第4話 信用できる人


 「私のわがままに付き合ってほしい。つまり軽音部に入部してほしい。」


 「へ!??」


 どういうこと?原咲さんが俺に軽音部に入部してほしいと?意味がわからない、いや意味は理解できているが、意図が理解できていない。まずなぜ俺を軽音部に誘うのか聞いてみないと、


 「なんで俺が?」


 緊張でこの程度の言葉を発することが限界だった。


 「う〜ん、いくつか理由はあるけど...」


 と言いながら原咲さんは指を3本立て説明しだした。


 「1 ドラム以外の楽器ができる人。

私の担当楽器?というかできる楽器がドラムだからそれ以外のギターとかベースとかできる人がいい。」


 原咲さんはドラムをやるのか、確かにイメージ通りといえばイメージ通りだ。学校では真面目で誰にでも気を配ることができ優しい。考えればクラスのリズムを取り繕っているような人だ。


 「2 楽器が上手。

さっきも言ったけど私はガチでプロデビューしたい、だからそれ相応の実力のある人がいい。」


 

 「3 信用できる人。

私は自分が信用できる人でないと一緒にバンドするつもりはない。」


 「これが私が樹下くんを勧誘した理由です。」


 うん、一応理由はわかったが気になる点が一つある。それは3つ目の『信用できる人』というところだ。なぜ俺が原咲さんに信用されているか分からない、この3カ月間原咲さんとは1回も会話をした記憶がない。信用される理由がない。


 「とりあえず、一応は分かった。けど3つ目の『信用できる人』っていうのがよく分からないんだけど、なんで俺は原咲さんに信用されてるの?」


 「えっ!?....それは.....その........」


 原咲さんは顔を真っ赤に染め、おもむろに目をそらしながらこう言った。


 「その....入学式の日、スカートのこと、伝えて....くれたから....」


 あぁ〜そんな事もあったな、完全に記憶から消えていた。しかし原咲さんはバッチリと覚えていたらしい、相当恥ずかしかったんだろな。


 「確かにそんな事もあったね。」


 「うん、その時に私を助けてくれたのは樹下くんだった。それに皆に聞かれないようにスマホで教えてくれた、そんな気遣いもできる人が悪い人なわけない!」


 「あ、あぁ、そう...ありがとうございます。」


 人と話すことが苦手だからスマホで伝えたなんて今更言えなかった。


 「で?どう、軽音部入ってくれない?」


 忘れてた。本題は軽音部に入部するかしないかだった。

 どうしよう、軽音部に入ることは夢だったし入りたい。でも俺にはバイトがあるしなんにしろプロでデビューするという覚悟がまだない。このまま生半可な気持ちで入部したところで原咲さんの気持ちを踏みにじってしまう、だからこうしよう。


 「実は俺も軽音部に入部したいと思ってた、」


 「じゃあ――」


 「でも!」


 原咲さんの声を遮った。


 「原咲さんと軽音部をするのはすなわちプロとかを目指すわけであって、その、まだ覚悟ができない。だからちょっと考えさせてもらってもいい......かな?」




 「.....分かった、」


 原咲さんは少し考えたあとに小さく頷きながらそう言ってくれた。


 「ありがとう。じゃあそろそろ帰ろう、もう遅いし。」


 気づいたら時刻は9時前になっていた。そろそろ原咲さんの両親も心配するだろう


 「うん。ありがとね、私の話を真剣に聞いてくれて。やっぱり樹下くんは信用できるよ。」


 「そう、かな?ありがとね。」


 そうして俺たちは頼んだハンバーグ定食を食べ、ファミレスを後にした。



 ♢


 「......原咲さんもこっち?」


 「うん。」


 ファミレスから出た後、家に帰ろうとしたら原咲さんも後ろについてきた。どうやら同じ方向に家があるらしい。


 「........途中まで....一緒に帰る?」


 「うん。」

 

 流石に女の子一人をこの時間に一人で帰らすことはできなかったのでこう提案した。


 ファミレスを出て数10分。会話がない。気まずい。とても気まずい。しかももうすぐ自分の住んでるアパートに着く。ここまで近いとなぜ今までなぜ原咲さんに気づかなかったんだろうと思ってくる。


 さらに数分後。着いてしまった。俺のアパートに。後ろを振り返るとまだ原咲さんがいた。流石にここまで来ると聞かないわけにはいけない。なんとなく察してしまうが、まさか...ね?


 「原咲さんってどこに住んでるの?」


 俺が聞くと原咲さんは僕の住んでるアパートを指さしながら、


 「ここ」


 そう言った。










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