第4章 冬とトナカイの謝罪
高校3年生の冬。世間ではクリスマスという大きなイベントのためにカップルが増加していた。あの日金木犀の下で約束したクリスマスまで残り二日。12月下旬なのに未だに雪は降っていない。そして二日はすぐに過ぎていった。
当日、目が覚めると変に目覚めが良かった。普段ならなんていうか、目が開きにくいような、布団から出たくないような、そんな朝なはずなのだ。そんな奇妙な目覚めについて気に留めている暇はなかった。服や髪型、香水はつけるべきか、本当に何もわからない。今までの経験値の浅ささが今の僕を苦しめている。12時の約束、私は気合を入れすぎたようだ。1時間も早く着いてしまった。外にいても寒いが、中にいてもすることがない。私はとりあえず外に出て深呼吸。すーと鼻から大きく息を吸い込む。冬の空気は鼻の中を巡り喉の奥にツンとした鋭さがある。冬というのは本当に気まぐれで、でも憎めない。そんな季節なんだろうな。
「お待たせ、待たせちゃった?」彼女は少し息を切らしながら言う。「さっき来たばっかだよ。」私はこの言葉を一度言ってみたかったのだ。正解の返答かわからないがカッコがついたのであまり気にしないことにしよう。「それじゃ行こっか。」私たちは肩が触れるか触れないかギリギリの距離感で歩き始めた。彼女とはいろんなお店に行き、たくさん笑い、気づいたら日が傾き始めていた。
彼女は突然言った。「拓海はサンタさんみたいだね。」「どゆこと?」私には理解ができなかった。いや、衝撃で考えられなかったのだろう。「拓海は私にいろんなものをプレゼントしてくれたから。」私はすかさず聞き返した。「じゃあ、美穂はなに?」美穂は少し口角を上げた。「私はトナカイ。可愛いでしょ。」私は心底呆れたが、彼女らしいなと思いバカらしくて笑ってしまった。こんなに笑ったのはいつぶりだろう。本当に彼女といると心が穏やかになるというか、気を遣わないでいられる。私がサンタであると彼女が言うのなら、彼女はまさしくトナカイであり、二人で一つなのだ。突然彼女の携帯がなった。彼女はごめんと言い残し離れていった。
結局2時間以上待ったが彼女は帰ってくることはなく、私は一人で帰った。何度も電話やLINEを送ったが音沙汰がない。その日のことはうろ覚えで、どうやって家に帰ったかも覚えていない。確かなことは彼女が突然いなくなったことだ。
次の日の朝、昨日と同じように目覚めた。でもひとつ違うのがこの胸の痛みだ。もう会えないんだな。私は彼女と出会った頃を思い出し、そう感じた。昨日私は告白をしたかった。私が生きている意味、理由、ずっと一緒にいたいと心から思わせてくれる人だった。悔しい、いや寂しい。けど彼女と出会えて良かったと心から思う。ありがとう。
私は溢れた涙を袖で拭い視線を横に向ける。外は綺麗に雪が降っていた。
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