第12話葛藤の中で隠された心

泉の視点


私は紬ちゃんとキスをした。


自分でも信じられないぐらいに素敵だった。


自分が世界一幸せなんじゃないかと思うほどに、頭の中が一瞬真っ白になった。


けどすぐに、虹が頭に浮かんで、それを階段の様に登って、そこから見える景色が絶景だった。


それは、水色に染まった湖が私の疲れた心を全て洗い流すかの様に、綺麗で心に染み込む。


キスってこんなにも幸せな気持ちにさせるのね。


私は感動で唇に手を当てた。


「じゃあ、用はすんだよね? またね。」


紬ちゃんが手を振りながら、私の前から去ろうとしていた。


「待って、紬ちゃん! 私もう一度キスしたい。それと腰が抜けちゃって動けない。」


私は、多分もうしてくれないだろうと、分かっていたけれど、ダメもとで頼んだ。


「何よ、大袈裟だなぁ。」


紬ちゃんが笑って手を出してた。

私は手を掴んだ。

彼女の肌の温もりが伝わってきた。


「紬ちゃんの大袈裟って台詞、耳に心地良いんだよね。ああ、紬ちゃんの口癖だなって。」



「だって本当に大袈裟なんだもん、あんたは。」

紬ちゃんが肩をすくめた。



半ば呆れているのだろう。けれど、満更ではないと私に思わせたのは、頬が少し赤くなったからだ。それを私が見過ごすはずはない。


「紬ちゃん、キス駄目なら、抱っこして?」


甘える様に言い、目で訴えた。

「そんな目しても無理。男の子に抱っこしてもらいな! 私はか弱い女の子だよ?」


やんわりと断られた。男の子にして欲しい訳じゃないのに。


「…じゃあ〜腕組んで下さい。」

頭を下げて、お願いした。


「まぁそれなら。」

少し考え込んだ様子で、紬ちゃんが頷く。


「やった〜。ひっつくね、紬ちゃん。体温感じてたい。」

彼女が心変わりしない様に、すぐさま腕を組んだ。

少し彼女が驚いた表情をした。


「腰が抜けてたんじゃないん? 疾風の如く動きやがったな。」


「うん、抜けてだけど、もう大丈夫。」

横にいる彼女に微笑んで言う。


「都合の良い腰だな〜。」

彼女が手を顔に近づけ笑う。その仕草と表情に胸がキュンと締め付けてくる。



「えへへ、都合良いの、私の腰は。女の子同士で腕組むの、結構見るよね? 不自然じゃないよね。」


上目遣いで紬ちゃんに確認する様に聞いた。


「そーだね。」

紬ちゃんがぽつりと呟いた。



「このまま帰ろっ。」

明るく私は言った。


「荷物とか持ってきてないわ。」


彼女が首を振った。


「じゃあ、戻ろっか。」


「良いよ、私1人で帰る。先帰ってな。」


気遣って言ってくれたのだろうけど、私は一緒に帰りたい。


「紬ちゃん、私が分かったって言うと思う?」


「うん、思わない。」

さすが〜私のこと分かってるぅ。頬が緩んで微かに笑みが溢れた。


「だね。」


「だね。じゃなーい。いい加減私離れしなさい。」


紬ちゃんが肩で小突く。ねぇ、これもう恋人じゃない? 心で呟いた。声に出して言いたかったけれど、否定されるので、喉元で押さえ込んだ。


「お姉様無理です。」


「誰がお姉様やねん。」


恋人みたいなやり取りをして、学校に戻ろうとしたら、明君が待ち伏せをしていた。


正面玄関にいる明君に、私達のやり取りを見られたかと一瞬考え、冷や汗が出た。


けど、彼の表情からは、それを感じさせなかった。


むしろ照れ臭そうにしている。

ほっと胸を撫で下ろした。


それは、明君に嫌われる恐れからではなかった。


紬ちゃんとの関係に亀裂が入るのが怖ったんだ。


すぐに紬ちゃんの表情を窺った。

顔がひきつっていた。


私は紬ちゃんに嫌われない為に、全力で頭をフル回転させ、彼を騙していく方法を考えた。


彼女を騙す事はしたくないから。


こんなに紬ちゃんを想っているのに、明君と付き合っているなんて…そろそろ限界かな?


でも…別れて、2人が付き合ったら…その恐れが私の思考回路に何度も入って来る。

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