第2話 魔法少女

あの女を川から引っ張り上げた後、ずぶ濡れのまま放っておける訳もなく家に連れて帰った。


「あれぇ、遅かったなあんた、今帰ったん?ご飯は?」


母はリビングでテレビを見ながらこちらを見ていなかったのでチャンスだ。友達として上げるのは構わないが、なにせまだ得体のしれない女だし、なにより濡れているのは不振に思うだろうから気づかれないようにしたい。


「ただいま、ご飯食べてきたからいらんで!遅なってごめんー。取り合えず風呂入るわ~。」


嘘だ、腹ペコなのにこいつのせいでまったく!


「ほら、急いでそのまま風呂行って!こっち!」


風呂場に入って急いで扉を閉めた。


女「ちょっと!自分で脱げるから!」


「ほなはよ脱いで!私も一緒に入ってまうから!」


女「えぇ~?案外スケベなんですかい?」


にやにやしながらこちらを見てくる。


「ちゃう、いいから風呂浸かって!」


確かにここまで、私はずっと焦っていた。やっと落ち着いたら、さっき会ったばかりの非科学的な謎の女と一緒に風呂に入っている状況に

なんだか笑えてきた。


「ごめんごめん。まぁあんなもん見せられたらこうなるし。てか名前聞いてなかった。私は斎藤キキ。」


あき「あはは!さっきの今で、一緒にお風呂入ってる~!変なの~!私は、あきだよ!よろしくね。」


こんな感じで話せる程度には仲良くなり、危険な人というわけでもなさそうだったのでその日は家に泊めた。


次の日起きたらあきはいなくなっていた。夢ではなかったはずだけど。あの不思議すぎる体験を詳しく知りたかったのに、どこに行ったんだ?


今日は土曜日だが何もする事がなかったので、昨日の事をいろいろ考えていた。私は結構、プ●キュアとかそういうものに憧れていた時期もあったが、そもそも全然そういうのが好きなキャラでは無かったから、隠していたし興味のないふりをしていた。


どちらかというと不良が似合いそうな見た目と

スタイルだったけど、いたって普通の高校生になって、そんな気持ちも忘れていた。でも昨日の事があって、びっくりはしたけど同時にとてもワクワクしていた。あれがそういう、魔法少女的なものならやっぱり対照的な悪の存在もあるのだろうか。こんな平和な世の中で今までそんな存在に気が付きもしなかったが。


色々考えていると、昼過ぎになってお腹がすいてきた。母はパートに出かけているし、下に降りてカップ麺でも作ろうかと思っていた時、部屋の窓が開いた。


「ハロハロ~!昨日ぶりだね!お邪魔します!」


そういうと杖のような長い棒に跨って、あきが入ってきた。


あき「窓から失礼します!キキ!朝はごめんねぇ、ちょっと用があってさ!寝てるキキ起こさずに出てっちゃった!」


「いやぁ、なんていうか想像どうり、空も飛べるんやな・・・。」


驚きはしたけど、もうなんか、昨日よりは冷静だった。


あき「あのねぇ、色々説明しに来たよ!取り合えず自己紹介!改めまして、私はあき!17歳だよ!ちなみに明日からキキと同じ高校に転入することになりましたぁ~。おんなじクラスだよ。」


「へぇ・・・。」


あき「喜んでよね!そんでね、この世界には私と同じ魔法少女がいるの!各国に数名ずついるみたいなんだけど、日本には私含めて5人。でー、魔法少女はヒーロー的な存在だと思ってね、まぁヒーローがいるということはですねぇ、お察しの通り悪の存在も・・・。」


話しながら身振り手振り、表情もなんと豊かな奴だ。


あき「普通の人には悪、ダーク達は普段見えないんだけど、不審死、行方不明者とかそういうたぐいの事件はほぼほぼ奴らの仕業で、そいつらの悪事をとめて成敗するのが私たちの役目ね!


あぁ、基本的にはそれぞれ一人行動だよ。違う場所に同時出現とかするからね~、厄介なのよ。また皆も紹介するね!


私達は、生まれた時から魔法が使えたの、元から決まってて産まれたというか、こことは別の世界があって転生してきたの!前世の記憶も残ってるよー。」


プ●キュアに似ているけどちょっと違うのか。


その後も色々と教えてもらった。あき達は教会で生まれたらしく、それぞれ赤ちゃんの頃から前世の記憶があり、使命を全うするため大人たちを暗示にかけそれぞれの拠点に散るように

引き取られていった。


育ての親に事実を隠し、5歳の頃から人の目につかぬよう、この前のように時間を止めつつ

ダークと呼ばれる敵と戦ってきたらしい。


彼女たちがいた世界と、この世界は本来交わることがなかったが、ある時大きな歪みが発生し、この世界との繋がりができてしまった。


向こうの世界でも悪さをしていたダーク達だけが、こちらの世界と行き来が出来る状態で、魔法を使う人間側は歪みのもつ強い酔いに耐えられず、その穴に入ることはできなかった。


しかし教祖が神の信託により転生という形でこちらに来ることができると確信し、数十人の仙人達をこちらに寄越した。


そう、あきは元々向こうでは105歳の老人だったらしい。


「でもなんで、こっちに来たん?違う世界やし放っておく事もできたやろ。」


あき「いやー、なんかダークって向こうではそんなに脅威でもなかったんだけどさ、こっちから帰って来たダークは超強くなってて!手が付けられない程、もう天災級よ。


もともとあっちの世界の脅威って魔物って呼ばれる種族なんだけど、ダークはそれの成りそこないって感じ。


でもその魔物よりも強くなっちゃってさぁ、教祖によると後300年で向こうは人類滅亡!」


「300年って、先過ぎて実感ないいうか・・・。」


あき「あぁ、向こうの100年はだいたいこっちで1年!時間の流れが違うんだよね。」


「んな、後3年⁉」


あき「だねぇ、それまでに穴を塞ぐこととダークの殲滅が私達の使命てわけ。」


やれやれ、と首をかしげながら続けた。


あき「教祖は不死でさ、定期的に情報交換をしてるんだけど、私たちが転生してから17年でしょ?穴が開いてから向こうでは1700年経ってる。


その間に人類は元の4分の1くらいに減っちゃったんだって。


それでも何とか結界魔法を進化させていって、子孫を残しつつ私達が穴を塞ぐ事をずっと待ってる。泣けるでしょ?」


こんなに壮絶な話を軽いノリで話している。


寿命はこの世界とあまり変わらないらしいから、向こうで唯一の知り合いは教祖だけ。だから割と他人事なのだろうか。


一通り説明を受けて、私はある重大なことに気が付いた。


「・・・。てかさ、普段ダークとやらと戦うときは昨日みたいに時間止めんねやろ?・・・なんで私止まらんかったん・・・?」


すると、あきは目を輝かせながら勢いよく飛びついてきて私の手を両手で握った。


これは王道パターンか?私も・・・?


不安と期待とでドキドキしながらあきを見た。


あき「キィィキ‼本題はそれ!ついに見つけた、あなたが歪み!」


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