<3> 「おぎゃぁ(寒いぞ!)」

俺の体も相当でかくなっていて

前みたいにフワフワ居心地がよかった時に比べると、絶えずギュッと抱っこされてるような感触だ。

それはそれで気持ちいいんだけどな。


そろそろかなー? っと思う頃になると、俺は寝てる時間が多くなるんだ。

そして、最後の意識が遠のいて……突然起こった天変地異にたたき起こされる!


痛! 痛たた!! おいおい母ちゃん何事だよ!

今までゆりカゴみたくやんわりしてたのにグイグイ収縮して俺をつぶそうとする!

頭がグイグイ締め付けられる! うあ~たまったもんじゃねぇ……痛ぇ~~!!!




「赤ちゃんの頭が出てきましたよ! もう一息、吸って~吐いて~」

「ヒィーヒィーフー、あぅぅぅ!!!! ハァハァ、ああああーーー!」

「頑張って、肩が出てきたわ、もうすぐよ!」




まわりがうるせ~!

身体中が締めつけられる!

痛ぇぇ~生まれる前に死じまう~~!




「はぅぅぅぅ!!!! ……ハァハァハァ」

「はーい、頑張ったわね! 元気な男の子ですよ~」




気付くと全身の皮膚がヒリヒリする感じで、体中の骨がパキパキ音も無く伸びるような痛み。

頭が特に、つぶされたゴムボールがゆっくり元にもどるような、すごく変な痛みの感触。


そして何よりも、スゲー寒い!!!!


身体中の筋肉痛とあまりの寒さに耐えきれず俺は、

「寒い!!!」って叫んだつもりが、

「おぎゃぁ」って声になってしまってびっくりだ。


それで何故か「おぎゃぁ」って声が止まらないんだよな。

肌はヒリヒリするし

体中はパキパキするし

頭はボワッとするしで


今まで狭いとこにギュッと抱っこされてた体が急に解放されてぶったまげてさ

これは声というよりも、全身の叫びって感じだな。




そして急に不安になるんだ……

不安というよりもものすごい恐怖と言ってもいいくらい

今までずっと母ちゃんにピッタリくっついていたのにさ

いきなり周りに何もなくなっちゃうわけじゃん?


俺にとっちゃ人生最初の超スペクタクルな体験だったわけよ。

誰か知らない人の手の感触もスゲー嫌な感じ。

そのまま運ばれてると思ったら、いきなりお湯につっこまれる。

これはまぁちょっと気持ちよかったけど

でも、少し前までいた場所の暖かい優しい抱っこに比べれば月とスッポンだ!


もう、嫌で嫌で、悲しくて、怖くて、しまいには頭に来てさぁ

「おぎゃぁ! おぎゃぁ! おぎゃぁ!」って、

狂ったように俺は叫び続けたよ。




そしたら急に……なんかものすごく懐かしい暖かい感触に包まれたんだ。

さっきまでいた場所とは全然違うけど、でも、すごく似ている……。


懐かしい暖かさと優しさに満ちている、そんな気がしてすごく安心した。

まだ目が開けられないけど俺は確信したよ、母ちゃんに抱っこされてたんだ。


気付くと「おぎゃぁ」って叫ぶのも止まっていた。

俺の意思とは別に本能ってやつ? それが俺にここは安心だと告げているようだった。




母ちゃんの声がしてさ

「洋、頑張ったね洋、ママよ」って

なんだか母ちゃん涙声になってるし、何回も俺に話しかけて来てる気がするんだけど

言ってる事もなんとなくわかるんだけど

今までと違ってはっきり聞こえないんだよなぁ……。


今までは頭の中に直接聞こえてた感じだったのに

今は耳のそばでいて遠くからのようでもあり

ひそひそ声でしか聞こえなくなっちゃったみたいだ。


だけど母ちゃんの声はとても優しくてさ

その声の響きが伝わってくるだけで

今すげー痛かったこととか寒かったこととか全部忘れてホッと出来たんだ。




いやーそれにしても疲れ果てたぜ。

母ちゃんは「洋頑張ったね」って言ってたようだけど

やっぱり俺、相当頑張ったんだろうな、もう眠くて眠くて仕方がない。




俺は母ちゃんに抱っこされたまま爆睡したみたいだ。

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