第48話


 流石にさ、人気商品をちょろまかすからって、あたし達以外にもそれに関わっていた人はいるみたい。

 もしもの時の待機要員とかもね。

 ほら、わけわかんなくない?

 どれだけタルト食べたいんだよって感じしない?

 でもね、コウタを見た時、ミツバの考えがわかった気がしたの。ミツバってさ、なんか未来を見るの、得意なんだよね。だから、きっと、あたしとコウタを会わせたかったんだろうなって。

 ユズのドッペルゲンガーがいるって思って、ボーッとしてた。そうしたらもう、うまいことタルトをちょろまかせなくなってた。

 ミッション失敗。

 そのままトボトボ帰ればいいのに、あたしは欲に負けた。

 タルトを連れて帰れないなら、ユズを連れて帰りたいって思った。

 丸坊主になってもいいやって、あたしが込められる力をぐおーって全部使った。コウタをこっちに引き込めた時、やった! って思った。三秒だけ。

 そのあとはもう、ヤバいヤバいって。

 どうしようって、頭を抱えた。

 何かないかって、ポケットに何かを入れたわけでもないのに、あちこちひっくり返してみた。

 そうしたらね、あったの。毛が。

 チャービルの毛。これね、力を使うとぶちぶちちぎれて、ただのお金になる毛になっちゃうんだけど、切り落とした分は他の人にも力を分け与えられるっていう、スーパーアイテムなの。

 ミツバの仕業か、チャービルの仕業か。どっちだろうって三秒考えて、どっちでもいいやって、握って願った。

 複製世界の、彼のオリジナルが消えますように、って。


 そうしたら、ユズと一緒にいられると思ったから。

 ただ、ドッペルゲンガーがいるって知れただけじゃ、あたしの心は満足しなかった。一緒に、いたかったの。

 そういえば、その時知ったんだよね。チャービルの能力を借りるとさ、髪の毛の色が変わっちゃうってこと。なんかさ、ストレスめっちゃかかると白髪になるみたいな感じでぶわぁってなるんだね。あたし、髪の毛の色を変えたくなったら、人の力を借りることにするや。……なんちゃって。


 あたしね、自分がめちゃくちゃわがままだってわかってるよ。

 でもね、めちゃくちゃわがままでよかったとも思ってる。

 あなたと出会えて、私は幸せだったから。

 あなたは、あたしに、安らぎをくれたの。


 あーあ。もっと色々書きたいんだけどな。「ミツバがうるさい」って、お兄ちゃんがうるさい。

 そうそう。コウタを戻す時、だいぶ時間を戻したんだ。で、この手紙はコウタを戻すのとは別に、そっちのその時間に送ることになってる。

 あたしの髪の毛がなくなってさ、ツルツルになるのはかまわないんだけど。タイム、大丈夫かなぁ。今はね、あたしよりちっちゃいの。声も高くなってね、ガキンチョみたいに見えるから、ガキンチョみたいに扱ってる。ちっちゃいくせに拳は強いの。だからちっちゃいお兄ちゃんと、あたしはよく戦ってる。けっこう楽しいよ。あたしはずっと、自分より大きなお兄ちゃんを見てきたからね。新鮮なの。いまこの瞬間が。

 ここ最近さ、一気に時計の針を戻しすぎてるから、近い将来歪みが起きるだろうってミツバが言ってた。

 もしかしたらさ、またどこかにワープしちゃうかもって。シューン、ってこの世界から消えちゃうかもって。

 前に一回それをやってるから、あたしは怖くない。でもね、この世界が、このまま続けばいいなって、願ってる。

 だって、あたしはちょっと楽しみにしてるんだもん。

 タイムの入浴シーン!

 この手紙を送ったらね、タイム、たぶん目玉おやじくらいの大きさになるんだって。そうしたらね、あたし、お茶碗用意してあげようと思ってるの!

 タイムにはさ、もしも小さくなってからも、この世界に居続けられたとしても、お風呂に入っているところを「絶対見るな」って言われてるけど。

 見たいでしょ、目玉タイム!

 あれ? 強引に見たら、兄妹でもセクハラになる?

 うーん。でも我慢できない。タイムが大きくなったときに、「やっぱり見ておけばよかったって」後悔したくない。

 だから、うん。こっそり見よーっと。


 あれ、なんか大脱線した気がする。

 ま、いっか。

 コウタの人生の大脱線も、これでおしまいだね。

 コウタはコウタの世界で、コウタらしく生きてね。

 あたし達は、似たような世界から、あなたの今をそっと見守っているから。

 って、なんか幽霊みたい。幽霊みたいなもんだけど。

 見守るって、なんか怖いね。やっぱり、やーめた。

 もう、あなたには会わない。

 コウタを見かけたら、あたし、全力で逃げるよ。

 あなたの記憶に、傷をつけちゃってごめんね。

 ありがとう。

 さようなら。



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