第2話「 自分、絶対絶命です」

再びあの人間の元へやってきた僕達は、ひとまず林檎を10個買って街を出た。そして故郷の沼地へと帰ってきた。ビッグスライムさんは10個林檎をほうばると、幸せそうな顔でゆっくり林檎を消化し始めた。


「良かったっすねぇ、ビッグスライムさん」


「あぁ、人間最高だぜ・・・金にもまだ余裕があるし、また行こうぜ・・・これから無差別に人間食うのやめよ」


「そんなに林檎気に入ったんすか」


「気に入っちまったなぁ・・・マジで。他の果物も食いてぇぜ・・・」


林檎を消化しきって愉悦に浸るビッグスライムさんを見ていた時、誰かが話しかけてきた。


「おい、お前ら」


「え?なんでしょうか?」


振り返るとそこには完全武装の冒険者が1人立っていた。


「(ぼ、ぼぼぼぼ、ぼ、ぼ、冒険者ァァァ!?はぇぇぇ!?)」


「(というか、おい、こいつさっき、お前らって言わなかったか?・・・バレてるぞ、俺達のこと)」


警戒する僕達を見ながら、冒険者は言った。


「お前らさっき人間食ったろ」


「(あ、これ、殺されるやつや)」


僕は死を悟った。いつもなら先手を打つビッグスライムさんが何もせず様子を見ている時点でこの冒険者は並々ならぬ強さを秘めているのが分かる。終わった、さようなら僕の骨人生。冒険者は僕達に近付くと、肩に手を置き、言った。


「お前らが食った奴等な、ここら辺じゃ有名な指名手配されてる奴等だったんだよ。恐らく偶然だとは思うが、よくやった。最初は街を襲う為に来てたのかと思ったが、そうじゃなかったみたいだし良かった良かった」


冒険者はそう言って笑った。でも、次の瞬間、僕達は文字通り震えることになった。


「でももし、お前らが街の人達に危害を加えようなんて思ってるんだとしたら・・・ここで殺さにゃならん。分かるか?」


とてつもない殺気。ビッグスライムさんが人間の形状を保てないほどブルブルと震えている。圧倒的な力の差を前に僕達は震えることしか出来なかった。でも、ビッグスライムさんが勇気を振り絞って喋り始めた。


「昔は見境なく襲ってた、それは認める。だが、今の俺は人間なんぞに興味はねぇ・・・林檎だ、それか別の果物が食いてぇ・・・ただそれだけだ。」


冷たい目がビッグスライムさんを見つめる。しばらくその状態が続いたが、次に瞬きをした時、冒険者の目は優しいものになっていた。


「そうか、林檎が食いてぇか。なら、俺と一緒に来い。人間の為に働け」


「は!?なんで俺達が人間の為なんかにーーー」


「人間の為に働けば金が手に入るぞ?金があれば飯が食い放題だ。・・・それともさっきの話は嘘か?」


また冷たい視線が僕らを襲う。


「分かった、付いてきゃいいんだろやるよ。どうせ金が欲しいの本当なんだからな」


「なら良し」


再び冒険者の目が優しいものになった。この光景をずっと見ていた僕は震えっぱなしだ。


「(こんな怖い冒険者と話せるなんて・・・やっぱりビッグスライムさんはすげぇや・・・)」


改めてビッグスライムさんを尊敬した。


「すまねぇな、俺の我儘のせいでお前まで巻き込んじまうことになっちまって・・・」


「いや、全然いいですよ!僕、ビッグスライムさんが喜んでるところ見るの好きなんで!」


「お前・・・馬鹿じゃねぇの・・・」


ビッグスライムさんが少し照れたような気がした。そうして僕達はこの冒険者について行くことになった。


「俺の名はガロウ、よろしくな」


どうやら冒険者はガロウという名前らしい。人間って名前があるんだなぁ・・・。そうして、僕達とガロウさんの冒険が始まった。

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