第2話 冒険の宣伝に出かけます

 領地の名前をエンカウンター領地と言った。

 父親との思い出が濃厚で記憶から離れる事は無いと言ったらウソになる。

 母親との記憶はあまりない。小さい頃にお亡くなりになっているからだ。

 父親との思い出は夢世界が塗りつぶした形となる。

 15年間も眠り続けるダメ息子に父親はどんな感情を抱いていたのだろうか。


「きっと悲しくなって発狂してたに違いない」


「そんな訳ないでしょ、あんたの父親はアンタの事を最後まで願っていた。いつか起きてくれる事をね」


「そうか? あの父親の期待は異常そのものだったぞ、発狂してたぞ」


「は、ははは、ははははははは」


 フウはただただ笑うしかなかったようだ。

 俺達は現在領主の屋敷ではなくリサイクルドリームショップとなった建物を眺めていた。


「基本この世界の代物はコレクションしてないから、欲しい、だから基本は夢世界の物を売りさばいて、この世界の物を買い取りたい」


「それが良いわね、あんたの強さも見てみたいわね」


「きっと驚くぞ、というよりかは、夢世界では最強という二つ名で通っているんだぞ」


「そのまんまじゃん」


 背筋は猫背、歩き方はよぼよぼ、ほぼほぼ人生をかなぐり捨てた風体の俺は本当に強いのだろうか。


 体が軽くなっているのは確かに感じるはずなのだが。


 問題があるとすれば、筋肉? でもないか、夢世界で筋肉は保持しており、それはこちらでも影響されるはずだから。


「心の問題という奴かな、一応門番を置いておこう」


「そんなんあるの?」


「ああ、あるぞ、夢世界では案山子と呼ばれていた」


「それはこっちも同じでしょ」


「ちょっと意味合いが違う。案山子とは言え、その案山子は戦闘案山子だ」


「やばそうね」


 コレクションブックから戦闘案山子を取り出すと、リサイクルドリームショップの入り口に設置した。


 戦闘案山子はこちらの顔を見て会釈するだけだった。

 主を理解しているという形なのだろう。


 戦闘案山子はぐるりと回転すると、リサイクルドリームショップの周辺を調べるように観察して動いている。


「へぇ、案山子って動く物なの?」


「きっと動けるようになったのさ」


「へぇ」


「では、まずはマウンテン王国に向かうとしようか、あそこなら大勢の人口だし、いい宣伝になるだろう」


「そうね、でもあそこ、隣のカイガンセン王国と戦争中よ」


「それはナイスだ。戦争を止めて、コレクション達の有能性を見せ付けようではないか」


「いあいあいあ、いくらなんでも2人だけで戦争は止められないわよ、あそこ10年も戦争してるもん」


「うむ、力でねじ伏せるのが良いか」


「あんたふざけてるの?」


「ふざけておらんぞ」


「あそこには破壊勇者と創生勇者が戦い続けてんのよ」


「勇者なぞは夢世界にごまんといたぞ」


「へ、へぇ」


 どうやらフウにとって夢世界は理解不能な世界になりつつあるようだ。


「仕方ない、君を夢世界に招待してやろう」


「そんな事も出来るの?」


「手を握ってごらん、さてベンチがあるから、座って目を瞑って」


「ドキドキするわね」


 2人はベンチで座りながら、ゆっくりとゆっくりと意識が暗闇に包まれた瞬間。


 世界は虹色に輝いていた。

 惑星があちこちに飛んでいて、宇宙空間を2人は手を繋いだまま飛翔している。


「ひいいいいい」


「手は離さないように」


「はい」

 

 宇宙に水があり、川があり、巨大なサメが泳いでいる。

 サメはこちらを見るとにこりと笑った。


「ようゴンザメ」

 

 俺は大きな声で叫んだ。


「今日は珍しい客人だな」


「夢地球に連れてってくれ」


「おう、いいぜ、捕まりな」


 ゴンザメ、巨大なサメの乗り物に乗ると、俺とフウは夢地球に連れていかれる。

 そこに辿り着くと。大勢の人達が歩いていた。

 

「あれはコンクリートで作られた道路なんだ。光ってるのが信号で、建物がビルって呼ばれてたりマンションだったり、動く乗り物が車だ。ゴンザメありがとな」


「良いってことよ」


「こ、これ本当に夢世界なの?」


「ああ、夢の世界ではないんだ。1つの異世界なんだよ、ただ俺は夢を介して彼等と話をする事が出来る。まだ干渉してないからこうやってふわふわしている。干渉を意識すると俺達は地上に降りて歩く事になるが、死ぬと物凄く痛い。けど本当に死ぬ訳ではない、別な所でまた再生されるだけなんだ」


「じゃあ、あそこで歩いている老人も、あそこで泣いている子供も、全部生きてるのね」


「その通り、この夢世界の異世界では求められる物が変わってくる。ある場所ではスリルを、ある場所では助けを、ある場所ではお金を、ある場所では力を」


「なんだか頭がぐちゃぐちゃになりそうだわ」


「そうでもないさ、じゃあ。元の世界に戻るよ、深呼吸して」


 2人が軽く深呼吸を繰り返すと、2人の意識はベンチに戻り。

 手を慌てて引きはがす。


「ぜぇぜぇ」


「最初は体の筋肉が緊張するんだ」


「そうなんだ」


「これで、俺が嘘をついていないと分かったかな」


「すっごくあり得ないけど信じる」


「それはありがとう、今度こそマウンテン王国へ向かおう」


 それから人生で初めてエンカウンター領地から出発した。

 きっとフウは二度目の出発になるのだろうけど。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る