第4話 ダンジョン女学院の男子生徒

 「ハァ、ハァ……」


 学院に来て早々、女子生徒たちに追いかけ回されているアルス。

 ついにはスキルを使用され始めてピンチになる中、人が出入りしない部屋を見つける。 


 表には『シャワー室』と書いてあったが、言葉の意味が分からず、ひとまず入ってみることにした。


「ここなら隠れられそうだな……」


 不思議な箱がずらりと並んでいるが、外から見ていた通り人の気配はない。

 ようやく、ほっと一息つけそうな場所にありつけたのだ。


 しかし──


「ふんふふ〜ん」

「……!」


 部屋の奥から人の鼻歌が聞こえてくる。

 それと共に、水のような音も聞き取れる。


(またスキルか!?)


 アルスはすぐさま警戒態勢に入った。

 きょろきょろと周りを確認しながら、次なる一手を考える。


 だが、すでに部屋からは出られそうにない。


「……っ」


 ごくりと固唾かたずを飲んだアルスは──覚悟を決めた。


(ここにいるのはおそらく一人。なんとか説得してかくまってもらうしかない)


 そう結論付け、ジリジリと少女の声の方へと歩み寄る。

 しかし、その勇み足は甘く、当然のように気づかれてしまう。


「だれよ!」

「……!」


 シャっとカーテンが開き、アルスはそのまま床に叩きつけられた。


「えっ……!!」

「~~~っ!?」


 そして、お互いの目が合った瞬間、場の空気が固まる。

 それもそのはず、目の前に現れたのは濡れた赤髪の少女。

 シャワーを浴びていたルージュだった。


 さらにその体は──布一枚おおわれていない。


「い、いや、これはその……!」


 ただでさえありえない状況の中、アルスの胸元には二つの柔らかい感触が押し付けられる。

 それがより一層アルスを焦らせていた。


「……っ!」


 そのことに気づいたのか、ルージュはバッと体を遠ざけた。

 そして真っ赤な顔のまま、無理に口角を上げて話し始める。


「……来て早々にのぞきとは、中々度胸があるじゃない」

「こ、ここ、これは違くて!」

「やっぱりオトコってやつは……」

「ひいっ!」


 おおいきれないサイズの胸元を、ルージュは左腕で押し付けるように隠す。

 だが、反対の右腕はすうっと振りかぶるように動いた。


「死ぬ前に言い残すことはあるかしら」


 アルスはすでにパニック状態だ。

 もはやまともな言葉が出てくるはずもない。


「え、あ、いや……!」

「ないのね」


 ルージュは怒りを込めた手を、そのまま振り払う。


「じゃあ死ね! このヘンタイ!」

「ぼはっ!」


 スキル未覚醒ですら魔物と張り合うルージュのビンタだ。

 その威力は語るまでもない。


 そうして、当然のようにアルスは意識を失った──。







<アルス視点>


「ふ~っ」

「……ん?」


 鼻の辺りに甘い香りを感じて、自然と目を覚ます。

 ゆっくりと開いた目の先には──こちらを見下げるセリカさん。


「あ。やっと目を覚ましたね」

「え、あれ、僕は……」

「あんまり起きないから、お姉さんいたずらしちゃったっ」

「!?」


 じゃあ今、鼻に感じたのはセリカさんの吐息!?


 それに、後頭部の柔らかい感触。

 目の前にある、セリカさんの顔をさえぎる大きな二つの山。


 この態勢はまさか!?


「うわあっ!」

「わお」


 自分の状況を理解して、僕はとっさに態勢を起こした。

 セリカさんは「ちぇ~」と言いながら頬をふくらます。


「なーんだ。お姉さんの膝枕はもういいの?」

「だ、だだだ、大丈夫です!」


 心臓がバクバクしながらも断っておく。

 さらに、後方からも声が聞こえてくる。


「ほんっとにヘンタイだわ」

「ル、ルージュ……!?」


 腕を組んだルージュだ。

 だけど、その姿を直視できない。


「……っ!」


 どうしてもさっきの姿がフラッシュバックしてしまうからだ。


 でも、ハプニングとは言え、やってしまったのは事実。

 気が動転しそうになるけど、さすがに謝るべきだと思う。


「さっきはごめん!」

「……」

「ひっ!」


 ルージュは口を閉じたまま、じろりとこちらに視線を移す。

 また何かされるかと身構えるも、そうなることはなく。


「ふんっ、まあいいわよ。わざとじゃないのは聞いたから」

「……!」

「それに、これであんたとは金輪際おさらば・・・・だもの」

「え?」


 許したというよりは、気にしないことにした感じに見える。

 言葉の通りなら、もう会わないと聞こえるけど、一体どういう意味なんだろう。


「あの、おさらばって……?」

「それは私から説明しよう」

「!」


 話の中、部屋に一人の女性が入ってくる。


 紫色の髪に、口紅が特徴的なキリっとした大人の方だ。

 この人が入ってくると同時に、セリカさん達も姿勢を正した。


「君がアルス君ね」

「は、はい……」

「私は校長の『カサイ』よ。副司令官なんて呼ばれ方もするわ」


 カサイさんは、机に手を付いて話を始めた。

 副校長ということは、この学院で二番目に偉いということなのか。


「君には色々と尋ねたいこともあるけど、まずは一つ通告よ」

「……っ」

 

 突き刺すような鋭い眼光だ。

 でも、副校長はその圧に負けないほどの衝撃を言い放った。


「君はこの学院に通ってもらうわ」

「え」

「は」


 その言葉に、僕と一緒に隣のルージュも口を開いた。

 もしかしてルージュは、この通告で僕と離れられると思ったのかもしれない。

 だけど、告げられた内容はまるで逆だった。


「本日からは、皆と同じ一つ屋根の下よ」

「ええええええっ!?」

「はあああああっ!?」


 こうして僕は、全員が女性という学院の中、たった一人の男子生徒としてここに通うことになるのだった──。





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初日の更新はここまでです!

お読みいただいた通り、健全な学園ファンタジーです!

おかげで作者も筆がノッています!


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