第7話 頼もしい隊員たち

 「ここまでかな」


 隊を先導するセリカが右腕を横に伸ばす。

 その制止の合図と共に、後ろの三人も足を止めた。


「ここって……」

「そ。君がいた場所だよ」


 辿り着いたのは、アルスが閉じ込められていた石のあった大部屋だ。

 ほこらの規模から察するに、アルスダンジョンの中腹辺りだと考えられる。


 今回の任務は、この目的地までの経路確認。

 それを達成したところで、ルージュが口を開く。


「多少魔物は出たけど、前ほどではなかったわね」

「うん。そう思う」


 それにはミリアもうなずく。

 二人の意見は一致しているようだ。

 

 だが、セリカだけは様子をうかがうように周りを見渡す。


「……」


 何か考えがあるのかもしれない。

 それを確かめるように三人へ指示を送る。


「三人はそこで待機。ワタシが周りを見るよ」


 大部屋の奥、数段の階段を上った先にはアルスが閉じ込められていた石がある。

 昨日の今日ということもあり、紫の破片はまだ散らばったままだ。


「さてと」


 セリカはスカートから携帯端末を取り出した。


 これは学院から支給されているデータ機器──『エイフォン』だ。

 目の前の物をすぐにデータ照合できるという優れ物である。


「……詳細不明、か」


 しかし、アルスを閉じ込めていた石にはデータがない。

 これは今まで発見された遺物と、どれも一致しない証拠である。


「まあ、だよねぇ」


 だが、セリカは大方予想通りといった様子。

 ならばと、もう一つの考察を進める。


 このアルスダンジョンにおける “魔物の行動” についてだ。


(昨日、アルス君を救出するまで魔物はさほど出なかった。この部屋までの討伐数はちょうど今と同じぐらいかぁ)


 その結果、今と妙に状況が似ていることに気づく。


(じゃあ魔物は彼を狙ってた? でもなんのために? それとも別の何か──)


「……ッ!」


 だが、その瞬間にハッとするセリカ。

 振り返ったのは後方・・だ。


「しまっ──」


 その視線の先には、隊へ迫る大きな“手”。

 

「ケダモノ!」

「うわっ!?」


 それには、すぐさま隣にいたルージュが反応し、アルスへタックルするように突き飛ばす。


「「「……!」」」


 次の瞬間、アルスがいた場所には鋭く大きな爪が突き刺さった。

 ほんのタッチの差だ。


 だが、まさか助けられるとは思っていなかったアルスは、驚いた顔でルージュを覗き見る。


「ル、ルージュ……」

「勘違いしないで! 借りを作ったままが嫌だっただけなんだから!」

「いてっ」


 一度アルスを助けたルージュだが、無事を確認できるや否や、ぽいっと雑にどかす。


「それよりなんなのよ、今のは……!」


 すぐさま振り返った先は、少しの壁側。

 大きな爪がすうっと引っ込んでいった方向だ。


 あれが体の一部だとすれば、間違いなく魔物は“大型”にあたる。


 小型こそミリア一人で討伐したが、中型は小隊一つで対峙することを推奨される。

 さらに大型は、十程度・・・の小隊が連携してやっと倒せる強さとされている。


 そして──

 

「ギャオオオオオオォォォ……!」


 大部屋の壁を破壊し、轟音ごうおん咆哮ほうこうを上げながら一体の魔物が現れる。


 その大きさは言われるまでもなく、大型。

 加えて、データにも照合しない“新種”だ。

 

「うわあっ!?」

「チッ。しかも新種ね」

「おっきいまもの」


 アルス・ルージュ・ミリア、それぞれ反応は違えど、驚き焦った表情を見せる。

 それもそのはず、大型魔物相手に小隊一つで当たるなど本来あるはずもない事態だからだ。


 さらに── 


「「「グギャアアッ!」」」


 大型魔物の足元からは小型魔物も溢れ出て来る。

 すばしっこい小型魔物たちは、一気に四人を囲い込んだ。


 そんな中、セリカはアルスへ視線を向ける。


「……」


(やっぱりアルス君がこの部屋に現れた途端、魔物があふれ始めた。これが偶然……とは思えないなぁ)


 考察を進めたいが、目の前の状況に頭を切り替える。

 どうもよそ見をしている場合ではないようだ。


(逃げるのは難しい。ここはワタシが……!)


 腰を落としたセリカは、右手に力を込める。

 まるで覚悟を決めたような顔付きだ。


 だがそれを──ルージュが止めた。

 

「あんたにスキルは使わせないわよ!」

「ルージュ!?」


 ルージュの言葉に、セリカは苦い表情を浮かばせる。


「でも、それじゃアルス君を安全に帰らせることが──」

「そんな簡単に代償・・を負うんじゃないわよ!」

「……っ!」


 キッと眼差しを強くしたルージュは、セリカの両肩に手を乗せた。


「ここはアタシ達に任せて、セリカは指示を。それと──そこのケダモノ!」

「え?」


 ルージュはその強い眼差しを、次はアルスへ移す。

 そのままビシっとアルスへ人差し指を向けた。


「ボサっとしてんじゃないわよ! あんたのスキルはどこにいったのよ!」

「……!」


 ルージュは訳合ってセリカにスキルを使わせたくない。

 アルスはそのことを理解し、ルージュの言葉にハッとさせられる。


(僕が力になれれば……!)


「──ッ!」


 その気持ちに、アルスの≪キズナノチカラ≫が応える。

 先ほどは働かなかったはずが、アルスの体を光が包んだのだ。


「みんなにも!」


 不調だった原因は不明だが、とにもかくにもスキルは発動した。

 ならばと、アルスは光を三人へ波及させる。


「今だけは我慢してやるわよ、ケダモノ!」

「ミサイルおっきい」


 ≪キズナノチカラ≫の強化バフを実感し、ルージュとミリアは先制攻撃を繰り出す。

 狙いはひとず小型魔物たち。


「はああああああッ!」

「ちゅどーん」

「「「グギャアァッ!」」」


 だが、それぞれ昨日とは違う点に気づく。


「これって……」

「ミサイルもっと強い」

 

 ルージュの体術はさらに飛躍し、ミリアのスキルは威力を増した。

 ≪キズナノチカラ≫による恩恵が明らかに大きくなっていたのだ。


「もしかして……!」


 それと同時に、スキルの保持者アルスは自然と確信した。

 ≪キズナノチカラ≫の特徴──絆を深めるほど影響力が増す・・・・・・・・・・・・・ということに。


「これなら!」

「ええ!」

「いけるかも」


 その効果を肌で感じ、アルス達は再度セリカの元へ集まる。

 前方に意識を向けつつ、ミリアが口を開いた。


「私たちも援護する。全体の指示はセリカに任せた」

「……頼もしい隊員たちでお姉さんは嬉しいよ」


 ふっと笑ったセリカは、手を前方へ向けた。


「ミリアが周りを牽制けんせいしつつ、ルージュを先頭に前方を突破するよ! みんな決して無理はしないこと!」

「「「了解!」」」


 セリカの指示に従うよう、隊は動きを開始した。





─────────────────────

アルス君のスキルは、絆を深めるほど影響力が強くなるらしいですね!

これはもっと深める必要がありそう……?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る