これが俺達のモン生だ!

T龍

第1話「自分、人間になってもいいですか?」

「はぁ・・・」


溜息を吐く僕は骸骨(Lv15)のモンスターです。どうして溜息なんか吐いてるかというと、暇だからです。


「あ〜暇、超暇、やることナッシング」


本当だったら冒険者とかと戦ったりするんでしょうけど、ほら僕って骸骨なんで。そこらへんによくいる骸骨なんで経験値も少ないんすわ。スルーされるんですよねぇ・・・超スルー。襲いかかってもいいんですけど、ほら、僕ってレベル15じゃないですか?僕のいるこの沼地って基本的にレベルの高いモンスターが多くて、冒険者もレベル高いんすわ。襲い掛かろうもんならそりゃあもう返り討ちですよ。即殺ですよ即殺。嫌ですよ、死にたくないですよ。いや、もうアンデッドなんで死んでるんですけど、骨なんですけど、それでもやっぱ死にたくないんすわ。


「はぁ・・・何か起きないかなぁ・・・」


「おいおいどうした?溜息なんか吐いて」


「あ、ビッグスライムさん!どもっす」


このビッグスライムさんはこの沼地にたまにいるいわゆるレアモンスターなんですけど、何とこの人俺の倍のレベルあるんすわ。何やったらそんなレベル上がるんすかね?羨ましい。


「んで?なんで溜息吐いてたの?」


「いや、何か最近何もないなぁって。刺激、欲しいなぁって思っちゃって」


「冒険者に凸ったら?」


「嫌ですよ!死ぬじゃないですか!」


「お前もう死んどるやんけ」


「でも嫌ですよ!死なない方向性で刺激が欲しいんですよ」


「死なない方向性ねぇ・・・あ、そうだ。ならさ、人間になってみないか?」


ビッグスライムさんはそういうと僕の目の前で黒髪ロングでスタイル抜群の人間の女の姿に変身した。


「どうだ?見分けつかねぇだろ?」


「すげぇ・・・変身能力あったんすね。いや、マジで美人ですわ、すいません。見抜き、いいっすか?」


「別にいいけどその体でどうするんだよ」


「心で」


「心で見抜くってなんだよ」


「もう抜きました」


「早いなおい・・・まぁいいや。ところで、さっきの話、どうよ?」


「それなんですけど、人間になるとは?」


「察しが悪いな。お前が文字通り俺の骨格になるんだよ。こう、お前を俺の中に入れてな?」


「・・・それ、消化されないっすか?」


「しねぇよ、ダチだろ?俺達。」


そう、ビッグスライムさんは僕の唯一の友達なんです。たまたま出会った時に意気投合してよく僕の愚痴に付き合ってくれる優しい先輩・・・


「なります、僕、人間になります!!!」


「よし!よく言った!それでこそ男や!・・・本当に男か?お前?」


「・・・さぁ?どっちなんすかね?」


とりあえずビッグスライムさんの中に入ることになった。


「うわ・・・すっご・・・ひんやりしてて・・・それでいてベタつかなくて、なのにヌルヌルでまとわりついてきて・・・」


「実況しなくていいから。これでOKだろ、動いてみ?」


軽く腕を動かすと、まるで自分の体のようにひょいっと動いた。・・・感動。


「ところで、なんで女の体なんすか?」


「え?趣味。あと、馬鹿な人間が寄ってきやすいから」


「あぁ、なるほど」


「なぁ、これで街行ってみようぜ」


「街って人間の街っすか!?冒険者だっているんですよ!?レベルの高い奴だったら速攻でバレちゃいますよ!!」


「大丈夫大丈夫、なんとかなるだろ。それにほら、今は中身あるし」


「そういう問題じゃないと思います・・・」


とにかく、そういうことになった。ここからちょっと離れた場所に人間の街、名前なんてったっけな?まぁいいや。人間の街があります。そこに行って人間観察することになりました。


「着いた・・・これが人間の・・・街・・・」


実は僕、人間の街、初めてだったりします。


「(おい、あんまキョロキョロすんなよ。堂々としてろ堂々と)」


「(そんなこと言ったって・・・こんな綺麗な場所初めて来るんですよ?ビッグスライムさんは来たことあるんですか?)」


「(いや、ねぇけど・・・とりあえず少し歩いてみようぜ)」


街に入った時からそうだったんだけど、人間がめっちゃ見てくる、ヒソヒソ話とかしてる。バレてんのかなぁ?いや、バレてないよなぁ、だって、ガワすっっっごい美人なんだもん。心にクるもん、勃起もんですもん。きっとみんなもそうに違いない、きっとそうだ。そう考えていると、店の人間が話しかけてきた。


「おい!そこの美人な嬢ちゃん!何か買ってってよ!」


「・・・僕達のことですかね?」


少し辺りを見回して近付いていく。人間は両手を広げて目の前の果物とかを見せてくる。人間の金、持ってないんだよなぁ・・・


「今は遠慮しておきます、また機会があれば」


「ありゃ、そうかい。それは残念だ。んじゃ、これはサービスだ、持ってきな!」


そういうと人間は林檎を一つ手渡してきた。僕はそれを口に運んで咀嚼するフリをする。


「(ビッグスライムさん、どうっすか?)」


「(おいこれマジでうめぇぞ!甘いしジューシーだし、汁がどんどん溢れてくる!めちゃうま!最ッ高!)」


「ガハハ!美味そうに食ってくれるじゃねぇか!次来た時は沢山買ってってくれよな!」


ビッグスライムさんが林檎を丸呑みしてしまう前に人間に手を振ってその場を後にした。誰にも見られないように路地裏に隠れて、ビッグスライムさんが林檎を消化するのを待った。深く味わうようにゆっくりと消化していく。


「はぁ・・・うっま・・・人間の金、欲しいなぁ・・・」


「いいっすねぇ、ビッグスライムさんは味覚があって・・・僕なんかただの骨ですからね、味なんてもう・・・」


その時、4人の人間が僕達を囲むように寄ってきた。


「なぁ嬢ちゃん、俺らと一緒に遊ぼうや」


えーっと、1、2、3、4・・・これやばくね?


「(やばいっすよ!ビッグスライムさん!マジやばです!!人間が!しかも戦えそうな奴が寄って来ちゃいましたよ!)」


「(あ?うるせぇなぁ・・・今堪能してるところだろうがよ・・・)」


「おい、話聞いてんのか?」


1人の人間がビッグスライムさんの肩に触れた。あー、これは終わったわ。


「・・・すぞ」


「は?」


「俺の邪魔しやがって・・・殺すぞ人間」


ビッグスライムさんは一気に4人の顔面に自分の体を貼り付け、そのまま体全体を包み込んで一瞬で消化してしまった。


「うっげ、まっっっず・・・あの林檎に比べたら人間ってこんなに不味かったんだな・・・今まで井の中の蛙だったわけだ。てか、もう最悪だぁ、林檎の味が上書きされちまったよぉ・・・」


「ビッグスライムさん・・・」


悲しそうなビッグスライムさんを見て何かしてあげられないかと言葉を紡ごうとした時、ふと残った人間の衣服を見て思った。あれ?これもしかして・・・


「ビッグスライムさん、ビッグスライムさん!」


「んだよ、今落ち込んでるって時によぉ・・・」


「今さっきの人間の服に金入ってたらしませんかね?」


「・・・お前、天才か?」


ビッグスライムさんは素早く人間の衣服に体を伸ばし、見つけた。


「4人とも持ってやがったぜこの金をよぉぉ!!!」


ビッグスライムさんは大喜びで金の入った袋を掲げる。


「良かったっすね!ビッグスライムさん!・・・あっ、でも・・・」


「どした?」


「僕達って、お金の計算出来なくないっすか・・・」


「・・・そう思うだろ?実はな、俺、吸収した物の記憶が自分の物になるんだよ」


「流石ですわ・・・てか、あれ?僕・・・何かレベル上がってる?」


レベル15だったはずのぼくがいつのまにかレベル20になっていた。


「あぁ、多分今俺とお前がパーティー組んでる状態になってるんだと思うわ。良かったな、これでレベルガンガン上がるぜ?」


「強くなれるんですね、僕・・・」


再び感動、そしてビッグスライムさんも再び林檎が食えることに感動。2人して感動。


「よし!そうと決まりゃ早速買いに行こうぜ!林檎をよぉぉ!!」


「お〜!」


この喜びを人間にバレないように歩きつつ、しかし、ビッグスライムさんの顔は満面の笑みで林檎を買いに向かった。・・・そんな僕達を見つめる者がいたことに僕達は気付かなかった。


「・・・あいつらは・・・」

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