旅の終わり
一行は、グーデルバインには3日ほど滞在――その間、コータからの初仕事に燃えるニーナは、毎晩の様に賓客館と呼ばれる一行の宿舎に通い詰め……
「――コータの旦那っ!、次に会う時……ランジュルデ島で会う時を楽しみにしててくだせぇっ!
ご所望の異界の剣!、精魂込めてぇっ!、仕上げたモノをご覧に入れやすんでっ!」
――と、一行が発つ時には、気合に満ちた様子で彼らを見送ったのだった。
ちなみに――通い詰められても、年齢制限無し展開を掲げる、コータの尊厳を守るため、ナニもしていない事は――この
(――ロリドジっ子のヤネスに、姉御乙女のニーナ……よくもまあ、種族にピッタリで、定番な"属性"を並べてくれたモンだ)
――場面は替わって、ココはコータの精神世界。
彼は今、これまでの旅程で紹介された、自分のトコロに派遣されるという者の事を思い出していた。
(――まあ、彼女たち以外にも、専売権絡みの仕事を受け持つ職人や商人、政務の類をお願いする、公的な立場の人も居るには居たけど……ったく、シンジが余計な事を吹き込むモンだから、トンだ風評被害を被ってるぜ……)
精神世界のコータは、訝し気にそう呟くと、続けて大げさ気味に溜め息を吐く。
(――で?、島に着いた晩は、どちらの娘にするつもりじゃ?)
(……阿呆、言ってろよ――スケベジジイの魔神様)
いやらしく尋ねて来るサラキオスを、コータは一蹴してゴロリと横になり、煩わしそうに眼を閉じる。
(だいたい――俺はもう、おっさん寄りの歳だぜ?、確か……ヤネスは16、ニーナは18って言ってたはず。
異世界だけに、丁度それぐらいが、いわゆる"適齢期"なのは解るが……チュンファの時も言ったけど、もしそんなコトになろうモンなら、現世じゃモロに犯罪なんだ。
何より、そんな気になれるのは、"ソレ系の属性"持ってるヤツだけだってのっ!)
コータは頬杖をつき、不満気にそう苛立ちを表すと……
(――良い娘なんだよ、二人とも……だから、大事にしてやんなきゃなって思うから、俺は俺でイロイロと責任感じてんだっ!
依り代の
――いわゆる"地雷"を踏んだ形となったサラキオスに、烈火の如く叱責をぶちまける。
(そっ、そんなに怒らんでも良かろうよぉ……我は我で、お前との関係を深めようとだな……いや、すまん、悪かった)
サラキオスは青菜に塩と言った体で、コータに詫びを入れた。
世界を滅ぼさんとした魔神も――こうなった以上は、主導権は依り代側にあるという証拠である。
それを自ら望んだという事は、この魔神の属性は……いや、止めておこう。
(――ならば、お前が好むその
サラキオスは話題を少しずらそうと、コータに好みのタイプを聞いてみた。
(――だからぁ、アニオタではあっても、キャラ萌えはしないから、返答に困るんだよ……第一、彼女とかが居た経験も……)
(……いや、良い――悪い、話を振ってしもうたなぁ……)
コータは結構なレベルのカミングアウトをしようとするが、サラキオスは何やら気を使う恰好で話を閉めようとする。
(おい……ここまで言わせて、ココで切られちゃあ恥掻いただけじゃねぇか。
尋ねたんならまずは聞けよ、俺の属性)
コータは眉間にシワを寄せ、半ば強引に……
(――というワケで、属性の類はいたって一般的。
歳はそれほど離れていないのが望ましいし、綺麗事には聞こえるだろうけど、顔やスタイルはどーでも良い……ぶっちゃけ大事なのは、こんな別に取柄も無くて、顔も良くねぇ、”俺を好いてくれてる人”が、俺の属性なんだろうな)
――と、実に平凡な答えを返したのだった。
「――コータ殿は、寝てしまったのかな?」
――と、場面は現実世界に戻り……って、まあ異世界に来たコータからすれば、その表現では少し語弊があるかもしれないが、ココは一行が乗る馬車の上である。
寝転がっているコータに声を掛けたのは、御者台に座っているアルム――彼は幌をめくり、その先で寝転がっているコータに、返事は期待していないそんな尋ねをしていた。
「――慣れない世界で、慣れない旅路をもう、一月も続けておられるんです。
お疲れとなって、睡魔に襲われても当然でございましょう」
替わって返事をしたのは、アルムの近くで、共にコータの寝顔を眺めているミレーヌ――彼女は、同情も滲む声音でそう呟いた。
グーデルバインを発った一行は、2日後の昼頃にはドワネとヒュマドの国境に差し掛かり、ついに目的地であるワールアークの都があるヒュマドの国へと入った。
今はそれから更に4日後――旅程どおりなら、そろそろそのワールアークの街の様子が、遠目になら見受けられそうだと言う頃合いだった。
「――さて、これまでは何れも、他国の歓待を共に受ける立場だったけど……今度は、僕たちもヒュマドの者として、新しいサラギナーニアであるコータ殿を迎える側だからね……少し、これまでとは心情が違うよ」
「私も似た様なモノです――ヒュマドの皆様に間借りをしている立場とはいえ、我らエルフィも、わざわざ異界から御越し下さった、この世界の救世主であるコータさんを、どうお迎えするかで、気が気ではありません」
両種族の王子と姫は、神妙な顔をして見詰め合う。
「『魔神が異界からの依り代に封じられた時点で、サラキオスを悪神として扱う事は止め、ホビルやドワネ同様、サラギナーニアを魔の神を鎮めた英傑として奉るべし』――という、両王家の名の下に発布された4族長会談の結論を、良くは思わない民も少なくはないでしょうから、国を滅ぼされた立場である我らが、果たして手放しに迎える事が出来るかどうか……」
ミレーヌが渋い表情をして、不安気にそう呟くと……
「――それが、僕たち王族の腕の見せ所さ。
僕らはこの旅路で、新たなサラギナー……いや、”コータ殿という御仁”の、人となりを粒さに観て来たんだ。
それで感じた事をそのまま伝えれば、
アルムが、励ます様に彼女の手をギュッと握ると、ミレーヌは微かに赤面して黙り込む。
――プッ、プッ、プワァ~~~ンッ!!!!!
その時――馬車の進行方向から、ラッパの音色の様な音が高らかに響いた。
「――どうやら、向こうでも僕らの姿を視認した様だね。
さあ、ようやく……この長旅も終わりの様だ」
アルムはホッとした様子の溜め息を交え、それがワールアークからの合図である事を明かした。
――
――――
――――――
「――王子殿下とっ!、ミレーヌ姫の凱旋であ~るっ!、一同っ!、敬礼ぃっ!」
――ザザッ!、ワァァァァ~ッ!!!!!
ワールアークの周りを占めている城壁の門を馬車が潜ると、その先に居たのは無数の騎士鎧をまとった者たちで、その頭目らしき更に豪奢な造りの鎧を着た者が、猛々しく挙げた号令に合わせ、その無数の鎧騎士が一斉に馬車へ向かって敬礼をする。
その騎士たちの後ろには、王子たちの凱旋と新たなサラギナーニアの姿を見物しようとしている市民たちも、鈴なりとなって集まっており――パレード状の沿道を構成していた。
「――へぇ、この光景……奇しくも、"エセ中世ヨーロッパ"と言われがちな街並みにより近いな……ホビルやドワネとは違って」
御者台の左右で沿道の鎧騎士たちに向けて手を振っている、ヒュマドの王子とエルフィの姫を他所に、幌から顔を出したコータはそんな戯れ言を吐露した。
その戯れ言の根拠は、何も周りに集まった鎧騎士たちだけを指すモノではなかった。
街並みも、煉瓦――らしき石造りの建物が多く、藁葺風や土造りなど、如何にも妖精種族っぽかった、ホビルやドワネとは、正に一線を画している様相にコータは見えていた。
「――コータ殿、幌から顔を出す事はお控え頂きたい……
王子殿下は、新たなサラギナーニアのお披露目の際には、"少し趣向を凝らしたい"と思っているとの事でした故」
「ああ、そうでしたね――年甲斐もなく、はしゃいじまってすいません」
――と、重みのある声音で指摘して来たジャンセンに、コータは照れながら頭を掻いて詫びて見せた。
どうやら……何か、打ち合わせ済みな企みがある様である。
馬車が沿道を恙なく進むと、その先に見えたのは大きな西洋風の城で――威容も醸す、その外観に見える広大なバルコニーには、豪奢に誂えられた2席の玉座があった。
それを視認したアルムとミレーヌは、沿道へ手を振る事を止め……その2席の玉座へと向き直り、深々と一礼をする。
その様とその意味を悟ったジャンセンも、幌越しではあるが深々と一礼し、それに追従する様にチュンファ、そしてコータも同様の一礼をする。
「――右手に鎮座せしめ居られているのは、我らヒュマドが王……"プラート・ヒュマド・キガラーニア"陛下。
左手に居られるは、エルフィが女王――"ミーシャ・エルフィ・クィラーニア"様にございます」
幌越しなので、ぶっちゃけ見えてはいないのだが――どこかで観ている様な素振りで、ジャンセンはコータに現状らしきモノを解説する。
コータは、アルムの父とミレーヌの母だという事実と、前もって聞いてはいた、その両王の年頃などから推察した、二人の容貌を思い浮かべながら一連の儀礼を終えた。
丁度”年頃”という単語出たので触れておくが――この作中というか、クートフィリアにおけるエルフ……エルフィ族には、"ありがちな長命設定"――つまり、ウン百、ウン千、ウン万年を生きているのに、見た目は少年少女――的なモノは存在しない。
ちなみに――コータはこの旅の最中、そういえば……的なテンションで、ミレーヌに年齢を尋ねたのだが、見た目どおりとも言える、17歳と答えられて拍子抜けを喰らい、それらありがちなモノからウン百歳を想定していたと吐露すると、流石に温厚な彼女も憤慨して立腹していたモノだ。
しかし、魔力の絶対量に長けた種族だからか、他族よりは長命な事や老化が鈍い事は確からしく――シワ一つない若々しい見た目のまま、寿命を迎える者がほとんどで、故にそーいう俗説が現世に残ったのだろうというのが、ミレーヌの見解であった。
一連の儀礼の中も馬車の歩は進み、二種族の王が待つ、バルコニーへと続く階段の手前でそれは停車した。
その周りにも、王たちの警護を兼ねた兵を先頭に、その一連を観ようと集まった観衆の類は鈴なりとなって居、…その進行を凝視していた。
アルムとミレーヌは御者台から立ち上がり、アルムは左手、ミレーヌは右手を幌の窓へと差し向け――その両者の手を"何か"、いや"誰か"が掴んだ。
「――おっ、おいっ!、あの手……っ!」
その掴んだ手を観ていた者たちから、ザワザワとした悲鳴染みた歓声が起こった。
その手にあったのは――この世界の者の殆どが、脅威の存在として観ていた者にもあった、"黒い文様が入れ墨の様に肌に刻まれた姿"に見えたのだ。
続いて――ヒュマドの王子と、エルフィの姫の手を握る『ソレ』が、幌の窓を潜り出て姿を現したのは……右半身中にその文様を現わしている、黒髪の男であった。
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