第11話輝きを探して


「明君のどんなとこが好きと言うか…付き合おうと思ったの?」


私は率直に聞いた。


「紬ちゃんに似て、クールな所とか、紬ちゃんに似て、可愛いとカッコ良さを兼ね備えてる所とか、紬ちゃんみたいに…」


「ちょっと待った!」


私は吹き出して、彼女の言葉を止めた。

私みたいにって…完全に私に重ねて付き合ってんの?

これは。

心で呟いた。




「もっと言いたいんですけど?」


長いし、小っ恥ずかしいわ。まったく、この子は。


「辞めれー。」

思わず両頬の前に両手を出して、声高に叫んだ。


静かになったグラウンドで、私の声がツーンと響いたのが感じられた。


「だって、私にない物持ってるから。そこを言いたいんです。」



「紬ちゃんは、私みたいに鈍臭くないし、しっかりしてる。それでいて、周りに目を配ってる。

私なんて、自分しか見れないし、人に優しくも出来ないから。」


何やら泉ちゃんが演説を始めた様だ。ただそれは、私を褒めまくり、自分を卑下する様に、聞こえた。


夕方の太陽が悲しそうに光を薄めているかの様に感じられ、昼と夜の差が私達の心の、輝きの持ち様に思えた。


それは彼女が、闇を纏っているからだろう。


それを私は、光を照らして泉ちゃんの闇の中に潜む、輝きを見つけて、彼女にそれを教えてあげようと思った。


あなたは、素晴らしいモノを持ってると、気づかせてあげて、卑下する事なんてないと分からせてやる。


そう思えたのは、彼女の眼の奥に佇む、朝露の様に一瞬見えた、ホワイトオパールの様に、濁りのない輝きが見えたからだ。



「じゃあこれから、優しくしていけば良い、自分しか見えないのは、悪い事じゃない。それだけ自分を大切にしてるって事でしょ。」


私は泉ちゃんを鼓舞する様に優しく語った。


「紬ちゃん…はい。頑張ります私! それで紬ちゃんにお願いがありまして。


泉ちゃんが手で目を擦り、何かを決意したかの様に両手を握ってきた。


真剣な眼差しが、キラキラと私を物欲しそうな瞳で捉え、釘付けにさせた。


そんな目で見ないでと心で思っても、私の視線は、彼女の瞳に吸い寄せられたままだ。


「何? お願いって。」


「キスして欲しいんです。明君と初めては嫌なので、やっぱり好きな人とが良いです。と言うか、紬ちゃんとしないと、他の人には出来ないです。」


「言うと思った。」


即時に私はそう言った。お前っ、絶対言うと思ったわ。分かりやすいと言うか、それ狙いで私を呼んだな。


私はキスをせがまれるんじゃないか、そんな予感はしていた。


私はため息を吐いた。やっぱりするのか〜。いや別に良いんだけどさ、私ファーストキスじゃないもん。


幼馴染の男の子とすでにしてたりする。


「分かった、キスするけど…その代わりちゃんと明君ともするんだよ?」


私は諦め、決してしたい訳じゃないと自分に言い聞かせた。


ただのノリだからね。普通だよ、SNSでもほらあるじゃん。キスした動画とかね。


泉ちゃんに言うでもなく、自分に言い聞かせる様に心で独り言を囁いた。


「紬ちゃん、ありがとう。本当は、嫌なんだよね…私酷いよね? 明君と紬ちゃんを利用してる。」


分かってるんかい! でもそれくらいしたいのか…断るか。ってもう…手遅れか。


後悔先に立たずだ。


「嫌って言うか、ただ恥ずかしいだけだよ? 真剣に考えないでよ?」


「なんでも良いよ。紬ちゃんとして、明君ともすれば、もしかしたら、明君と恋が芽生えるかもだし。」


そうして貰えるとありがたい。明君のこと好きな私が、2人の仲を応援する立場になるなんて…とほほだよ。


私は覚悟を改めて決め、彼女に顔を近づけた。

泉ちゃんの顔は今かと待ち構えていた。


その表情は、赤ちゃんがミルクをせがんでいる様にも見えた。

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