第22話 真実を突き止める覚悟
「ソルファス家……」
「ラシャの家だ。ソルファス侯爵家。しかし聞くなら覚悟を決めて行け。ソルファス侯爵たちもラシャが亡くなって辛い想いをしている。それを今さらほじくり返しているんだからな。侯爵たちをも傷付けるかもしれない。それを頭に置いておけ」
「はい……」
ソルファス侯爵たちをも傷付けるかもしれない……確かにそうだ。ラシャ様が亡くなって辛いのはアシェルト様だけじゃない。親である侯爵様たちこそ一番辛いだろう……。
ライラ先生は「もういいだろ」と、次の授業の準備をしたいからと追い出される。ライラ先生にお礼を言いつつ、私たちは部屋を後にした。
学園の門へと歩く道中、また悶々と考えてしまう。今さら事故を蒸し返して真相を突き止めたところで、ラシャ様のご両親は嬉しくないんじゃないだろうか……。こうやって調べ回るのは私やアシェルト様の我儘なんじゃないだろうか、と。
そんなことを考えていると、いきなり脳天にズビシッと手刀が振り下ろされた。
「痛っ!! なにするのよ!?」
涙目になりながら、振り向くと、手刀を構えたままのノアが真顔で見下ろしていた。
「な、なに? なにか怒ってる?」
いつもと違いなにやら怖い雰囲気を感じ、若干腰が引ける。
「なんかイライラしたから」
「な、なにそれ! ひどっ!」
「ってのは冗談だけど……どうせお前またモヤモヤ考えてんだろ?」
「じょ、冗談て……」
冗談にしては目が怖かったんですけど……。今は溜め息を吐きつつも、呆れるような顔。
「ラシャ様の両親に気が引けて、聞きに行きたいけど躊躇ってんだろ」
「うっ」
なんというか、ノアにはいつも色々見透かされている気がする……。
「もうここまで来たら今さらだろ。このまま聞かないなんてお前は出来るのか?」
「で、でも……もし婚約の話がラシャ様の事故とは全く関係がなかったら……」
関係がなかったとしたら、本当にただご両親に嫌な想いをさせるだけで終わってしまう……。それが怖い。
「関係ないにしても、少しの手掛かりを求めてまで、お前は真実を突き止めたいんじゃないのか? はっきりとさせてアシェルト様に前に進んでもらいたいんだろ?」
少し複雑そうな顔でノアは苦笑しつつ言う。
「うん……」
「なら、ライラ先生が言ったように覚悟を決めろ。真実を突き止めることで、誰かが傷付く可能性だってある。それはどうすることも出来ない。なにもしなければ、なにも生まれない。傷付く人だって生まれない。でもアシェルト様やお前の新しい未来も生まれないんだよ」
そう言ったノアはなぜか寂しそうに笑った気がした。優しい笑顔。でもなんだか切なそうな笑顔。なんでだろう、胸が締め付けられた。
ノアのその笑顔の理由が分からず、なんとなくノアから視線を外せないでいた。しかし、その後は今まで通りのノア。特に変わった様子もない。気のせいだったのかしら。
「とりあえずソルファス侯爵家に行きたいんだよな?」
「う、うん」
私が様子を伺うように見ていたことには気付いていないのか、ノアはいつも通りの様子で私に振り向き聞いた。
そして少し考えた後、再び話を続ける。
「俺の家から面会願いを出してもらうよ」
「えっ、そんなこと頼んで良いの!?」
確かに侯爵家への訪問なんてどうしたら良いだろうか、と思ったが、ノアの家にそんなことまでお願いしても良いのだろうか……さすがに頼り過ぎているような……しかも家まで巻き込んで……。
「行き当たりばったりで突撃するつもりか?」
そう言いながらニヤッとされる。
「ルフィルならやりそうだな」
クククッと笑いを堪えながら言われ……堪え切れてないけど……ムッとしてしまった。
「そんなことしないし! ……多分」
「ブフッ……多分て」
ブフフと笑われたまま、頭にポンと手を置かれ、さらに一層笑われる。
「ハハッ、まあ、さすがに突撃はよくないからな? 俺に任せとけ」
「だから突撃なんてしないってば!」
「はいはい」
アハハ、と楽しそうに笑うノアに、ムッとしていたはずが、なんだか私まで笑ってしまった。
「ついでにクナム副団長についてもカーヴァイン侯爵家を少し調べてみるよ」
クナム副団長についても調べたいと思っていた。さすがノア、言い出す前に先を越されてしまった。
「頼りっぱなしでごめんね……」
「それこそ今さらだな」
そう言いながらハハと笑ったノアは、「任せろ」と頼もしい言葉を残し、その日は別れた。
ノアは実家であるジェストルド伯爵家に連絡を取ってくれることになり、ソルファス侯爵家へ面会の約束が出来たらまた連絡をくれることになった。
その日帰宅すると、普段よりも外出時間が長かったからか、アシェルト様に怪訝な顔をされた。
あの失言以来、アシェルト様とはなんとなくギクシャクした雰囲気になってしまってはいたが、とりあえずいつも通りに話はする。ラシャ様についての話をするのはやはり避けるようになってしまったが、それについては今までもそうだったし、むしろここ最近アシェルト様が私を受け入れてくれていたのが奇跡だったのよ……。そう思うことにした。だから今さらギクシャクしたところで以前に戻っただけ。そう無理矢理にでも納得させた。
「今日は長かったね、なにか聞けたの?」
夕食を共にしながらアシェルト様に聞かれるが、ライラ先生と会っていたことは言えない。そんなことを言えば、なぜ会っていたのかを話さないといけなくなる。ラシャ様の婚約について聞きに行っていたなんて言えるはずもない。
「いえ、なにも」
これは嘘ではない。今日は魔導師団で話を聞いた訳でもないし、ライラ先生と会っても特に新たな情報があった訳でもない。
当時の話を聞くことは出来たが、それは今までも聞いたことがあるような事実。アシェルト様がどれだけ憔悴していたか、といった話だけだ。私がアシェルト様に信頼されている、という話はライラ先生の主観であって、事実かどうかはね……分からないしね……チラリとアシェルト様の顔を見ると少し顔が熱くなる。
アシェルト様は私の視線に気付くとキョトンとした顔になった。そんな表情ですら嬉しくなってしまうが、ラシャ様の婚約については言えるはずもなく……。
ラシャ様の婚約については、結局のところ、今知っている以上にはなにも分からなかった。ライラ先生が言うにはラシャ様は相手が誰か気付いていそうだ、ということだが、表向きにはラシャ様自身も相手を知らなかった、もしくは、知っていても周りの人間には隠そうとしていたのか、のどちらかだ。
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