第6話 男の子に近い感性

<三人称視点>


「改めて見ると不思議だよねぇ」


 アルスダンジョンを進む中、セリカがつぶやく。

 

「このほこらのことですか?」

「そ。あと君も」


 アルスが救出されてから一日。

 スキルを宿す男という前例のないアルスについて、短期間では何も分かるはずもなく。


 アルスやこの祠関連については調査待ちということになっている。


「僕としてはなるべく早く分かってほしい気もしますが……」


 昨日の“検査”を思い出し、アルスは少し顔を赤らめた。


 男が珍しいのは、何も女子生徒だけに限らないのだ。

 普段はスキルなどを研究する大人からも、アルスはあちこち検査や採取をされ、それなりに大変な目にっている(大変かどうかは人によるものとする)。


「それはごめんね。ワタシが学院に連れてきちゃったばかりに」

「いえ、それでも助けてくれたのがセリカさん達で良かったです。あのまま違う人に起こされてたらどうなってたか分かりませんから」

「もう甘え上手だねぇ、君は」

「わわっ!」


 ふふっと微笑んだセリカは、アルスの頭を胸元でぐりぐりとしながら抱きしめる。

 彼女なりの愛情表現のようだ。


「……!」


 だが、ふいにピタっと動きを止めたかと思うと、そのままアルスを手放す。


「てことで、魔物みたいだね」

「え?」


 前方に視線を向けるセリカだが、まだ何も見えていない。

 それでも彼女の言う通り、数秒後にそれは現れた。


「グギャアアア!」

「うわっ!」


 現れたのは、狼のような姿をした魔物だ。


「“小型” みたいだね」


 多くの種族が発見されている魔物だが、大まかに小型・中型・大型に分けられる。

 また、魔物も成長するにつれて大きくなる。


 つまり、基本的にサイズが大きいほど強い。


「ミリア、いける?」

「うん」


 セリカの指示により、静かに答えたミリアが前に出る。

 ルージュは周囲警戒、セリカはアルスを近くで守る形だ。


 だが、セリカの警告もあってか張り切っているアルス。

 隊の陣形は崩さないまま、支給品の剣を構えた。


「ミリア、僕も力になるよ!」

「ミサイルまたおっきくなる?」

「きっと! うおおおおおお──」


 感覚を思い出しながら、全身に力を込める。

 すると、あの時と同じようにアルスの全身を光が包……まない。


「おおお……あれ!?」

「アルス?」


 アルスのスキル──≪キズナノチカラ≫が発動しないのだ。


「ど、どうして!」

「うーん、何かトリガーが必要なのかなぁ」

「トリガー……」


 セリカの考察も重ね、アルスは悔しさをにじませる。

 ならばと、ミリアはくるりと魔物へ向き直った。


「じゃあ大丈夫」

「ミリア!」

「おっきくならないのは残念。でも、これぐらいなら──」


 その両肩にはすでにミサイルランチャーがセットされている。


「一人でもよゆー」

「グギャアアァァ!!」


 そこから発射された弾により、小型魔物たちは消え去った。


「ふんすっ」


 ミリアのスキル──≪機械仕掛けオートマタ≫。

 あらゆる機械を体から出すことができる。

 ミサイルランチャーに限らず、彼女らの移動用バイクもミリアが出している。


 多様性と利便性に富んだ有用スキルだ。


「体から機械を……」

「でも、ちょっと大変」


 だが、そのエネルギー源は食事から摂取している。

 ミリアは小食・・のため、バイクまでの大きさを出すのがやっとだ。


 しかし、総合的に見れば「なんかかっこいいもの」が好きなミリアにはぴったりのスキルと言える。


 そんなスキルを前に、アルスは声を上げた。


「かっこいーーー!」

「ふふん。そうでしょう」

「セリカさん達もそう思うよね!」


 目をキラキラさせて盛り上がるアルスとミリア。

 後方の二人も分かってくれると思って尋ねたアルスだが──


「あはは、強いとは思うんだけどねぇ……」

「アタシもさっぱりだわ」


 そうではなかったようだ。


「がーん」

「がーん」


 有用性は認めているものの、全く同性ウケしない性能がたまにきず。

 ミリアは男の子に近い感性を持っているのかもしれない。

 

「でも、アルスが共感してくれて嬉しい」

「……!」

「なんか元気出た」

「そっか!」


 普段はクールに見えるミリアが笑顔を浮かべ、アルスも嬉しそうな表情を見せる。


「じゃあ先に進もう、アルス」

「うん!」

「こらこら、隊の指示はお姉さんだってば~!」


 そんな調子で、一行は奥へと足を進める。





「……」


 アルスダンジョンの調査を進める中、隊の後ろでルージュはにらんでいた。


「ミリアのスキル、本当にかっこいいよ!」

「アルスが分かってくれて嬉しい」

「お姉さんにもちゃんと伝えてよぉ」


 周りを警戒しながらも、談話をする三人に向けてだ。


(あいつと馴染なじむなんて、セリカもミリアもどうかしてるわ!)


 心の中でも変わらぬ口調のまま、思い出すのは数々の出来事。

 中でも、昨日の「シャワー室事件」についてだ。


(もう金輪際こんりんざい関わらないと思ったから許しただけなのに……!)


 ルージュは右腕で胸元、左腕で股の方を抑える。

 顔も若干赤らめているようだ。


(裸を見られたオトコと一緒の隊だなんて! ~~~っ!)


 恥ずかしさ混じりの怒りを込めながら、ルージュは決意する。


(あいつの本性は絶対にケダモノだわ。アタシがこの三日間で正体を暴いてやるんだから!)


 だからこそ、ルージュは周囲の注意をおこたっていた。


「危ない!」

「──え?」


 上から降って来た瓦礫がれきに気づかなかったのだ。

 

「ルージュ!」

「……!」


 一早く気づいたアルスは、自分もろとも突っ込む勢いでルージュを退かす。


 次の瞬間には、ルージュのいた場所に瓦礫が降って来た。

 まさにギリギリのタイミングだ。

 

「いててて」

「アンタ……」


 だが、ルージュに対しては申し訳なさと少し怖さを覚えているアルス。

 無事と分かるや否や、すぐに頭を下げる。


「ご、ごめん!」

「……なんでアンタが謝るのよ」

「今のぐらい避けられたよね」

「……」


 答えはしないが、ルージュは理解していた。

 今のタイミングは避けられていなかったと。


「ちょっと、そろそろどきなさいよ」

「あ、ご、ごめん」

「……でも、まあ」


 視線は合わせず、左手で横髪をいじりながら、ルージュはボソっとつぶやいた。


「一応、あ、ありがと」

「……!」


 プライドも高く口調も強いルージュだが、感謝を忘れるような子ではない。

 しかし、アルスが感謝されると思っていなかったのもまた事実だった。


「って、いつまでくっついてんのよ!」

「うわわっ! ごめん!」

「ったく」


 立ち上がり、パンパンとスカートのほこりを払ったルージュはそのまま進行方向へ進む。

 一度感謝されたものの、また怒られてしまったアルスはしょんぼりと口を開く。


「また怒らせちゃったかな……」

「うーん、アルス君はにぶいよねぇ」


 だが、それにはセリカお姉さんがポンと肩を叩く。


「やるじゃん」

「え、どういう意味ですか?」

「さあねぇ。ほら進むぞ~」


 こうして、若干雰囲気が変わるきざしの見えた第三小隊であった。


 しかし、彼女らはまだ知らない。

 この先に “上位種” と呼ばれる魔物が待ち受けているとは──。

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