ダンジョン女学院の男子生徒~目覚めたら女性しかスキルを使えない世界だったけど、僕だけスキルを使える男みたいです。貞操が逆転してる学院で唯一男子の僕は、気がつけばハーレムに!?~

むらくも航

第1話 三人の女の子

 「死ぬ前に言い残すことはあるかしら」


 顔を真っ赤にした女の子が、こちらをにらみながら告げる。

 目の前にあるのは凹凸おうとつのある肌色。

 つまり──女の子の裸だ。


「え、あ、いや……!」

「ないのね」


 心臓がバクバクして言葉が出てこない。

 あわあわしている内に、頬に強烈な衝撃を覚えた。


「じゃあ死ね! このヘンタイ!」

「ぼはっ!」


 ビンタと共に、僕の顔が勢いよく横を振り向く。


 な、なんでこうなったんだっけ。

 意識を失う寸前、僕はここに至るまでの事を思い返していた。







「……ん?」


 カンッ、カンッ、と金属音のようなものが聞こえる。

 耳に響くようなそれに反応して、徐々に目を開いた。


「なんだ、これ……」


 半開きの目のまま、少し周りを見渡す。


 前方には薄紫色の壁のようなものがある。

 体は直立で固定され、うまく動かせない。


 まるで姿勢を固定されたまま、大きな石に閉じ込められているような状態だ。


「今助けるよ!」

「……!」


 金属音と共に、外側から声が聞こえてくる。

 

 助ける?

 そうか、この大きな石から出そうとしてくれているのか。

 金属音は石をなんとか壊そうとしていた音みたいだ。


「うーん、結構かたいねぇ」

「そうらしいわ」

「どうしよう」

 

 外側にいるのは……三人の女の子?

 みんなそろって同じ格好をしている。

 

「うっ」


 まだちょっと意識がもうろうとする。

 随分ずいぶん長く眠っていたのか、目も開きにくい。

 ──けど、そんな甘えは目の前のものを見た途端に吹っ飛んだ。


「じゃ、私のミサイルランチャーで」

「……え?」


 一人の女の子の両肩から、穴ボコの四角形の兵器みたいなものが飛び出す。


 “ミサイルランチャー”が何を指すかは分からないけど、明らかにやばい。

 まさかそれを僕に目掛けて!?


「ちゅどーん」

「うわあああっ!」


 それが発射される寸前、まばゆい光と共に封印が解ける。

 僕はそのまま勢いよく飛び出した。





「う、うーん……」


 光にやられたせいか、目を開けるのがやっとだ。

 すなぼこりもたっており、視界も悪い。


 そんな中、偶然に何か柔らかいものを掴む。


「うん?」


 ふにふにとした気持ち良い感触。

 微妙に手に収まりきらないサイズ感。

 なんだこれ。


「ちょっと」

「え?」


 そうして、段々と砂埃が消え始めたところで女の子の声が聞こえる。

 さっきの"ミサイルランチャー”の人とは違う声だ。


 それに……怒ってる?

 そんな予想は大当たり。


「どこ触ってんのよー!」

「ぐはっ!」


 何がなんだか分からいまま、僕はぶっ飛ばされた。


「いてて……」


 ぶっ飛ばれた先で、少しづつ目を開く。


 “ミサイルランチャー”に、ビンタ。

 嵐のような目覚めだったからか、意識は完全にハッキリとした。


 すると、真っ赤なツインテールの人が、胸元を抑えながらこっちを睨んでいる。


「このヘンタイ!」

「?」


 僕に怒りを向けているらしい。

 どうして……って、まさか!


「え、ええ!」


 さっきの柔らかな感触。

 もしかして、今のはあの人の……!?


「その感触を思い出す手をやめなさい!」

「は、はいっ! ごめんなさい!」


 真っ赤な髪の人は、ギラリと怖い目を向けてくる。

 その怒りの表情のまま、ズンズンと歩いて来るのを──明るい茶髪ショートヘアのお姉さんが止めた。


「落ち着きなって、ルージュ。この子もわざとじゃないよ」


 優しくなだめるような声だ。

 この人も“ミサイルランチャー”の人とは違う。


 もしかして僕をかばってくれてる?

 それでも、真っ赤な髪の人は反抗を続けた。


「セリカ! アタシはみしだかれたのよ! あんな露骨に、三回も! あんなのわざと以外ありえないわ!」

「まあまあ、視界も悪かったんだし」


 そんな明るい茶髪ショートの人は、微笑みながらこちらに寄ってくる。

 まるで弟でも見るかのような表情だ。


「君、大丈夫?」

「……! は、はいっ!」


 屈んだからか、胸元がチラリと見える。

 それに目を逸らしつつ、しどろもどろに答えた。


「ワタシは第三小隊隊長セリカ。あっちでぷんぷんしてるのは、同じ隊員のルージュだよ」

「ふーんだ」


 セリカさんが目を向けるも、ルージュさんはぷいっと顔を逸らした。


「うちのルージュがごめんねぇ」

「いえ……って、うわっ!?」


 優しく話しかけてくれたからと思ったら、そのままぐいっと頭を引き寄せられる。


「痛かったねぇ。お姉さんがよしよししてあげるから」

「~~~っ!」


 急な出来事に頭がパニックになる。

 柔らかいものに包まれて苦しい!


「じゃあ君のことも教えてくれる?」

「は、はい」

こんなところ・・・・・・にいるなんて、それなりの事情を持ってそうだけど」

「僕は……あれ?」


 だけど、その瞬間に違和感に気づく。

 今までのことを全く思い出せないんだ。


「す、すみません。あれ、どうして」

「もしかして記憶喪失かな。自分の名前は分かる?」

「名前は……アルス、だと思います」


 なんとなくしっくりくる名前を答えた。


「アルス君だね。見た感じ、お姉さんより少し年下の十六歳前後かな。他の二人は同年代ぐらいかも。呼び方も好きにしていいからね」

「ちょっと! ヘンタイに勝手に許可しないでよ!」

「ほら、いいって」

「あ、あはは……」


 そんな中、二人ではない新たな声が聞こえる。


「みんな、遊んでる暇はない」

「……!」


 少し低く、冷静な声色だ。


 声の主は、サラサラの黒髪ストレートの人。

 表情はあまりなく、クールそうに見える。

 間違いない、僕に“ミサイルランチャー”を撃とうとした人だ。


「魔物が来た」

「「……!」」


 黒髪の人の声に応じて、セリカさん、ルージュは即座に立ち上がる。

 二人も目の色を変え、今までとはまるで雰囲気が違う。


「アルス君はワタシたちが守るよ」

「は、はい……うぐっ」


 だけど、ここにきて頭痛がする。

 まるで“魔物”という単語に何か引っかかるかのように。

 

 そうしてすぐ、魔物が僕たちの前に現れた。


「グオオオオオオオオオ!!」

「ひいっ!?」


 思わず見上げるような大きさの、黒い獣。

 まるで化け物だ。

 しかも、その後ろにも小さめの魔物がまだまだ控えている。


「……っ!」


 それに、妙に心がえぐられるような感覚がある。

 僕は“魔物”を知っているのか?


 そんな中、ミサイルの人は先頭に立ってこちらを振り向く。


「その子を守ってて。私がやる」

「任せたよ、ミリア」

「うん。私のミサイルで抑える」


 名前はミリアというそうだ。


 ミリアの両肩からは、またも四角形の兵器のようなものが現れる。

 さっき僕に発射しようとしたやつだ。

 あれが“ミサイルランチャー”なんだろう。


「ちゅどーん」

「「「グオオオオオ!」」」


 発射された多数の弾は、ひゅるひゅると旋回せんかいしながら全弾命中。

 前の魔物から次々と倒れていく。


「す、すごい……!」

「ミリアの『スキル』は一対多数に向いてるからね。うちの切り込み隊長だよ」

「スキル?」


 思わず聞き返すと、セリカさんが微笑みながら答えてくれる。


「人が持つ“固有の能力”のことだよ。生まれ持つ場合もあれば、ある日ふいに覚醒する場合もある。でもそれは──……!」

「うわっ!?」


 だけど、話の途中でセリカさんに抱えられて横へ回避する。


「これは呑気に話してる場合じゃないかなぁ」

「え? ……っ!」


 セリカさんと同じ後方へ視線を向ける。

 そこにいたのは、さらなる魔物たち。


「「「グオオオオオオ!!」」」


 その多さには、セリカさんも少し焦った笑みを浮かべる。

 予想以上の数だったのかもしれない。


「って、セリカさん、その傷……!」

「大丈夫。こんなのかすり傷だよ」

「でも!」


 セリカさんの片腹から血が流れている。

 とてもかすり傷なんかじゃない。


 回避のタイミングで僕を庇ったからか、後方から遠方の不意打ちをもらってしまったみたいだ。


「君は守ってみせるから」

「──!」


 その表情を見れば分かる。

 痛みを耐えながらなお、僕を守ろうとしてくれているんだ。


「……っ」


 これは僕のせいだ。


 女の子にチヤホヤされて浮かれたのも。

 ミリアの強さに油断したのも。

 それでセリカさんが傷を負ったのも


 僕も何か力になれたら……!


「──!」


 そう願った瞬間、体からまばゆい光があふれだす。


「アルス君! その光は!?」

「わ、わかりません!」

「って、ワタシの傷が治ってる……?」


 その光は近くにいたセリカさんに波及し、彼女を包み込む。

 かと思えば、セリカさんの腹の傷をやした。


 さらには──


「お姉さん、力が湧いてくるみたい」


 手をぐっぱっと確かめるようにしているセリカさん。

 この現象に、僕の方を見て声を上げた。


「アルス君、これは君のスキルなの?」

「ぼ、僕も驚いてます……」

「そんな……」


 記憶を喪失する前に会得したのだろうか。


 でも、この重要な場面で役に立てるなら!

 ──と思ったが、セリカさんからは予想の斜め上の言葉が飛び出す。


「男の子なのに!」

「え?」


 それってどういう意味ですか?





─────────────────────

新作です!

第1話は長めですが、第2話以降はもう少し短めで更新できたらと思います!

続きが気になりましたら、ぜひフォローよろしくお願いします!


☆出てきた女の子

セリカ:明るい茶色ショートヘアのお姉さん


ルージュ:ぷんぷんした赤髪ツインテール


ミリア:クールな黒髪ストレート

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