第19話友情のコートでハッピーな紛争

「紬ちゃん引き分けでした。勝負お預けになりました。」


泉ちゃんがラウンドのバスケエリアの片隅で残念そうに語った。



「そっかー。手強いでしょ?」

 


仁美ちゃんの勝負強さと、計算高さを賞賛する様に言った。でもその仁美ちゃんと引き分けするのも、泉ちゃんは凄いと思った。



「はい。でも紬ちゃんなら勝てますよね。」


当たり前の様に彼女が言う。いや〜そんな祀られても困っちゃうよ。



ふと上に視線を上げると、高い天井から、明るい照明が見え、地面に黄色いフロアマーキングペイントに反射していた。



「どうかなー? 泉ちゃんの為なら勝てるかもね?」


上手く返したな。我ながら…ちょっと恥ずかしい台詞だったか。


「それって愛の告白ですか? 喜んで受けます。


…おーい、凄い受け取り方したなこいつ。


「ちゃうわ! ぶちころすよ?」


吹き出しながらも、シャレで返した。


「紬ちゃんなら殺されても良いです。」


ガチで言ってるな泉ちゃん…Mなのか、この子は!


「バカ…本当にやるわけないでしょ。本当に冗談にマジに答えんなつーの。」


肘で突いて、楽しそうに微笑んで言う。


「ちょっとそこ! イチャイチャしない。」


仁美ちゃんが私たちを指差して、怒った。


「良いな〜私も〜。」


紗理奈ちゃんが、子供の様に物欲しそうな表情と、口に人差し指を咥えそうにしている。


ゆっくりと近くに寄って来た。


「なんだよ〜。」


紗理奈ちゃんの肩に手を預けて言った。


「私にナデナデしてつむたん。」


まったく〜子供かよ! 彼女の大きな瞳がせがんでいるかの様に見えた。


「しょうがないな〜ほら。」


髪を撫でてあげると、紗理奈ちゃんの幸せそうな表情が猫に見えた。


どんだけ幸せな顔すんだ。その様子に微笑みながら、何度も撫でてあげた。


「うわぁ〜つむたんのナデナデ、幸せデス。」


こっちまでハッピーな気分になるな。

ふと視線を紗理奈ちゃんから離すと、何やら不穏な影が近寄る…その正体は、泉ちゃんだった。


「へー紬ちゃん…仲良いね。」


怖っ…怒りとも悲しみとも言えない、絶妙な氷を食べた後に発した声にも聞こえる。


そう冷たさを感じる声。女子の役者さんが、ストーカー役をやってる時の、どうしてなの? 私じゃ駄目なの? そのトーンに似ている。


「泉ちゃん何どうした?」


嫉妬か? やはり嫉妬なのか? するのは良いけどめっちゃ恐怖を感じるんですけど。


「別に…なんでもないです。」


プイと顔を私から逸らした。あっ、ちょっと可愛いと思った。拗ねた顔に指で、小突いてあげたくなった。


「いや〜つむたんありがと、ちょろい。」


紗理奈ちゃんがお礼を言う。


「最後に余計な事言ったね。こら!」


聞き漏らさんぞ! こいつめ。


「うへへ、本音が。」


鼻を指すって照れてるのが分かるほど、頬が真っ赤に染まっていた。


「ってかちょろいって私の台詞じゃない?」



「私ちょろいですから、もっと可愛がって下さい。」


「こいつ〜。」


「はいそこ! イチャイチャしない!」


仁美ちゃんが叱る。これはデジャブだ。


「ひとみんも、混ざりたい?」


「混ざるかー。私は君たちと違って甘えん坊じゃない。紬ちゃんとは心で繋がってるから良いのさ。ふっ、キマッタ!」


「キマッタって自分で言うか! 私の周りの子は、おかしいなぁ。」


「本当、おかしな子達だね!」


紗理奈ちゃんが同調する様に、威張って言う。


いや〜オマエモナー! 紗理奈ちゃんも当然入ってるからー。


「さてと、バスケやりますか!」


呆れながら私は、言った。その前に泉ちゃんに、シュートを教えるか。泉ちゃんに近寄り、彼女を練習に誘った。


彼女の背後には、バスケットボールを囲むネットがあり、その向こう側には、ファミリー層が、アトラクションを楽しむ声が聞こえて来た。

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