によるミサイルランチャー。

 一対多数向きのミリアのスキルには、とっておきの見せ場だ。


 そうして、広がりを見せた魔物の集団の中、ルージュが道を切りひらく。


「そこをどきなさい!」

「グギャアアッ!」


 単身で前に出ては、並み外れた集中力で的確に集団を崩していく。

 ≪キズナノチカラ≫の恩恵もあり、その背中は頼もしく見える。


 しかし、あまりの数の小型魔物に取りこぼしは出てしまう。


「そっち行ったわよ!」

「うわっ!?」


 アルス、そして彼を隣で守るセリカに、数匹の魔物が迫る。

 だが、すでに反応していたセリカは、胸元から二丁の拳銃を取り出していた。


「──!」

「「「「グギャアッ!?」」」


 両手に持ったそれを連続で打ち込み、魔物は空中から一斉に落下する。


「こぼれたのはお姉さんに任せて」


 セリカは、二丁のピストルから上がった煙をフッと吹く。


 これは対魔物用に設計された簡易武器だ。

 小型ならば無力化することができる。


 急所を正確に打ち抜くことで・・・・・・・・・・・・・


「お姉さんはスキルだけじゃないんだよ」

「セリカさん……!」


 だが、両手でこの精度を持つ隊員は他にはほとんどいない。

 セリカの地力の高さがうかがえる。


 そうして──


「あとはあいつだけよ!」

「ギャオオオオオオォォォ……!」


 第三小隊の見事なチームプレーにより、周りの小型魔物はほとんど排除。

 残るは大型のみとなった。


 本来ならば大型は、十程度の小隊が連携してやっと倒せるレベル。

 それでも、≪キズナノチカラ≫であふれる力、仲間たちを信頼して四人は突き進む。


「ルージュは足元から行って! アルス君はワタシのそばを離れないこと!」

「ええ!」

「は、はい!」


 セリカは指示を重ねると同時に、ルージュの動きに合わせて拳銃を構える。

 狙う先は──その大きな目だ。


「──!」

「ギャオォッ!?」


 きょうじんな体に撃っても効くことはないが、目を狙うことで目眩ましの役割を果たす。

 その隙にルージュが足元へと潜り込む。


「はああああああッ!」


 刺激するのは、筋肉の節々。

 ルージュの頭にあるたくさんの魔物の情報から、弱点だと思われるところだ。


 しかし──


「ギャオオオオオオォォォ!!」

「「「……!」」」


 大型は力強く再度咆哮ほうこうを上げる。

 中型までなら倒せるルージュの戦闘術も、やはり大型相手には攻撃力が足りない。


 それでも、ルージュはニヤリと笑った。


「そうかしら! でも──」

「ギャオォ!」

「悔しいけど、うちの火力役はあくまであっちよ!」


 大型魔物の視界に、ルージュの後方からもうひとりの姿が見える。


「ミリア!」

「──うん」


 ルージュ達が注目ヘイトを集めている中、ミリアは力をたくわえていたのだ。

 その対大型に向けた兵器を。


「“集約ミサイル”」


 普段ならば、四角形の穴ボコが空いた形のミサイルランチャー。

 だが今は、前方に尖った大きな発射口が一つのみ。


「威力優先ならこっち」


 その形態は、一点集中型。

 いつもは拡散されているミサイルの威力を、一点に集中させる。


「どかん」


 コオオオオオ……とエネルギーが溜まった発射口から、特大のミサイルが発射された。


「ギャオオオオォ……!」


 ミサイルは見事に頭部へ命中し、大型はフラつく。


「効いてるわ!」

「すごい……!」


 ルージュとアルスが歓喜の声を上げる。

 さらには、後退気味となっている大型に対して前に行こうとする。


 だが──


「二人ともストップ!」

「「「……!」」」


 それを隊長セリカが止める。

 この中で唯一平静を保ったままだ。


「ここは退くよ。あれを追っちゃいけない」

「セリカ! でも──」

「隊長命令だよ」

「……!」


 その目は、大型の恐ろしさを知っているからこその目。

 また、隊員の命を預かる立場として、覚悟を持った目に見える。


「でも、みんなよくやった。お姉さんは誇らしいよ」


 セリカはバッと後方へ手を向けた。


「総員撤退!」

「「「了解!」」」


 こうして、アルス達「第三小隊」はアルスダンジョンの入口方向へ撤退した。


「……」


 だが、セリカだけは最後に後方に視線を向ける。

 まるで何かの気配を探るように。


「へえ。あの隊長さん、案外冷静なのね」


 暗闇で発せられた謎の声が届くことはなかったが──。


 







 ダンジョン女学院、シャワー室。


「いやあ、びっくりしたねぇ」


 頭からシャワーを浴びるセリカが、隣に向けて大きめに声を出した。

 シャワー室は上が吹き抜けのため、会話ができる造りになっている。


「今日の任務のこと?」

「そうそう」


 隣でシャワーを浴びているのは、ミリア。

 任務後、報告を終えて二人でここへ来たようだ。


「私も大型が出てくるとは出てくるとは思わなかった」

「まあそっちもだけどー、ワタシが言ってるのはアルス君のことだよ」

「……!」


 その名前に、ぴくりと反応するミリア。


「まさか絆を深めることで影響力が増すスキルなんてねぇ」

「……」


 任務時の事を思い出し、ミリアは少し口を閉じる。

 しかし、ニヤリとした表情のセリカは、ここぞとばかりに攻め始めた。


「アルス君のこと、気になってるんじゃない?」

「……っ!」


 その質問には、ミリア側のシャワー室からゴンっと音が聞こえてくる。

 シャワーヘッドを落としたようだ。


 それからミリアは、あわただしく答える。


「べ、別に何も!」

「へぇ。それにしては随分ずいぶんと彼のことを見ていたみたいだけど?」

「そ、そんなことない」


 クールで物静かなミリアにしては珍しく、取り乱しているように見える。


「じゃあそういうことにしておこうかなぁ」

「……もう」


 そう言うと、セリカ側からキュッと蛇口をひねった音が聞こえてくる。


 ミリアもほっと一息をつく。

 ようやく満足したのか、そう思ったのも束の間──


「なーんてね!」

「~~~ッ!」


 セリカは後ろからぎゅむっとミリアに抱きかかる。

 その両手は、ミリアの豊満な胸元を鷲掴わしづかみだ。


「わぁお。これはアルス君も大喜びですなぁ」

「セ、セリカ!!」

「あはは、ごめんごめん」

「……もう」


 顔を真っ赤にしたミリアは、両手で胸元を隠す。

 セリカも少しやりすぎたと思ったのか、謝るよう手を縦にしながら口を開いた。


「でもまあ、応援してるからね。ミリアとアルス君のこと」

「違うのに……」


 それから、二人で脱衣場へ向かいながらセリカが尋ねる。


「そういえば、ルージュはまた自主トレーニング?」

「うん、セリカが報告中に行った。……でも、今日はもうひとりいるみたい」

「もうひとり?」

「うん」


 普段通りクールに答えたミリアだが、少し口元が緩んで見えた。

 その反応に、セリカは「あ~」とうなづく。


「頑張り屋さんだねぇ、君も」





─────────────────────

いつもお読みいただきありがとうございます!

包み隠さず言うと、後半のシャワーシーンをえっちイラスト化してほしいので、良いなと思った方はどうか★★★をお恵みください( ノ;_ _)ノ


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なにとぞよろしくお願いします!!

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