第3話 オトコの価値

<三人称視点>


「じゃあここで待っててね、アルス君」

「は、はい……」


 アルスが救出された場所から、山を下ってしばらく。

 "バイク”と呼ばれる近代的乗り物により、アルスが連れてこられた先は──学院。


(これが、ダンジョン女学院……!)


 その壮大な建物に対して、アルスは思わずあちこちに視線を向ける。


 全体的に白銀でできた校舎。

 横は首を振るほど長く、縦にも見上げるほど高い。

 敷地面積は街のように広いため、全貌ぜんぼうは到底見渡すことができない。


「でも、セリカさんが言うには……」


 ここはダンジョン学院。

 スキルやダンジョンを探索するための精鋭を育てる場所なのだ。

 それが女性のみなのは、スキルの特異性にある。


「本当にスキルは女性しか使えないんだね……」


 ここに来るまで、セリカ達から軽く話を聞いたアルス。

 そこでの話を今一度まとめることにする。


 まずは──『スキル』。

 この世界で生まれ持つ固有の能力のことだ。

 火を操る者、自らの姿を変える者、自身に合った武器を具現化させる者など、その能力は多岐たきにわたる。


 しかし、スキルは女性にしか宿らない・・・・・・・・・

 そのはずが、アルスだけは唯一男なのにスキルが使える。

 その謎のこともあり、一旦学院へ連れてこられた形なのだ。


「それに、ダンジョンか……」


 五百年前、この辺りは超大国『神聖オルタリア帝国』が支配していた。

 神聖オルタリア帝国はスキルの “起源” の国。

 自国から生まれたスキルを使い、スキルをぎゅうることで、世界の覇権を握っていたという。


 しかし、それが一夜にして滅亡。

 原因は、突如として魔物が大量に発生した『魔物災害』だと言われている。


「恐ろしいこともあるんだな……」


 神聖オルタリア帝国が滅亡後、国があった場所は廃墟はいきょとなった。

 しかし、帝国の技術や研究は素晴らしいものばかり。

 その五百年前の帝国の遺産のことを『ダンジョン』と呼ぶのだ。


 そんなダンジョンを調査するため、世界中から精鋭が集められた場所がこの『ダンジョン女学院』である。


 そうして話をまとめたところで──


「きゃああああああああ!」

「え?」


 悲鳴、もしくはきょう声のような叫び声が聞こえてくる。

 どうやらアルスのことを見ているようだ。


「オトコよ! オトコがいるわ!」

「嘘、どこどこ!」

「あそこよ!」


 振り返った先には、セリカやルージュと同じ服を着た女の子たち。

 これらは『制服』と言うらしい。

 つまり、ダンジョン女学院の生徒たちだ。


「どうしてオトコが!?」

「ねえねえ、そこの男の子~!」

「あ、ずるい私も!」


 最初は戸惑いを見せていた生徒たちも、一人が行くと途端に勢いがつく。

 結果的に、女の子たちがアルスに向かって一斉に走り始めた。


「「「ちょっと~!」」」

「いぃっ!?」


 だが、あまりに異様な光景に、アルスは思わず反対方向へ走った。


 アルスはまだ理解していなかったのだ。

 この学院において男がどれだけ珍しい存在か。


 そして──


「「「待ってーーー!!」」」

「なんでこうなるのーーー!?」

 

 これから待ち受ける苦難の日々を──。





「うわあああああああっ!」


 学院内を爆走するアルス。

 もちろん、追ってくる女の子たちから逃げるためだ。


「「「待ってよ~~~!!!」」」

「なんで追いかけられるの!?」


 何が何だか分からないアルスだが、こうなっている理由は世界の構造にある。


 スキルには様々なものが存在する。

 中には≪長寿≫であったり、≪生命活性化≫など、寿命に関するものもあるのだ。

 すると、男女間には寿命においても差が出てくる。


 その結果、世界の男女比は約1:100。


「なんで逃げるのよー!」

「追いかけてくるからです!」


 さらに言えば、この女学院に集められるのは精鋭たち。

 女性優位のこの世界では、英才教育の場は女性しかいない場合がほとんどだ。

 幼少からエリートコースを歩んできた彼女らには、同年代の男を見たことない者も多い。


 すなわち──


「「「待って〜〜〜!!!」」」


 男への免疫がほぼゼロである。


「うわーーー!!」


 捕まれば何をされるか分からない。

 そんな気持ちで逃げ惑うアルスだが──ついに女子達が本気を出し始めた。


「じゃあもう、≪俊足≫!」

「んん!?」


 人外の速さで追いかけてくる者、


「私だって! ≪壁生成≫!」

「ええっ!?」


 何もない場所から壁を作る者など、あらゆるスキルを用いてアルスを捕まえようとする。

 だが、多くのスキルがかち合った結果、かえってアルスを捕まえられない。


「ちょっと邪魔しないでよ!」

「邪魔したのはそっちでしょー!」

「あれ、あの子は!?」

 

 その隙にアルスは身を隠すことに成功した。

 しかし、もう出ていくことはできない。


(くっ、もう逃げ場が……。──!)


 そんな中、なぜか人が出入りしない部屋を見つける。


「しゃわーしつ……?」


 文字は読めるが、言葉の意味は分からない・・・・・・・・・・・


「もうここしか!」


 迷っている暇はないと、思い切って『しゃわーしつ』へと飛び込んだ。

 それが『シャワー室』とは知らずに……。

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