第2話 男の子なのに

 「男の子なのに!」

「え?」


 セリカさんの言葉には戸惑いを隠せない。

 スキルの話に、唐突に男女の話を持ち出してきたからだ。


「それってどういう意味で──」

「グオオオオオオオ!」

「「……!」」


 だけど、その違和感を取り除く前に魔物が咆哮ほうこうを上げる。

 そうだ、ピンチはまだ去っていないんだ。


「その話はここを切り抜けてからね。ルージュ、ミリア!」

「しょうがないわね!」

「了解」


 セリカさんはそのまま僕の近くに、その前後をミリアとルージュが埋める。

 そんな中、セリカさんはチラリとこちらに視線を向けた。


「アルス君。そのスキルの名前わかる?」

「名前……」


 少し意識をすると、自然と頭の中に浮かぶ単語がある。


「≪キズナノチカラ≫?」

「うーん、聞いたことないなぁ。じゃあその≪キズナノチカラ≫、お姉さん以外の二人にも使える?」

「……! やってみます!」


 言われた通り、僕はもう一度≪キズナノチカラ≫を発動するべく力を込める。

 何をどうすれば良いか分からないけど、体が動くままに!


 すると──光はルージュとミリアまで届いた。


「これがヘンタイの力?」

「ミサイルがおっきくなった」


 反応はそれぞれでも、受けた恩恵は同じに見える。

 やはり僕のスキルは『人を強化できる』ということか?


 そうして、ニヤリとしたセリカさんが再度指示を出す。


「ワタシはアルス君を守る。二人ともやれる?」

「もちろん!」

「任せて」


 もう一度、臨戦態勢に入った二人。

 

「ミサイル」


 先ほどと同じく、ミリアは両肩から兵器のようなものを生やす。 


「ちゅどーん」

「「「グギャアアアアア!!」」」


 そこから発射された弾は全て命中。

 やっぱりすごい。


 だけど、ミリアは不思議そうにこちらを見つめてくる。

 何か感じることがあったみたいだ。


「なんか威力が強い」

「え?」

「アルスのおかげかも」

「!」


 僕の力はスキルにも影響があるのか?


 自分の手を見つめている内に、隊は次の行動へ移行する。

 後方で、単身前に出たのはルージュだ。


「そういえば、ルージュはどんなスキルを!?」

「ルージュは持ってないよ」

「え?」

「でも大丈夫」


 セリカさんが答えてくれる。

 その目は仲間としてルージュを心から信頼しているようだ。


「ルージュは唯一、スキル未覚醒のまま入隊した努力家。彼女の戦闘術は──」

「はあああああああッ!」

「スキル持ちにも匹敵する」


 素手のまま、ルージュは魔物の足元から頭上までを一気に駆け上がり、目にも止まらぬ速さで攻撃を繰り出した。

 あんな巨体を持った魔物にも全くおくすることがない。


「さ、三発も殴った……」

「ううん、五発だね」

「えっ!?」


 速すぎて僕の目には追えなかったらしい。


「グオ、オォ……」

「ふぅ」


 倒したことを確信したのか、ルージュは両腕を下げて息を整えた。

 ぴくぴくっとした挙動を見せた魔物は、膝を付いて消え去っていく。


 それから、セリカさんが自分のことのように付け加えてくれる。

 まるでルージュのすごさを知ってほしいみたいだ。

 

「厳しい鍛錬に、魔物に関する深い知識。その二つあってこその戦闘術なんだよ」

「す、すごい……」

「いつもより動きが良いみたいだけどね」


 だけど、その言葉にはルージュがぴくりと反応を示した。


「これぐらい通常運転よ! そのヘンタイの恩恵なんか受けてないんだから!」

「素直じゃないねー、ルージュは」

「ほ、ほんとだもん!」


 ニヤニヤとルージュを指しながら、僕の方にウインクを飛ばすセリカさん。

 そうか、僕のスキルも少しは役に立っているのか。


「さあ、もう少しだよ。二人とも!」

「聞きなさいよー!」

「うん」


 こうして、僕たちはなんとか危機を乗り越えた。





「で? このヘンタイはどうすんのよ」


 あれから少し。

 魔物を片付けた後、三人は僕の事を色々と話し合っていた。


「とりあえず学院まで送った方がいいんじゃないかなぁ。スキル持ってるし」

「私もそう思う」

「……まあそうね。汚らわしいけど」


 話を進める三人だけど、僕は記憶を喪失している。

 当然、着いていけるはずもない。


「あ、あの!」

「ん?」

「学院ってなんのことですか? それに今の世の中は一体どうなってるんでしょうか!」

「んー」


 話がまとまったところで、思い切って尋ねてみた。

 それには、人差し指を口元に当てたセリカさんが答えてくれる。


「まあ、詳しく説明するのは着いてからにするとしてー」

「は、はい……」

「一つだけ言っておくと、君は “特別な存在” っぽいです」

「え?」


 セリカさんは、下から僕を覗き込みながら続けた。


「さっき君は《キズナノチカラ》というスキルを使ったよね。それが少し変なんだよね」

「変、とは?」

「この世界では、女性にしかスキルが宿らない・・・・・・・・・・・・・んだよ」

「!?」


 だけど、唐突に衝撃的な事を告げられる。


「じゃあ、僕はどうして……?」

「そこなんだよねぇ。それに、この場所に閉じ込められていたのも気になる。だからとりあえず案内するよ」

「案内?」

「そ」


 セリカさんは人差し指をピンと立てた。


「ワタシたちの『ダンジョン女学院』に」

「ダンジョン女学院……」


 聞いたこともない場所だ。

 それがセリカさん達の学院か……って、え!?


 だけど、途中で聞き捨てならない一文字が入っていたことに気づく。


「ダンジョン……学院!?」

「ふふっ」


 ニヤっと微笑んだセリカさんは、楽しそうに言葉にした。


「その名の通り、生徒は女性だけ。ちなみに先生もね」

「え、えええええええええ!?」


 こうして僕は、『ダンジョン女学院』という女性の園へと案内されることになった。





─────────────────────

いざ女性のみの学院へ……!?

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