第15話コイントスの選択

「それでさー。」

私は友達2人とラウンド遊びに行こうとしていた。


「つむたん、うんうん。それで?」

頷きながら、美月紗理奈ちゃんが私をあだ名で呼ぶ。


「ねー、紬〜電柱に隠れてついて来る子がいるんだけど、アレもしかして、紬の彼女?」


中村仁美ちゃんが、私の耳近くで囁いて言う。


「誰が彼女やねん! 私女子ですけど? 泉ちゃん、アレでバレてないと思ってるんかな?」


電柱で私達を凝視している。

声を掛けて誘ってくれるかもと考えたか? 

それともやきもちから、見張っているのだろうか?


はぁ〜まったく、しょうがない、誘ってやるか。ついて来られるよりマシか。


「出た! つむたんのクソデカため息!」

紗理奈ちゃんが指を指して笑った。


商店街が至る所にある通り道で、車はあまり入って来ない。


シャッターが所々のお店で閉まっているのを見ると、寂しく感じる。


「ため息も出るよ〜。私狙われてるからね。」


肩を落として私は言う。


「モテモテだね、つむたん、私も大好き。」


紗理奈ちゃんが抱きついて来た。見ないけど、泉ちゃんの顔が怒りの表情になってると予想出来る。


「へいへい、女子にばっかりモテますよ、ええ。」


私は、こうして女子と遊んでいる今を嘆いた。


「モテないよりマシでしょ? 私両方にモテないよ? 紬の事、本当羨ましくないけど。」


おい! 羨ましいんじゃないのかい!


「変わってくれって言おうとしたのに、仁美に先手取られた。」


「私こう見えても知恵者なんで! それに私、推しがいるから、モテなくて良いの。」


「電柱に隠れてる子も誘って良い?」



「泉ちゃん、尾行してるの気がついてるから。」


「あわわ、バレてましたか。」


「ふぅ、あんたも一緒に遊ぶ? ラウンドで遊ぶんだけど。」


「紬ちゃん、ありがとう…遊ぶぅ。」


笑って私は頷いた。その直後、紗理奈ちゃんが私にくっついて来た。


泉ちゃんの表情から笑顔が消えて、母親が怒った様な表情になった。


「離れて。」


その言葉は、氷の様に冷たかった。

怖っ…紗理奈ちゃん逃げて。私は心で叫んだ。


「あっかんべー。」


紗理奈ちゃんが、泉ちゃんに言う。

ちょっ…紗理奈ちゃん挑発しちゃ駄目ー。


「…離れなさいよ、離れろ。」


泉ちゃんの命令口調に私は恐怖で身体が小刻みに震えた。紗理奈ちゃんは、ムスッとしていて、まったく堪えてない。


私は知恵者に助けを求めて、仁美ちゃんに目配せした。

そっと頷く彼女。



「まぁまぁ2人とも、落ち着いて。2人で一緒にくっつけば良くない?」


仁美ちゃんが2人を宥めた。

…知恵者役に立たん〜それじゃ私がヤバいんですけど!


「いやさすがに、2人はキツいて。」


2人の子供をあやすなんて無理です。

何か他の策ないのかな。


「…じゃあ、コイントスで、当てた方が紬とくっつける権利獲得とか?」


なるほど、器用な仁美ちゃんなら、コイントス上手く出来るから、良い案かも。


「コイントスで、先に言う方決めるの、どうするの?」

紗理奈ちゃんが手を挙げて、問題提起した。


「それは…ジャンケンかな?」


腕を組んで神妙な面持ちで、仁美が言う。


「ならジャンケンで勝った方がくっつけるで良いじゃん。」


紗理奈ちゃんが当たり前の事を、仁美ちゃんに伝えた。


「なるほど! 賢い!」


知恵者自称してる人が、賢いって感心すな!


「いいよ、私後で。紬ちゃんとは、赤い糸で結ばれてるもん。勝つもん。」


気のせい。泉ちゃん

「えっ? 良いの? 紗理奈感が鋭いよ。」


「良いですよ。それで負けたら、今日はくっつかない方が、良い日だって諦めます。」 


泉ちゃん意外に潔かった。そして暗かったのが、真剣な表情に変わった。


「赤い糸って…この子紬にさりげなく告ってるぜ。」

仁美ちゃんが驚いた表情で言う。


「ふん、それなら私は、つむたんと絆の鎖で繋がってるもん!」


紗理奈ちゃん! 変な対抗心燃やさないで〜。



仁美ちゃんがカバンから、豪華そうなコインを出した。

コインの表と裏を説明して、親指に乗せた。


「では、行きます。表か裏か。」


キィんと音が鳴り、コインが宙に舞う。コインが落下して、仁美ちゃんの手の甲に乗って…その上から手で隠した。

一瞬の早技。これは見えない。


「さぁさぁ! 紗理奈ちゃん、表か裏どっちを選択する?」


仁美ちゃんがテンション高めに声を張った。


「ふむふむ、私は…表を選択するよ。」


紗理奈ちゃんが自信ありそうな素振りで言う。


それを受けて、仁美ちゃんが手の甲から手を離した。

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