第3章 秋と金木犀の香り
高校3年生の秋。推薦入試に向けて私は学校に残り勉強をする時間が多くなっていた。海で彼女とLINEを交換して以来3ヶ月、会話はしているのだがなかなか進展もなく返信のペースも次第におそくなっていった。
家に帰り、疲れた体をベットに沈める。気持ちいい。目が覚めると12時を回っていた。リビングにあるテーブルの上には回鍋肉が作られてあり、ラップがかけられている。母の残した「レンジで温めてね」の文字になぜだか心まで温められた。回鍋肉をレンジに入れ温める。太ももに微弱な振動が走る。彼女から電話が来た。私はびっくりしてしまい、すぐに電話に出てしまった。「ごめんね。いきなりかけちゃって。起こしちゃった?」彼女の声は電話越しでも透き通っている。「いや、別に起きてたよ。」ほんとに情けない。なぜいつも彼女を目の前にすると緊張してしまうのか。「全然寝れなくて電話かけちゃった。」彼女は夜だからかすこし声を小さくして言った。私は言う。「寝るまで話そう。」彼女の声が少し大きくなった。「うん!」私は彼女のそばにいることができて嬉しかった。今までは私からは遠い存在の彼女だったが、今は私を頼っていてくれるようにも感じる。「何話そうね。」彼女は少し笑いながらいう。私は自分しか知らないような話を続けた。「こんな話聞いてもつまんないよね。」「ううん、話続けて。」彼女の落ち着いた声が聞こえた。何時間話したのだろう。君の声はもう聞こえなくなっていた。私は言う。「だいすきだよ。」そしてそのまま電話を切った。外はもう明るい。
一時間ほど寝ただろうか、時計は7時半を指していた。完璧な遅刻すぎて飛び起きる心配もない。ゆっくり準備でもしようか、そう考えていた。一時間かけてゆっくり準備をする。8時半だ、もう行こう。そして仙台駅まで歩いて行った。
20分ほど歩けば仙台駅の東口だ。ここからホームまでは10分ほど歩く。突然肩に優しい衝撃がくる。「拓実も寝坊したんだね。」美穂が笑いながら話掛ける。「美穂も寝坊?」「そうなんだよね。誰のせいだろ。」美穂はクスクスと笑う。美穂は笑った時目が細くなる。そんな彼女の顔が大好きだ。「拓海!どーせ遅刻するなら公園でも行かない?」私は数秒彼女を見つめて「しょうがないな。」という。私の心の中はお祭り騒ぎだ。
5分ぐらいだろうか、少し歩いたところにある公園は金木犀で溢れかえっていて、すこし涙があふれそうになる。「泣いてる?」彼女は本当に私の心を読んでくる。「去年ここに来た時にすごい綺麗だなって思って、今度は大切な人ときたいなって思ってたんだ。」私はこんなこと言われるのは慣れていない。「大切な人とこれた?」私は自分に自信がなかった。こんなに可愛くてスタイルのいい女の子が私のことを大切だと思っているはずがない。「いるよ、今。」美穂は続けて言う。「最後寝ちゃった時、大好きって言ってくれたよね。ありがとう。」私は今世紀最大のミスをしてしまったようだ。寝ていると思った彼女が起きているなんて。「バカだね。拓海は。」二人はクスッと笑い彼女と私の間に金木犀の香りを乗せた風が吹き抜ける。「クリスマス、これで一人じゃないよ。」美穂の笑う顔は、泣いてるような笑っているような顔だった。ぼくは言う。「好きだ。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます