第17話王様ゲーム


「どんなゲーム?」


仁美ちゃんに腰に手を当てながら聞いた。


「クックック、王様ゲームさ。王様の棒を手に入れた奴が、紬を手に入れるって訳。」


私を手に入れる! 

なんだいそれは…王様ゲームって何番が何番ってやつじゃない? つまり…今回はただ王様棒を引くだけで…あれ? 


「ちょっと待てーい。私が王様引いたら? どうなる?」


疑問を彼女にぶつけた。ルールはしっかり聞いておかないと、トラブルの元だ。


「そんなの決まってるじゃん、3人の中から組みたいやつを選ぶ。」


仁美ちゃんがウインクして言う。


「無理ゲーだよそれこそ。誰選んでも恨まれるパターンやん。」


そんなの絶対嫌じゃ〜。どうして私を選んでくれなかったの? ってゲームの選択肢を現実に持って来られたら、やり直し出来んし、困る。


「まぁ、大丈夫よ。私が王様引くから、問題なし。」


おお、イカサマ宣言! 頼もしい…のか? この状況なら。


「ずるっ、それイカサマやる宣言じゃん。棒に何か細工するんでしょ?」


紗理奈ちゃんが人差し指を仁美ちゃんに鋭く指した。至極ごもっともな指摘だ。


「ふっ、棒にイカサマしないし、私は引かないよ。最後余ったやつで良い。」


なるほど、今回はイカサマしないで潔くやると…棒にイカサマしない? つまり棒にはって事?


「棒に何かしないで、最後余ったやつなら、私も安心出来る。今度こそ紬ちゃんを手に入れる。」


泉ちゃん私は、モノじゃないぞ。


しかし…棒にイカサマしないで、しかも余ったやつって、絶対無理じゃない?


「棒をみんなしっかりと見なよ? 入念にね。まぁ棒にイカサマは仕組んでないけど。」


皆んなが調べた。確かに何もない。一つの棒に赤いテープが貼ってある。これを取って最後に貼るとかも可能だろうけど、それは棒にイカサマしてることになるね。多分。


さて引いてください。


「じゃあ私が引くよ?」


紗理奈ちゃんが一番手に名乗りを挙げた。

誰も、文句は言わなかった。


「どうぞ?」


仁美ちゃんが棒を紗理奈ちゃんの前に、突き出した。

空気がピリつく。夕方でも強い日差しが、2人を煌々と照りつける。


「私の感を信じる! これだ!」


ベージュ色の棒を仁美ちゃんの手から、紗理奈ちゃんが引き抜く。

 

紗理奈ちゃんが棒の下に視線を合わせる…外れた。


「次は私行きます。」


泉ちゃんが名乗りを挙げた。


うーんやっぱり、仁美ちゃんが引くのかね〜。どんな手品を使ったのだろう。


泉ちゃんが棒を迷いなく引く! 皆が泉ちゃんに注目する。

しかし…外れだった。



私の番か。多分外れる。

そう思って、棒を掴み、ゆっくりと仁美ちゃんの表情を見ながら、引いた。案の定…ハズレ。


「ふふ、はい勝ち!」


皆んなに見せびらかす様に棒を回す。


「あり得ない…確率的に、1番引く可能性ないじゃないですか!」


泉ちゃんが悔しさを爆発させる様に言う。


確かにその通り。私は腕を組んで頷く。


「ネタバレよろしく!」


紗理奈ちゃんが仁美ちゃんに頼み込む。


「ネタバレか。しょうがないな〜。これね、簡単よ。私は棒を引かないと言ったでしょ? 実は、最初から王様の棒は私のポケットに入ってたの。だから、どれを引いても外れるわけ。」


彼女が驚きの種明かしをした。


「ええ! そんな!」


紗理奈ちゃんが驚き、泉ちゃんも口をあんぐりと開けた。    


私は、驚きよりも、どうやったかが気になった。しばらく沈黙して、深く考えに耽った。


「でも、それじゃあつむたんが引いた時点でバレるじゃん。なんで誰も気づかなかったの?」


紗理奈ちゃんが、当然のことを口にした。私が引いた後に、仕掛けるのは、難しい。


何故なら、最後の棒にも視線が集まるから、泉ちゃんが引いた時より、危険が高い。


「それも計算の内。紬ちゃんが引く前に、私はさりげなく棒を入れ替えたんだよ。」


私は、泉ちゃんに注目した間に仕掛けたのかと

言う、発想に至った。

それなら確かに仕掛ける事は、難しくない。


「紬ちゃんが引く時には、既に本物の王様の棒が入っていた。だから、私が最後に引かなくても勝ち確だったわけ。」


やっぱり! 最後に入れないといけない理由は、賢い人がいた場合だ。ちょっと待って、先に紬ちゃんの棒じゃなくて、仁美ちゃんの棒見せて。


これをやられたら、確実にアウトだ。さすが仁美。

もっとも、私が本気で勝つつもりなら、そう言っていただろう。


「ちょっと待って。紬ちゃんがじゃあ引くかも知れなかったって事?」


泉ちゃんが顔を曇らせて聞いた。


「ふふ、紬ちゃんが王様の棒取ったら、本当にそれで良い? って聞いて、すぐに取らせなかった。そうすれば紬ちゃんなら勘付く。」


こいつ、曲者だわ。私確かに、それで良い?

って聞かれたら、それが王様の棒って分かる。

何故なら、私が王様の棒引きたくない様な事、事前に言ったから。


「むー棒にイカサマしないって言ったじゃーん。」


紗理奈ちゃんがクレームを言う。


「棒には、何も仕組んでないよ? 隠すのは、テクニックだし。その指摘残念でした〜。」


「くっ…そんなの屁理屈だよー。ぷんぷん。じゃあ…私も屁理屈言うけど、番号振ってないから、王様ゲームじゃなくてくじ引きじゃない?」



「屁理屈も論破されなきゃ、正論なのだよ、紗理奈ちゃん。番号振ってないけど、くじ引きじゃないよ。だって私が王様で選ぶんだからね。」


論破王〜助けて〜。

紗理奈ちゃんが私に助けを求めた。

ちょっとドラエモ○みたいに言うなし。


それに王って…私女子だからせめて、論破クイーンか論破姫でしょ!


「分かった。王様ゲームじゃないって言うけど、本格的に王様ゲームやるのは、中学生の私らには、早いし、まずい。それと王様ゲームじゃないって文句付けるなら、負ける前、つまりやる前に言うべし。」


私はものの見事に論破してみせた!


「つむたん…違うし、私論破してどうするの? ひとみん論破するの〜。んもう、2人して、私いじめるんだから。」


紗理奈ちゃんが拗ねる様に言った。


「はは、紬ちゃんが私を論破する訳ないって。だってそうなったら、また王様ゲームイカサマなしをしなきゃいけないんだよ? 王様なりたくないんだから、紬ちゃんは。」


仁美ちゃんが目を上にして言う。


「なぬ! そこまで考えてたの。」


感心する様に紗理奈ちゃんが言った。


仁美ちゃんは目が泳いでいた。これは、考えてないな。ハッタリだ! 私は、トリックには、ハッタリが付き物なのだなと違う意味で感心した。


それにしても、泉ちゃんが大人しい。ちょっと聞いてみるか。


「どうしたの?」


「ええと皆さんが何を言ってるのか、理解出来ないのです。日本語ですか?」


泉ちゃんが不思議そうに尋ねた。日本語…だよ? と心で呟く。


「めっちゃ分かる! そもそもこの2人が頭が良すぎて、別の生き物に思える。きっと人生2回目なんだよ。」


紗理奈ちゃんが泉ちゃんに激しく同意する様に頷いた。


「ええと、まず分からないのが、運命の赤い糸って私が言ったことになんでそこまで、感銘受けたのかが分からないです。」


「それと、王様ゲームでなんでそんな面倒くさい事、仕組んだのに、イカサマをバラす様な事したのかが分からないです。とぼけてれば良くないですか?」


「まだあります。その後の会話が意味不明です。大学教授の授業みたいです。」


分からないって言うから、しょうがないな、私教えてあげようって上から目線で考えてたのに、聞いてみたら、私より頭良かった!


悔しいと言うか、恥ずかしいな。


「いずみん、私の仲間だと思ってたら、人生2回目の人達の仲間だった。ちくしょー。」


紗理奈ちゃんが芸人さんの真似をした…それはまずいって。

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