12・愛と懐古

第47話


 ユズ、って呼ぶの、正直ちょっと複雑だったの。だから、ここではひたすらにコウタと呼ばせてもらいます。

 まずは、謝らないとだね。

 コウタ、巻き込んじゃってごめんなさい。

 わかりやすくいえばさ、成仏できなかったわけ。あたしたち。

 宙ぶらりんでさ、ずっと空を飛んでたの。

 でもね、コウタに色々託せたから、これからはちゃんと地に足をつけてさ、大地を感じながら眠れる気がする。

 みんなね、大地を欲してたんだよ。

 ほら、チャービルが床をゴロゴロしてたでしょ? あれもね、地に降りたくて、地を感じたくてやってたことなんだよ。

 って、あたしが思ってるだけなんだけどね。

 チャービル、大地の話してた?

 しなさそうだなぁ。

 ま、そんなことどうでもいいか!


 どれだけきちんと話をしたのか、正直覚えてないんだけど。あたし、ユズキにマジで恋してたの。

 あたしはさ、白馬の王子様を信じてるタイプで……って今さ、コウタ、笑ったでしょ! 頭ポカスカ叩くぞ!

 それでね、白馬の王子様を信じてるんだけどね、それでも待てなくてね、告白したの。

 ヤバい。思い出しただけで照れる。


 たぶん、ふざけ半分だったんだと思うけど、ちゃんと夢を叶えたらねって言われた。

 その時のあたしの夢っていうのは、ヘアスタイリストになること。

 だから、あたしは夢に向かって頑張る姿を、ユズに見せることにした。もうね、努力のベクトルが絶対変なの。

 他の誰からも、褒められなくってもよかった。

 ただ、ユズに褒められたくて、頑張ってた。

 ある日ね、まだ見習いですらない、ほぼど素人のあたしに、「髪切ってよ」ってユズが言ったの。

 もっともっとど素人の、恋したてな頃はね、めっちゃはっきり断られたんだけどさ。ほんと、突然。別に、修行を終えたわけでもないのに、急に。

 ラブパワーのおかげかな? なんちゃって。

 あたしはさ、自信ないし、褒めてもらえる気がしないしで、断ろうとした。

 でも、ユズは「坊主になっても文句言わないから、切ってみて」って。

 切ってみたら、めちゃくちゃアシメでさ。ごめんなさい、美容室代払うんで許してください、って感じだった。

「これが今の初香かぁ。これからが楽しみだね」

 そう言われた時、終わったって思ってさ、ボロボロ泣いたの。めっちゃ困惑させた。

「これからも、ぼくの髪を切ってよ。人の頭で経験を積むのが、一番でしょ?」

 それが、ユズの返事だったんだ。

 どう? ブルマジのふたりよりキュンじゃない?


 コウタの髪を切らせてもらった時、実は、初めてユズの髪を切った時の感じをベースにしたんだ。だからね、ほら。アレを悪くした感じが、ユズの頭!

 リトライできた感じがしてさ、めっちゃ嬉しかったぁ。

 切らせてくれて、ユズみたいに受け入れてくれて、ありがとう。


 あとは、何か言いたいことあるかなぁ。

 そうだなぁ。コウタを連れ込んだ時の話! これはしておかないとダメかも。後悔しそうだもんね。

 えっとね、あの時は、ミツバの占いでタルトを買ってこいって言われて、ちょっとめんどくさいなぁって思いながら行った。

 あと、そうそう。あのタルトってさ、予約しないと買えないし、予約はけっこう前にしないといけないやつじゃん? それなのに、ひょこって行って買えるはずないしって思ってもいた。

 嫌だなぁ、嫌だなぁってオーラを出しまくったらさ、「キャンセル出るから」みたいなこと言われて。

 だからなんだよぅ、って感じ。

 基本的にはさ、絶対神ってわけじゃないけど、ミツバのことを信用してたわけ。でも、この時ばかりは「はぁ?」って感じ。

 あれこれ都合つけて、チャービルに作ってもらったほうが早いでしょ? って感じ。

 あたしね、この時やる気満々だったら、コウタに会えなかったと思ってるの。パパッと仕事してさ、帰っちゃってたと思う。


 あたしがもらったのは、ゲートを開ける力だった。あたし自身もよくわかってないんだけど、一瞬、現実世界と複製世界を混ぜ合わせる、みたいなやつ。

 だから、あたしがちょちょいと力を使えば、あっち……っていうか、そっちにお手紙くらい置いてこれちゃったりするの。

 そんな感じで、うおーって力を使えば、タルトの箱くらいは連れてこられるってわけ。



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