第21話バスケ前半戦、飛躍の時

紗理奈ちゃんが速攻をかける。私は向かって行った。仁美ちゃんをマークすれば、私達の勝ち確定だろう。


けど差はまだある。勝負に勝つより前に楽しまなきゃね。表情を緩めて、仁美ちゃんではなく、紗理奈ちゃんに挑んだ。


「抜かせないよ。」

  

ボールに視線を集中させた。ドリブル音が微かに聞こえる。


「フッフッっ、1on1で私に勝てた人、先輩ですらいないんですよ?」


紗理奈ちゃんが笑って、言葉通りに瞬時に抜き去る。上手すぎ…次元が違うね。


まぁ知ってるけど! ここは諦めて、体力温存。スタミナが無くなった、紗理奈ちゃんなら私でも勝てる。


そう思い2点は、くれてやった。


22対6点、5分が経過していた。


行きますか。これからは私もシュート参加。

4点取れば勝てる。


そして私は、泉ちゃんからパスを受け取り、ドリブルして進んだ。


紗理奈ちゃんと、仁美ちゃん両方にディフェンスされて、あっさりと紗理奈ちゃんがボールを奪う。


くっ…私はくるりと反転して、追いかけた。


…が紗理奈ちゃんがスリーポイントシュートを放つ。


…決まった…そんなのありかよ。無常にも、スッと、ボールが鮮やかにゴールネットを揺らす。


いや…紗理奈ちゃんは、スリーポイントの名手だった。


あまりに1人だけバスケ上手すぎて、孤立して先輩と揉めたんだよな。


気を取り直してと。泉ちゃんが心配そうに、ゴール付近から、中央に来た。


それを見てここは、泉ちゃんにパスをした。しかし、泉ちゃんは、ドリブルが遅かった…


すぐに紗理奈ちゃんが速攻で取る。


うぉい手加減しろぉい。そしてスリーポイントシュート決まった。


いやいや、決めすぎ。少しは、外せよー。


22対12…既に10点差かよ。


だけど、もう8分経った。10分で10点差なら上出来。


泉ちゃんが、駆け寄って謝りに来た。


「ごめんなさい…役立たずです。」


泉ちゃんが哀しみを帯びた目で訴えた。


「そんなことない、私も何も出来ないんだから。むしろ泉ちゃんが2点取ったんだから、大活躍よ。」


私は彼女を励まして、作戦変更して、泉ちゃんもドリブルに参加させると伝えた。


そして泉ちゃんにパスをした。それで取られても構わない。カバーすると伝えていた。


泉ちゃんがドリブルをする、紗理奈ちゃんがすぐにボールを奪う。


心が痛むな。けど真剣勝負って訳だから、それだけが勝ちに意味が出て来るってもんよ。


紗理奈ちゃんがスリーポイントシュートを、打つ構えを見せた。私はジャンプして、止めにかかる。


が…紗理奈ちゃんは、シュートをせず、仁美ちゃんにパスを回した。


くっ…させるか! すぐに仁美ちゃんに向かって行った。しかし罠だった…仁美ちゃんが私を見て、すぐに紗理奈ちゃんにボールを戻す。


しまった…16点になる…最後の最後に7点差。


スリーポイントシュートを紗理奈ちゃんが放つ。外せ〜そう思って見つめるしか無かった。


が…紗理奈ちゃんの背後から泉ちゃんが飛んで、ブロックを決めた! 


泉ー! お前天才かよ!


「ナイス!」


思わず私は、声が出た。


ボールは、コート外に弾かれていた!



「へぇーいずみんやりますね! 全然気が付かなかった。」


紗理奈ちゃんが褒めた。


「おおー! 紬ちゃんより活躍してね?」


仁美ちゃんが、敵チームなのに喜びながら言う。


「うぅ…皆んなが褒めるよぉ〜。スポーツってずっとつまんないと思ってましたけど、こんなに楽しいんですね。」


泉ちゃんが涙を流して、眼をさすりながら、言う。


それを見て私は駆け寄り、背中を撫でて、良くやったねと伝えた。


その時拍手が起こった。何事かと思って、周りを見回すと、知らない人達が、泉ちゃんに応援の声を掛けた。



頑張ってと黄色い声援が送られた。 


「泉ちゃんファンか〜。良かったね、泉ちゃん」


私がそう言うと、彼女が頷いた。


紗理奈ちゃんがボールを持ってきた。さ、あと1分あるよ。手加減はしないからね!


泉ちゃんにボールを渡してと伝えて、試合を再開した。


泉ちゃんから貰ったボールを手に取った。


このボール絶対に渡さん!


紗理奈ちゃんが私にマークする。抜かすことは考えずに、1分過ぎるまで、取らせないようにした。


攻める振りをして、紗理奈ちゃんを惑わす。仁美ちゃんまで接近して来た。


ちぃ…渡すかー! 私は必死に逃げ回った。


1分経った…ふぅ命払いしたぜ!  


はぁはぁ…やば…い…先に私がバテそう、いやもうバテてる。キッツー!


脚がパンパン! そりゃそうか。あの紗理奈ちゃん相手にしてれば、疲れるよな〜。


「それにしても良く止めたね!」


休憩時に泉ちゃんに声を掛けた。


「はい、スリーポイント決まるの嫌だなって、思いました。2点シュートなら良いかって感じだったので、そこからは、無我夢中で…身体が動いてました。」


「そっか、泉ちゃんのおかげで10点差のままだよ。」


彼女はそう言うと胸を撫で下ろして、後半も頑張りましょうと、微笑んで言った。



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