<2> 父ちゃん行くなよ

「あなた、スマホ鳴ってるわよ」

「お? ……はい、あ、どうもお疲れさまです……ええ、今日は午後から出社の予定ですけど……あ、ええ……あ、そうですか、はい、わかりました……ああ、大丈夫ですよ、ちょっと早めに行こうと思って今もうすぐ出るところでしたから」




え? 父ちゃん仕事か? 出かけちゃうのか? やだよ、もっと遊ぼうぜ




「どうしたの?」

「課長から。午後2時に来るお客さんから1時にしてくれないかって連絡あって、ちょっと早めに行かなくちゃならなくなった」

「そう、大変ね、もう出るの?」

「うん、準備もあるし、すぐ行かないと」




まじ? 父ちゃん行っちゃうのか? やだよそんなの

もうひっぱたかないからさ、父ちゃんもっと遊ぼうぜ。




「はーい、洋。ごめんねー、抱っこ終わり」




えーやだい! やだい! やだい! もっと遊んでくれよー父ちゃん行くなよー。




「洋ここに座らせておいていいかな?」

「うん、もうすぐ台所の片付けが終わったらおっぱいあげるから」




おっぱいなんかいらねーよ、もっと掌(てのひら)叩いて遊びたいよー

もう強く叩かないからさ、父ちゃん行くなよー、なんだかものすごく悲しくなってきた

父ちゃん行くなよー、わーん! 遊んでくれよー!




「あららら、洋、泣き出したよ、弱ったなぁ……よいっしょっと、どした洋?」




そうだよまったく、こうやってすぐに抱っこしてくれれば俺も下手に泣かずにすんだんだぞ!

父ちゃんの抱っこは大好きだ! フワフワ揺れて気持ちいいーへへへ。




「ははは、抱っこしたら泣き止んだ。パパに行って欲しくないのかなー? 洋はいい子でちゅねー」




だって母ちゃんは、家にいる時はいつも部屋の中歩き回っててさ、ちっとも遊んでくれないし

父ちゃんはたまにしか家にいないけど、いる時はずっと抱っこしてくれるし遊んでくれるからなぁ。




「時間大丈夫? 泣いてもいいから、もう行ったら?」




おいおい母ちゃん、なんて事言うんだよ! せっかく人が気持ち良く抱っこされてるのにさ

父ちゃん今日はもう行かないよな?




「そうだね、行かないと……じゃー洋、パパはこれからお仕事でちゅからね~ごめんね~、ほら、ここでいい子にお座りしてるんでちゅよ~。もうすぐママがおっぱいくれまちゅからね~」




えーー、嘘だろ? 父ちゃん行っちゃうのか? 俺を騙したなー……わーん!!!




「洋、もうちょっと待ててねー、今あげるから」




おっぱいいらねーよ! だから父ちゃん行くなよー、うわーーん!!!

すげー悲しいよ、涙が止まらねー、どうしちゃったんだ俺?

悲しくて寂しくてどうしようもないよー、わーーん!!!




「困ったね、洋が可哀想だな。おい! 早くおっぱいあげなよ」

「待ってよーすぐ行くからぁ。いいから行って。泣いてても大丈夫だから」




ひでぇーよ母ちゃん! 全然大丈夫じゃねーよー! 俺の悲しみはそんなに甘くないぞー

もしこのまま父ちゃんが行っちゃったら俺は一生泣き続けるからなぁ!




「じゃー洋、バイバイ、そんなに泣くなよー、帰ったらまた遊ぼうね。バイバイ」




なんだよー、笑顔で手を振ったって、そんなんで俺が泣き止めるわけないだろー

そんな子供騙しみたいな事すんなよー!


俺だって父ちゃんが行くのは仕方ないって頭ではわかってるんだけど

心はそうはいかなくて俺にもどうしようも出来ないんだよー

この事態にどうやって収集をつけるんだよー

何かうまく納める方法考えてくれよ、きっかけがないと、俺も泣き止むタイミングわかんないよー

なんとかしろよー、ほんとに一生泣き続けるぞー!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る