第5話 アルス審査期間

 「信っじられない!」


 ルージュの高い声が廊下にひびく。


「副校長は何を考えているのかしら! こんなケダモノを入れるなんて!」

「……」


 いつの間にか、呼び名が「ヘンタイ」から「ケダモノ」に変わってる。

 ルージュとは何度もハプニングが起きてるから、仕方ないかもしれない。


「しかも、どうして仮にもケダモノと一緒の隊なのよ!」


 どうやら副校長の決定にお怒りらしい。

 彼女には、セリカさんがなだめようとする。


「まあまあルージュ、アルス君もわざとじゃないんだよ」

「ふんっ! どうかしらね、このエロガキは」

「エロガキ……」

 

 副校長の話の後、さらに詳しく話を聞いた。


 このダンジョン女学院は、ダンジョン──五百年前の古代遺産──を探索するため、世界から精鋭が集められた場所。

 その中で、選ばれた優秀な生徒たち・・・・・・・は部隊に配属される。


 つまり、隊員に所属する者は “選抜メンバー” だ。


 こう見えてと言うと失礼だけど、三人は立派な部隊員。

 セリカさんを隊長とする『第三小隊』だ。

 そういえば、出会った時にもそう言ってた気がする。


 そして、そんな第三小隊に僕は仮入隊という形で配属となった。

 ルージュが怒っているのは、学院入学に加えてそのことに対してもだろう。


 そこまで思い出したところで、セリカさんが口を開く。


「まあ、少しでも顔を知ってるワタシ達の方が良いのは間違いないよ」

「どうしてですか?」

「さっきも君、モテモテだったし」

「~~~ッ!」


 セリカさんがいじわるっぽく笑みを浮かべる。


「すごい光景だったねぇ」

「あ、あれはただ物珍しさというか!」

「とにかく、任務の度にああなってちゃ話にならないからね」


 そうして、セリカさんはくるりとルージュの方を振り向く。


「だから、ルージュも納得すること」

「セ、セリカぁ……」


 それでもなお、ルージュは「えー」という顔のままだ。

 よっぽど嫌われてしまったらしい。


「それとね、そんな君達に朗報です」

「え?」

「早速だけど、いきなり任務をもらってきました」


 それから軽く説明を聞き、明日の朝に再度集合ということになった。







<三人称視点>


 次の日。


「セリカさん、ここは……!」


 学院からしばらく。

 バイクで山を登ったところで、アルス達は足を止めた。


「そ。君が閉じ込められてたとこだよ」

「じゃあ今回の任務って……」

「うん。ここの調査だね」


 ダンジョン女学院は、現在調査が進んでいる最前線・・・に建てられている。

 神聖オルタリア帝国の領土で言えば、中央あたりだ。


 アルスが閉じ込められていたのは小さなほこらだったが、そこも立派なダンジョンの一つである。


「ちなみに、ここは『アルスダンジョン』と名付けました。発見者のワタシが」

「……」


 微妙に恥ずかしい名前に、アルスは若干顔を赤らめて真顔になる。

 それはそうと、セリカは早速任務の説明を始めた。


「前は魔物がわんさかいたからね。今回は軽い調査のみだよ」


「わかったわ」

「了解」

「はい!」


 ルージュ・ミリアに続いてアルスも返事をする。

 そんな中で、セリカはアルスへと視線を向けた。


「それとね」

「?」

「これはアルス君のテストも兼ねてると思うよ」

「どういう意味ですか?」


 セリカは手を後ろで組んだまま続けた。


「ご存じ、学院は世界から精鋭が集まる場所。男の子でスキルを使えるのは珍しいけど、だからって即戦力とは限らないからね」

「な、なるほど」

「だからね」

「?」


 バチンっとウインクを決めたセリカ。

 その表情とはまるで反対の、怖い事を口にする。


「無事入隊となるか、学院の実験動物になるか、それは君の働き次第ってわけ」

「……!?」

「お姉さんとしては隊員になってほしいけどね。さあ行こー」


 おー、と手を伸ばしたセリカは一足先に歩いて行く。


「実験動物……」


 言葉の圧に恐怖を感じるアルスだが、それもあながち間違いではない。


 これはセリカなりの警告だ。

 頑張ってほしいと思うからこそ、かけている言葉である。


「……」


 足を進めながら、セリカは副校長との会話を思い出す。

 ここへ来る前、アルス以外の三人が集められた時に交わした話だ。


────


 早朝、副校長室にて。


「単刀直入に言うわ。あのアルスという男を“審査”しなさい」

「「「……!」」」


 セリカ・ルージュ・ミリアの三人に向け、副校長のカサイは言い放った。

 第三小隊を代表して、セリカが質問をする。


「審査とは?」

「つまるところ、使えるか、使えないかね。使えると判断した場合に限り、君達の第三小隊への正式入隊を認めるわ」

「……」


 何か考えるように無言になったセリカに対し、カサイは続ける。


「たしかに男でスキルを使えるというのは貴重よ。でも、それが戦力として望めるかはまた別の話になるわ」

「はい」

「貴重なればこそ、研究部に回した方が人類の利となる可能性すらある。彼の息子がスキルを宿すか試す為、種馬になってもらうなんて使い道もね」

「……」


 理解はしたが、納得はしていない様子のセリカ。

 だが、あくまで冷静に質問をぶつける。


「具体的には、どうすれば合格となるのでしょう」

「理解が早くて助かるわ。こうしましょう」


 副校長のカサイは、じろりと三人に視線を向けて言葉にした。


「君達三人には、彼を評価するため、それぞれ持ち点5点を与えます。そして、三人の評価が11・・点以上であれば、第三小隊への正式加入を認めます」

「「「……!」」」


────


「……」


(11点ね……)


 一見、三分の二以上を満たせと言っているようだが、これはまさに絶妙な数字。

 仮にセリカとミリアが満点5点を与えようとも、ルージュが最低1点以上をあげなければ合格とはならないからだ。


(ルージュがアルス君を嫌っている事を知っての提案か、それとも別の考えがあってか。まあ、どちらにしろ……)


 ふっと笑みを浮かべたセリカは、ボソっとつぶやく。


「いじわるだなぁ、副校長も」


 また、その後ろではルージュ・ミリア・アルスはそれぞれ違った表情を見せる。


「ぜったい入隊させないんだから!」

「またミサイルおっきくなるかな」

「実験動物ぅ……」


 様々な思惑が渦巻く中、アルス審査期間が始まった。

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