第2話

一、四柱推命と西洋占星術と


一八四二年十一月十八日0時三十五分


   天干 地支 蔵干 天通変 地通変 十二運星

年柱 壬(水)  子(水)  癸(水)  傷官  食神  長生

月柱 庚(金)  戌(土)  戊(土)  劫財  印綬  冠帯

日柱 辛(金)  亥(水)  壬(水)      傷官  沐浴

時柱 己(土)  丑(土)  己(土)  偏印  偏印  墓


 王子の四柱推命だ。年柱は生まれた年を、月柱は月、日柱は生まれた日、時柱は生まれた時間を、それぞれ十干(甲乙丙丁戊己庚辛壬癸)と十二支に当てはめて、五行(木火土金水)に変換して読む。蔵干というのは、十二支に宛てがわれた十干・二、三個の中から、節入り日から生まれた日が何日目に当たるのかで割り当てたものだ。

 日柱が特にその人の性格を指す。また、社会的なその人――その人の本質を見るのは月支元命、日柱の天干――つまり王子の場合「辛」と、月柱の地支――戌の蔵干、戊の組み合わせから通変星を計算する。それが先程の「印授」になる。

 辛亥の性格としては、とても表現力が豊か。辛は繊細で感受性が強く、傷つきやすい。亥の真っ直ぐな気質は表現力を表す。また、純粋さや逞しさも併せ持っている。辛亥は異常干支といい、六十干支ある組み合わせのうち、十三種類が該当する。

 ちらりと王子を見ながら沙良はため息をついた。占いのお陰で命が繋がったものの、この王子はどうも腹の中が読めない。

 馬車に揺られながら、沙良と王子、それから沙良を召喚したものたちは、沙良たちの後ろの馬車に乗り、城を目指している。

「あの」

「なんだ」

「王子さま、は……なぜ私をお助けに?」

 おずおずと沙良が聞けば、王子が外の景色に目を向け、口を開いた。

「俺と同じだからだ」

「同じ?」

「俺は王子だが、母は平民だ」

「平民だとなにかあるのですか?」

 まったく分かっていない。王子はふぅとため息をついて、沙良のほうを見た。

「ソナタは、身分制度も知らぬのか? 平民の子は平民。俺の父がいくらこの国の王だからって、俺の身分は平民以外になりようがない」

 身分制度のことはなんとなくわかるが、それが沙良と同じとはどういうことだろうか。

 こてん、と首を傾げる沙良に、王子はまた、ため息をついた。

「ソナタは聖女として呼ばれたのに、聖女の力がない。俺と同じ、落ちこぼれだ」

 先程、沙良を召喚した魔法使いたちが、ひそひそ耳打ちしていた言葉を思い出す。

「なぜあの放蕩王子がここに?」

「なんの権限があってあのものを生かすのだ?」

「正当な血筋でもないのに」

 つまり、そういうことだ。

 馬車がガタゴトと進んでいく。今は春だろうか、風が気持ちいい。

 沙良は肩にかかった自分の髪の毛をひと房、つまんだ。

 金色の、柔らかな髪だ。

「王子さま。もしかしたら私は、召喚された際に誰かの体に入ってしまったのかも知れません」

「誰かの?」

「はい。私の本来の容姿は、このような金髪でも青い目でも、ましてや儚い少女でもありません」

 黒髪を明るい色に染めて、でも瞳は黒のままだ。爪にはネイルをして、服はシンプルなものが好き。化粧はナチュラルが好きだった。

 今の沙良は、ドレスに身を包んだあどけない少女だ。もしかしたら、どこかの貴族の令嬢の体に入ってしまったのかもしれない。

 ならば、早くこの体を返さねば。親や兄弟が心配するだろう。

「俺が知る限り、この都にソナタのような娘はいなかった」

「なぜ言い切れるんです?」

「それは……聞いただろ。俺は放蕩王子だ。俺が知らぬ場所はないし、知らぬ人もいない」

 もごもごとにごされた。

 なんとなくだが、悪い人間ではないように思う。放蕩といったって、普通は知らぬ場所はあるはずだし、すべての人間の顔を覚えているはずがない。そもそもその理由がない。あるとすれば、

「放蕩するふりをして、市民を見守ってる、とか?」

「なんだ、なにか言ったか」

「いえ、なんでも」

 まさか、ね。と沙良が呟く。王子に沙良の独り言が届いていのかは、わからない。


 ガタゴト、ガタン、馬車が揺れる。それがいきなり、止まった。馬がいななく。

「王子さま、お逃げ下さい!」

 御者が王子に声をかけた時には、すでに馬車は魔物に取り囲まれていた。

「くそ、なぜだ」

「王子さま?」

「逃げるぞ」

 王子が剣を片手に馬車からおりる。沙良の手を取り、馬車の外に出ると、すでに魔法使いたちが魔物と対峙していた。

 国一番の魔法使いだと聞いていた。実際その通りだし、王子も魔法使いたちに信頼を置いていた。

 しかし、ものの数分で魔法使いたちが魔物に深手を追わされた。

 しかも、魔物達の狙いははなから、こちら――王子と沙良だ。

『グぉお!』

 王子が剣を握る。

 沙良は気づく。王子は魔物に対峙することに躊躇いがない。まるで日常茶飯事とでもいうように。そもそも、出会った当初から剣を携えていた。この王子は、なにか訳ありだ。

「よもや、魔物の狙いは俺ではなく、聖女か……?」

「え、私?」

 王子の後ろに庇われながら、ならばこの、魔法使いたちが傷を負った理由が自分にあるというのだろうか。そんなこと、そんな、まさか。

「ソナタ、俺の後ろから離れるなよ?」

「でも、敵の狙いが私なら、王子さまが」

「言ってなかったか。俺は魔力を持たない王子。だが剣技には自信がある」

 魔力を持たない? それがなにを意味するのか、聞く余裕すらなかった。

 沙良をかばいながら、王子が剣を振るった。瞬足で一匹、二匹。

 あの魔法使いたちすら歯が立たなかったというのに、この王子は何者なのだろうか。

「貴族は等しく魔力を持って生まれるが、王子とは名ばかりで俺には魔力が無い。だから、王位継承なんて興味もないのに」

 どうやら、王子はあえて魔法使いたちが見ているところでは、実力を隠していたようだった。十数匹の魔物達が一瞬にして切り捨てられ、返り血を浴びた王子はまるで、鬼神のようだと沙良は思った。

「王さまのご意向がまるでわからん。王位継承争いに、四人の王子――つまり、俺を含めた全ての兄弟を対象にするなんて、バカバカしいと思わぬか?」

 バカバカしいとは思えなかった。王はきっと、この王子の才能を見抜いているのだろう。魔力がないからと、この王子は剣技の腕を磨き続け、ここまでの強さを得るのにどれだけの努力をしてきたのだろう。

 沙良はあっけに取られてなにも言えなかった。

 しかし、ハッとして、魔法使いたちに目を向けた。ぜえぜえと肩で息をしている。かなりの重症だ。

 沙良の体が勝手に動いた。王子をバカにしていたこの魔法使いたちを、助けたいと動いたのだ。

 王子がチッと舌打ちをした。

「皆さん、皆さん!」

「無駄だ。応援が来るまで応急処置くらいしかできることもないだろう」

 骨が折れているのだろうか、それが肺に刺さっているのか、ある人は血を吐き、ある人は息すらままならなかった。

 助けなければ、苦しいだろう、辛いだろう。一刻も早く、楽にしてやらねば。

 王子を馬鹿にした連中とはいえ、魔物が襲ってきた時、誰より先に魔物に向かっていった。王子を守るためだ。市民を守るためだ。

「……! 治れ、治れ! 治れ!」

 瞬間、ぽうっと沙良を中心に、温かい光が魔法使いたちを包み込んだ。傷が癒えて行く。魔法使いたちの息が穏やかなものに変わる。代わりに、沙良の体からくったりと力が抜けた。

 その沙良の体を抱きとめて、王子は沙良をまじまじと見ている。

「……まさか、ソナタは、まことの聖女、なのか……?」

 癒しの魔力を持つものは、この世界には聖女以外に、有り得ない。


 第二ハウス、火星。火星は攻撃的とも取れるが、社会に発信していくものを表している。これが第二ハウスにあるため、才能や金銭を通して自己を発信していくと読める。

 第四ハウスには水星、さらに太陽と金星のコンジャクション(重なる)。水星は情報やコミュニケーション能力や表現力を現す。さらに第四ハウスは家や家庭、安心する場所を表す。勉強をすることで落ち着く人間なのだろう。

 同じ第四ハウスには太陽と金星。この二つはコンジャクション(重なる)のため、良くも悪くも太陽と金星は作用しあう。愛情深いが問題に向かうのが苦手。さらにそれが家のハウスで起きている。

 第六ハウスには土星が入る。土星は試練の星だ。しかし、西洋占星術では乗り越えられない試練は与えられないとされている。むしろ、その試練を乗り越えた先に成長が待っているとされている。つまり、今世で成し遂げるものを指す。

 この第六ハウスに土星、六ハウスは仕事や健康を表す。この王子の人生の課題は仕事といったところだろうか。

 アセンダントはしし座。アセンダントとは、ホロスコープを見た際に、一番左の水平線、生まれたときの東の空、日の出の位置を指している。ここは他人から見た自分を指すといわれ、王子の場合それがしし座だ。人に囲まれる太陽のようなひと。誰かといると安心する。また、プライドが高い。それが王子の他から見た印象だ。

 そしてミディアムコエリ。これは、ホロスコープの頂点部分にある星座を指す。王子のMCはおうし座。MCはそのひとに与えられた使命、役割を指している。

 おうし座は五感で感じたものを自分の表現に落とし込む力に長けている。また、おうし座の守護星は金星だ。金星は芸術や質のいいものを好む。天秤座も金星が守護星だが、こちらは感覚的な美しさを好む。金星は第四ハウスにある為、安心する場所を探すのががMC――現世で達成することだ。


 パッと沙良が目を覚ました。見慣れぬ天井に、見慣れたくもない王子の顔。ふかふかのベッド。

「ん……」

 体を起こすと、めまいがした。王子は手を差し伸べたりしなかった。

 王子の隣には、初老の男性が座っている。

「なにをしている、この国の王さまだ」

 王子がとげとげしく言った。沙良は一拍遅れて理解して、ベッドを降りて王にかしずいた。

「お、王さまとは知らずに……」

「よい。して、そなた、名は」

 名は。そういえば、この世界に来てからまだ自分は誰にも名乗っていなかった。

 沙良は恐る恐る面を上げる。王の表情は柔らかく、慈愛に満ちているように沙良には感じた。

「秋葉沙良と申します」

「アキバサラ……?」

「え、と。秋葉が苗字、沙良が名前です」

「そうか。聖女サラ」

 王が沙良の名前を厳かに呼んだ。なぜ、自分の名前に『聖女』の称号を冠するのだろうか。

「カイからおおよその話は聞いた。ソナタには聖女の力があると」

「私に……?」

 うっすっらと思い出す。あの時、魔法使いたちを治したのは、てっきり王子の力だと思っていたのだが、あれが沙良の力だとすれば、なるほど確かに自分は聖女に他ならないのだと納得してしまう。

「カイのたっての希望で、しばらくソナタの素性は隠し、カイの許嫁として過ごすがよい」

「え、待ってください。許嫁として?」

「さよう。ソナタがまことの聖女なのか、わたしとしても確かめたいところだ。もしも聖女ではなかった場合、カイからも聞いているだろうが、ソナタは素性がわからぬものゆえに、わたしのほうでも手に余る」

 つまり、やはり沙良は処刑されてしまうということだろうか。

「王さま、私は処刑される、のですか?」

「いや。ソナタが聖女ではなかった場合も、生かしておくことになるだろう」

「それは……」

 なぜ。と沙良が聞く前に、

「俺がソナタの身元を引き受けることになったからだ」

「え。と、え?」

「つまり、ソナタが聖女だろうがそうでなかろうが、ソナタは今後、俺の許嫁という名分で、この世界を生きられるように計らった。幸い、それだけの容姿をソナタは持ち得ているわけだし」

 えええ、と沙良が大げさにかぶりを振った。

「王子さまの許嫁だなんて、そこまでお世話になるわけにはいきません」

「いきませんもなにも。そうせねばソナタの生き残る道はない。なに、許嫁というだけで、婚姻はせぬ。もとより、俺が誰と結婚しようが婚約しようが、この国では誰も興味がないことだ」

 王が隣で渋い顔をしている。

 沙良はあわあわと立ち上がって、ダメです、ダメです、と繰り返す。

「ダメもなにも、ソナタは死にたいのか?」

「それは……私だって死にたくないですけど。王子さま、仮にも一国の王子様が、そうやすやすと許嫁を作ったり、もしかしたら婚約を破棄したりできるのですか?」

 漫画や小説ではよくある話だけれど。とは言わなかった。

「ソナタ、私の話を聞いていたか?」

「国民がどう思おうが私も気にしません。ですが王さま……王子さまのお父さまである王さまが、こんなにも憂いるお顔をされては、私だって黙っているわけにはいきません」

 ふっと王子が王のほうを見る。王の顔が一瞬だけ曇ったように見える。

 しかし、王子も譲らない。

「俺は王子は王子でも、平民の母親を持つ忌み子だ。そもそも、魔物を寄せ付ける体質ゆえに、この王都に長くはとどまれない」

「え……魔物を寄せ付ける?」

「さよう。しかし、俺よりもソナタ。先ほどの魔物たちは俺ではなくソナタを狙って襲ってきていた。察するに、ソナタが聖女だから、魔物としては今のうちに処分してしまいたいのだろう」

 訳が分からない。先ほど襲われたのは、沙良のせいだというのだろうか。そもそも、王子は魔物との戦闘に慣れていた。それは、王子が魔物を呼び寄せる体質だからだろうか。

 訊きたいことが山ほどあって、沙良は言葉に詰まってしまう。

「わたしとしては、王子にこのようなことをさせるのは本意ではない。そもそもわたしは、この第三王子カイにも、王位継承権はあると、常々言い聞かせてきた。だが何分、この放蕩息子は言うことを聞かない」

「聞きませんよ。俺がこの城でどんな扱いを受けてきたか、王さまもよくご存じでしょう」

 王の顔がゆがんだ。

 おおよそ、平民の血筋だからと、差別されてきたのだろう。先の魔法使いたちの態度をみれば、聞かずとも察しがついた。

 だからこそ、この王子は――カイは、放蕩王子の『ふり』をして、自分の実力を隠して旅をして回っている。

 カイの剣の実力を知るのは、この父王のみなのだ。

「でも、私」

「あー、先ほどからソナタはうるさい。俺がそうしていいというのだから、ソナタはおとなしく従えばいいのだ」

「だそうだ。わたしからも頼む。息子を見守ってほしい」

 父親らしい、慈愛に満ちたほほえみを湛え、王が沙良に耳うちする。

「カイがだれかを傍に置くなどと言い出したのは初めてだ。よほどソナタを気に入っているのだろう。息子を頼む」

 そこまで言われて断るほど、沙良も鬼ではなかった。


 久々の帰省なのだからと、王の押しに負けてカイは一晩だけこの城に泊まることになった。しかも沙良と同じ部屋だ。

「なんで王子さまと同じ部屋なんですか」

「現状、魔物を寄せ付けるソナタを守るにはこれが最善策だろう」

「それなら、お部屋の入口に兵のかたがいるでしょう」

「ソナタ、魔物がどれほど恐ろしいか知らぬのか」

 カイの話によれば、カイを襲った魔物は、普段カイが対峙している魔物とは比較にならないほど弱いらしい。

 だとしたら、それにすら負ける国一番の魔法使い一行もいかがなものかとは思うのだが。

「そもそも、俺やソナタを襲う魔物は、そこいらの魔物とは一線を画す」

「なぜです?」

「俺はともかく……ソナタの聖女の力。見たところ『まだ』コントロールできていないだけで、いずれその力が使えるようになる日が来る。少なくとも俺はそう踏んでいる。ならば、その『いずれ』が来る前にソナタを処分したい。魔物の考えるところはそこだろう。ゆえに、より強い魔物をソナタに襲わせるのは自然な流れだ」

 うーん、と沙良がうなる。

「でも、聖女ってなんで魔物に疎まれているのですか?」

 カイが「嘘だろ」と言いたげな目を沙良に向けた。仕方がないじゃないか、沙良はこんなファンタジーの世界は初めてなのだから。平和ボケした日本人に、この世界はいささか理解しがたい。

「それは、聖女がこの国に加護魔法を施せる唯一だからだ」

「加護魔法……って、この国を守る魔法ですか?」

「ああ。この国は代々の聖女の加護魔法のおかげで、魔物たちからの襲撃を回避してきた。その加護魔法がなければ、魔物たちは人間を襲いたい放題できるってわけだ」

 うーん、とまた沙良がうなっている。面倒くさそうにカイが沙良のほうに目配せする。言いたいことがあるなら言え、と。

「あの、そもそも魔物って、なんで人間を襲うんですか?」

「は? そんなもの、魔物には理性や知性がないからだろう?」

「そう、なのかなぁ」

「それ以外になにがある? ソナタ、世間知らずだとは思っていたが、ここまでくるとあきれてものも言えん」

 はあ、とため息ひとつ、カイはベッドの上に寝転んだ。

「あの、王子さま」

「なんだ」

「……寝る前にお風呂、に入りたいのですが」

「ソナタ、先ほどの話を忘れたのか? ソナタは魔物に狙われている。ならば、片時も俺のそばを離れるな」

「ええ、でも、でも今日はいろいろあって服がドロドロですし、体を洗わないと気持ち悪くてお布団に入れません」

 ぎし、とベッドから起き上がって、カイが沙良にぐっと顔を寄せた。

「俺が一緒に入ることになる、と言ってもか?」

「はへ?」

「ほら、わかったなら今日はもう寝ろ」

 なぜ、なんでそんなこと。

 許嫁だと言ったって、そんなこと嘘でも言わないでほしい。いや、そうでも言わなければ沙良はあきらめがつかなかったかもしれないが。

 改めてカイの顔を見ると、ひどく端正な顔つきだ。

 切れ長の目と、グレーの瞳と髪の毛。身長も高く、鍛えられた体。

 目に毒だ。こんな完璧な人間がいてたまるか。

 沙良は少しの抵抗で、濡らしたタオルで体を拭いてから、自分のベッドへともぐりこんだ。

 ふかふかの布団は、だけれど沙良には居心地が悪くて、なかなか寝付くことができなかった。


 占い師なんて、いってしまえば誰でもなれる。少し勉強をして、「はい私は今日から占い師です」と名乗れば、それこそ誰だって。

 だからこそ、占い師は占いに真摯に向き合わなければならない。占いに来る人は、その人のプライベートを、占い師に洗いざらい話してくる。ゆえに占い師は守秘義務を厳守し、真摯にクライアントの話に耳を傾ける必要がある。

 ある種のカウンセリングに似ていると思う。クライアントが占い師に悩みを話すことで、ここで半分くらいはクライアントの悩みは晴れるのではないかと沙良は思っている。

 そして、残りの半分は、占いで晴らす。占いは転ばぬ先の杖、だと沙良は思う。

 人生の指針として、悪いことをあらかじめ知っておけば、それを回避することができる。

 沙良は思う。自分はどれだけ占いに真摯に生きてこられたのだろうか。沙良は占いを信じない。なぜなら、占いを信じてしまえば、人間は占いなしでは生きられなくなってしまうからだ。

 人間は弱い。弱いから、なにかにすがりたくなる。宗教、親、友達、占い。

 自分の人生は自分で切り開くもの。だから沙良は、占いではその人の生まれ持った性格や運勢を見ることはあれど、未来について、「こうなる」と断言したり、「この年は不幸になる」というようなことは極力言わない。

 沙良の占いは、あくまで勉学として、過去の人々の知識から導き出された結果を、淡々と伝えるだけのものだ。

 だからこそ、こうやってクライアントに殺されて、こんな世界に飛ばされたのかもしれない。きっとこれは、占いを冒とくした罰だ。なんて、それこそ沙良の嫌いな、「占いに傾倒しすぎた人間」のような言い分だと思った。


 目を覚ますと、すでに王子は支度を済ませていた。察するに、一晩中起きていたに違いない。

「よく寝てたようだな」

「や……王子さまは寝てないのですか?」

「仮眠はとった」

「仮眠って」

 カイは普段から野宿することも多い。ゆえに、座ったまま寝たり、周りの気配を察知しながら寝ることも日常だ。だから別に、沙良が気に病むことではないのだが、ここにきてようやく沙良は、自分がどうにもお気楽であったことに気づいた。

「王子さま、あの」

「今度はなんだ」

「あの、私。私の聖女の力って、どうやったら扱えるようになりますか?」

 沙良はまだ、自分が聖女だという事実を飲み込めていない。だが、このままでは多くの人間に迷惑がかかる。最低限、自分の身は自分で守れるようにならなければ、いつかはこの王子を巻き込んでしまうかもしれない。

「知らん。そもそも、聖女なんてもの、なりたいのか?」

「なりたいもなにも。ならなければ、この国が大変なことになるんでしょう?」

 カイが沙良に背中を向けた。召使いが部屋に入ってきて、着替えを促したからだ。

 体を清め拭いてから、下着を身に着ける。そのあとは、固いコルセット。

「いた、え、痛いです。これ付けなきゃダメですか?」

「大人はみんな付けますよ。王子さまの許嫁ならばなおさらです」

 やはり、沙良が聖女であることは、城の者たちは知らないようだ。

 召使いがきゅっとコルセットを締め上げる。「ぐえ」と沙良がつぶれたアヒルのような声を漏らした。

 カイが声をあげて笑った。沙良は恥ずかしくて、顔を真っ赤にうつむいた。

「よくお似合いです、サラさま」

 きつくきつくコルセットを締め上げた後は、動きにくそうなひらひらのドレス。朝ごはんを食べに行くだけなのに、ずいぶん大げさだなと沙良は思った。

「できたか?」

 背中を向けたまま、カイが問う。

「できました、王子さま」

 召使いが答える。沙良は声すらも出ない。コルセットが痛い、苦しい。

 カイが振り向く。きれいに髪を結い上げて、正装のドレスに身を包んだ沙良を見て、ほう、とカイが声を上げた。

「馬子にも衣裳だな」

「はいはい、そうですよね。私みたいな人間にはもったいない服ですよ」

 髪には宝石の髪留めを挿して、ドレスはおそらくシルクだ。とろりとして肌触りが好い。

 しかし、足にまとわりついて動きにくい。そのうえ靴は高いヒール。

「ほら」

 召使いが部屋のドアを開ける。それに合わせて、カイが沙良の隣まで歩き、肘を曲げて沙良につかまるように促した。

 なんてスマートな。腐ってもこの国の王子なのだと沙良は思った。

「いえ、大丈夫です」

 カツ、と一歩踏み出して、さっそく沙良はドレスの裾を踏んだ。転びそうになるところを、カイに支えられる。

「だから言っただろう」

「でも、でも。王子様と腕を組むなんて、無理です」

「無理もなにも。ソナタの国ではそういう習慣がない、とか……?」

 つまり、紳士が淑女と腕を組むのは、この国では常識らしい。常識、ならば、恥ずかしがるほうがおかしいのだろうか。いや、しかし、沙良はこの国の人間ではないのだから、他国の習慣になんて慣れる必要はない。

「そうです、私の国ではそういう習慣はないです」

「男は女をエスコートもしないのか?」

「いや、それは……」

 デートのときなんかはすることはする。けれど、別にカイと沙良は付き合っているわけではないから、エスコートされるいわれもない。いや、許嫁なら腕を組むほうが自然なのだろうか。

「えーと。付き合っている男女なら、エスコートすることもありますが、私の国では、男も女も平等というか」

「平等? 男と女が?」

「え? はい……なにかおかしなこと言いましたか?」

「いや。別に」

 ぎゅっと沙良の手を取って、カイが沙良の手を自分の手に絡ませた。

 身長差がだいぶある。沙良の年齢は十五、六といったところだ。まだまだ子供の年齢だ。

 対してカイは、二十二歳。もう立派な成人である。

「それと。食卓にはほかの王子たちも同席するが、余計なことは言わぬように。いいな?」

「……? はい、わかりました」

 かくして、四人の王子との、朝餉が始まる。


 一夫多妻制なのだろう、四人の王子はみな、母親が違った。

 第一皇子は赤い髪と金色の瞳を有した中性的な顔立ちだった。しかし、かなり他者に対して差別的だ。

「いや、どこの馬の骨とも知れない女性が混じっているね」

「あ、あの。秋葉沙良と申します」

「あきばさら? なにそれ、名前も独特ですこと」

 ふふふ、と笑いながら、肉をナイフとフォークで切って、大きな口で食べ進めていく。この人は、ホロスコープで火星がハードなアスペクトを形成してそうだな、と沙良は思った。火星は攻撃性を現すこともある天体だ。

 第一王子・イセラ・アーデリック。風の王子と称されている。

 第二王子――いや、二番目の王位継承者候補は女性だった。しかし背が高く、カリスマ的な存在感を放っている。銀色の髪と瞳は、冷たい雪のようだと沙良は思った。

「なんだ、金にならない女と許嫁に? ははは、やはり庶民を母親に持つと美的センスも狂うのかしら?」

 傍ら、召使いが第二王子に宝石箱を渡している。

「うん、これは気に入ったけどこっちはダメかな。破棄」

 第二王子・ミリム・アーデリック。氷の女王と称される、四人の中で唯一の女性の王位継承者候補だ。

「なになに。ほんっと兄貴は物好きだねえ。早死にしそう。君も気を付けて」

 沙良と同じ金色の髪に青い瞳を有するのは第四王子。カイの弟だ。年齢は沙良と同じくらいだろうか。名前をヨル・アーデリック。炎の王子と呼ばれている。

 カラン、と召使いがカトラリーを床に落とした。第一王子のイセラはため息をつき、ミリムは冷たい目線をよこす。

 沙良が落ちたカトラリーを拾おうとかがみこんだ時だった。

「貴様、誰の食器を床に落としたあ!?」

 第四皇子の怒号が飛んだ。

「も、申し訳ありません」

 ヨルが立ち上がり、かしずく召使いの手を靴で踏みにじった。何度も何度も踏みにじって、召使いの手が青黒くなる。

「な……! なにするんですか!」

 割って入ったのは沙良だった。これにはカイのみならずほかの王子たちも目を真ん丸にして、物珍しそうに沙良を見ていた。

「なんだよ、召使いなんてものだろ。この城の財産だ。どうしようが俺の勝手だろう?」

「もの? 人間でしょう? アナタたと同じ」

 ぴきぴきぴき、とヨルのこめかみに青筋が立った。

 ヨルが沙良の腕をぎゅっと握った。

「痛っ」

「なんなんだよ、許嫁だからって思いあがってんのか? そんな出来損ないの許嫁ごときが、神聖な血を引く俺に説教垂れるのか?」

「痛いです、離してくださ」

「離せ。ヨル。これは俺の許嫁だ。さすがのソナタでも、乱暴は許さんぞ?」

 カイが立ち上がり、ヨルの腕を強く握った。しかし、ヨルもひかない。より一層力を込めて沙良の手を握りこむものだから、沙良はあまりの痛さにその場にへたり込んでしまう。

 召使いたちは、近寄ることすらできない。第四王子に目をつけられれば、この城を追い出されるのは目に見えているからだ。

 同じ父親であるのに、四人の王子たちはみんながみんな、性格に問題を抱えている。

 こと、第四王子は幼いからか残忍で、手加減を知らない。

 カイがヨルの手を引っ張ったことで、ようやくヨルの手が沙良から離れた。

 真っ赤に跡がつくそれを、沙良はさすっている。

「兄貴はなんでこんなのと婚約したわけ? 見た目? 見た目が気に入ったなら、妾にすればよかっただろ。これ以上俺たちに恥をかかせるな。ただでさえアンタが兄弟ってだけで反吐が出るっていうのに」

 母親は違っても、兄弟だろうに、なんでそんなことが言えるのだろうか。

 沙良が立ち上がり反論しかけて、カイに止められた。

「行くぞ」

「はは、よく言ったヨル」

 イセラが笑う。

「私もすっきりしたわ」

 ミリムが拍手を送った。ヨルは誇らしげに自席に戻り、カイと沙良が座っていた場所を、召し使いたちに掃除させていた。


 自室に戻り、沙良はかんかんに怒っていた。

「なぜ言い返さないのです」

「なぜ。忘れたな」

「……ずっとこんな扱いを?」

 この一件だけで、沙良はカイがこの城でどれだけ肩身の狭い思いをしてきたのかを知ってしまった。カイは力なくうなずくだけだ。

「王子様。でも、イセラ王子やミリム王女、ヨル王子がもしも王位についたりしたら、この国は危ういのでは?」

 だからこそ、父王もカイを後継者候補として推したのだろう。しかし、どうあがいたってカイは平民の母の息子なのだ。

「俺はもう、疲れた」

「なにを……この国の未来がかかってるんですよ?」

 沙良がそう言わざるを得ないほど、カイ以外の王子の気性は王に向いていなかった。しかし、この事実を市民は知らない。そもそも、市民の前で猫をかぶることなど、あの三人にはたやすいことなのだ。

「王子さま。私は短い付き合いですけど、王子さまが悪い人だとは思えません」

「買いかぶりすぎだ。俺は放蕩王子だ」

「いいえ。ホロスコープでも命式でも。王子様ほど王にふさわしい人はいないと出ていました」

 なんてことを言っているのだろう。根拠のない占いを信じて、王になれなどと。沙良が一番嫌う、無責任な言い分だ。

 カイがハッとしたように沙良を見た。

「それに……王子さまは私を救ってくださいました。そう、私が処刑されるのを黙って見ているなんてこと、しませんでした。王子さまはご自分の立場が危ぶまれるのも承知で、私を許嫁にすると……」

 ふうふうと沙良が肩で息をしている。

 カイにこれほどまで真摯に向き合ってくれた人間はいただろうか。カイは今まで、自分はごみ以下だと思って生きてきた。周りからもそういう扱いだったし、それが性に合っていると思っていた。

 三歳の時、カイの母親は亡くなった。それが病気だったのか、誰かが毒を持ったのか、記憶があいまいで覚えてすらいない。けれど覚えていることもある。

「困っている人がいたら助けなさい。母の最期の言葉だ。それから、ある人にも同じことを言われた、俺を支える言葉だ」

 母親が死んだのがカイが三歳の時のこと。四柱推命ではカイは三歳が立運で、そこから十年ごとに転換期が訪れる。と出ている。

「王子さま。王子さまは今。二十二歳だと聞きました」

「それがなにか?」

「はい。次の転換期は二十三歳。それまでの一年間、私は全力を尽くして王子さまをサポートします。だから」

「だから俺に、王になれと? はっ、そう簡単に、人間は変わらん」

 吐き捨て、カイは黙り込んでしまう。

「……占いは、人生の指針です。あくまで道しるべ。だから、すべてを信じろとは言いません。でも」

 だが、沙良の占い師人生を全てかけてもいい。いや、占いのことなんて抜きに、沙良はカイに特別なものを見出している。

「王子さま。王子さまが私を救ってくださったように、この国の国民も、王子さまの助けを必要としています」

 少なくとも、ほかの王子が王になれば、他国への戦争を仕掛け、市民から税を搾り取り、いわれのない罪で市民を虐殺する、そんな未来があるのではないかと沙良は思った。

「俺はあくまで出来損ないの王子だ。今はソナタの聖女としての力が目覚めるまで、全力で守り抜く。それしか考えていない」

 そんな薄情な。しかし、それがカイの精いっぱいの善行なのだと沙良にもわかる。

 魔力を持たない、母親が平民の、魔物を呼び寄せる体質の、第三王子。実際、カイが王になるためには、城のものはおろか、この国の市民全員に、カイの存在を認めさせなければならない。途方もないことだと沙良は思った。


 旅に出た。

 道々、カイは沙良に質問攻めだった。

「しちゅうすいめいとやら。あれはまことに素晴らしい」

「あれは中国――東洋の占星術です」

「ほう、ソナタ、ホロスコープはなじみあるが、あれは市民の噂のタネ程度にしか思っていなかったが……しちゅうすいめいなるものは、なるほど、俺の人生を映し出す鏡のようであった」

 つまり、かなり当たっていたということだろうか。

 四柱推命は、中国では八字と呼ばれる。その名の通り、八文字で占いをするからだ。

「ご興味があるならお教えしましょうか?」

「よいのか?」

「え。あ、食いつくとは思いませんでした」

 たじろぎながら、沙良は荷物の中から万年暦を取り出した。かなりボロボロなのは沙良が読み込んだからだけではない、中世の万年暦だからだ。

「まず漢字が読めないとダメなんですけど」

 甲・木の兄(きのえ)。乙・木の弟(きのと)。

 丙・火の兄(ひのえ)。丁・火の弟(ひのと)。

 壬・水の兄(みずのえ)。癸・水の弟(みずのと)。

 庚・金の兄(かのえ)。辛・金の弟(かのと)。

 戊・土の兄(つちのえ)。己・土の弟(つちのと)。

 四柱推命は陰陽五行で占う。陽と陰、つまり男と女、太陽と月、燥と湿。すべてのものは陰と陽に分かれる。

 五行というのは、木火土金水(もっかどこんすい)。これらは相生の関係と相剋の関係で五芒星ができる。

 木は火を生じ、火は土を生じ、土は金を生じ、金は水を生じる。

 また、木は土を剋し、火は金を剋し、土は水を剋し、金は木を剋し、水は火を剋す。

 その関係から四柱を読んでいくのだ。

 西洋占星術は均時差や地方時差を求めたらあとは天体が一日で何度動いたかを天文暦で計算し、生まれた時間から導き出す。

 対して四柱推命では、万年暦から出た四柱をさらに変化させるから、カイにはまるで分からない。

 四柱推命の変化部分は主に、干合(甲己(土)、乙庚(金)、丙辛(水)、丁壬(木)、戊癸(火))で、日柱以外の隣合う天干が干合したら無作用(五行として数えない)、日干と干合したら日干に干合した方の天干が倍になる。あるいは、月令がそれぞ甲己で土だった場合、乙庚で金だった場合に変化干合としてそれぞれ戊己、辛庚に変化する。この時、日干は変化しない。

 地支の場合、支合か冲で無作用になる。支合とは仲のいい干支同士のことで、子丑、寅亥、卯戌、申酉、巳辰、午未が隣り合うことだ。

 冲は仲が悪い干支のことで、子午、丑未、寅申、卯酉、辰戌、巳亥が隣り合う場合だ。

 西洋占星術は天体の位置を計算するだけで読み込みに入れるが、四柱推命が習得に二、三年かかるとされるのは、命式の複雑さと、八文字から運勢を看ていくからだ。

「なるほど、まるで知らぬ文字だな」

「でしょう。日本人だと、漢字を日常で使うから覚えやすいんですけど」

 沙良に渡された万年暦ぱらぱらと捲り、カイはまるでちんぷんかんぷんだった。

「それで王子さま、今からどちらに行くのですか」

「ああ。俺の第二の家……都の外れにある隠れ家、だ」

 ガタゴトと馬車が揺れる。沙良はまだこの時、王子が占いに興味を持った意味を知らずにいた。


 隠れ家、の名にふさわしく、カイに連れられた家はたいそう貧相な小さな小屋だった。一般市民でもこんなに簡素な小屋にはすまないだろう。

「王子さま、ここで暮らすのですか? 一部屋しかないじゃないですか……お風呂も……」

「わがままを言うな。ソナタを守るためには、簡素な家のほうが見通しがよくて好都合だ」

「それはそうですけど……え、っと、生活費? 食材とかってどうしてたんですか?」

 それは、カイは適当にその辺の草やキノコ、獣を狩って食べていたのだが、沙良やはり拒絶を示した。

「やですよ、その辺の草? もっと衛生的なもの食べたいです」

「そうはいっても、俺には金がない」

「ええ、じゃあどうするんですか」

「だからこそ、ソナタの出番だ」

 にたり、と笑って、カイは沙良の荷物――万年暦と天文暦を指さした。さあっと沙良から血の気が引いた。

「え、まさか私の占い……ですか?」

「ご名答。ソナタのそれは、ぜひとも市民の役にたてたい」

「嫌です」

「なぜだ」

 カイは心底わからないと言った風に沙良を見た。沙良はうつむき、口をとがらせている。

 異世界に来てまで占いなんてしたくない。そもそも、沙良がこの世界に飛ばされた理由が、占いがらみだ。正直、もうかかわりたくないというのが本音だった。

「そこまで拒むか? そのような優れた技能を持ちながら」

「技能、ですか」

「さよう。俺は占いなんてものは信じない。が、ソナタのそれは、占いというには一線を画している。いうなれば、先人の知恵が詰まったものだ。違うか?」

 沙良はカイに、自分の信条を話したことがあっただろうか。確かに沙良は、占いは一種の学問だと思っている。

 だけど、この時代の人間――千四百年代のヨーロッパで、占いと言ったら神秘主義で、どちらかと言わなくてもスピリチュアル寄りの見方がほとんどである。

 そんな中で沙良が占いをすれば、占いを受けた人間は占いに翻弄されてしまうのではないか。

「なに、ホロスコープはいったんナシだ。ソナタのしちゅうすいめい。そちらはこの国の人間には一切わからぬ。わからぬが、当たる。ならば、ソナタのその信条、『占いはあくまで占い。人生を決めるのは自分自身』それをよーく叩き込めば、盲信する人間もおるまい」

 しかし、やはり気が進まない。沙良はなるべく目立たずに生きていきたい。せめて自分が聖女として魔力をうまく使えるようになるまでは、静かに過ごしたかった。

 なのだが、現状、この王子にお金を稼ぐ力はなさそうだし、そうなれば、沙良が稼ぐほかにないとも思う。そもそも、カイのことは置いといて、最低限自分のことは自分でやる。となれば、沙良に残された方法なんて、占い以外に残されていなかった。

「仕方ない、ですね。私がやらなきゃ、草食べるしかないんでしょう?」

「物分かりがよくて助かる。頼んだぞ。サラ」

 ここにきて初めて、カイに名前を呼ばれた気がする。自分の名前がグローバルなものでよかったと思う。もしも自分の名前がハナとか椿だったら、この王子が呼ぶにはふさわしくなかったに違いない。


 占いの客を呼び込むのは王子の仕事だった。

「知ってるか? この都の外れにへんてこな占いをする魔法使い? 賢者? なんだかそんなのがいるらしい」

 人のうわさは広まるのが速い。こと、中世の娯楽が少ない時代では、噂話は人々の娯楽と言っても過言ではなかった。

 カイが広めた噂に尾びれ羽ひれがついて広がって、その上沙良の占いが当たると来たから、沙良の占いは毎日予約でいっぱいだった。

「すごいですね。炎上格です。つまり、アナタは火の気が強い。この格は水の気が一切ないことが条件の一つなんですが――炎上格はとにかく強運。好き嫌いが激しいのも特徴です」

 しかし、炎上格というのは日本が独自に生み出したもので、従旺格として扱うのが本来だと主張する占い師も多い。だが、沙良はあえてそれらを取り入れている。

 日本式の四柱推命も、中国式の八字も、両方勉強して、両方をその時々で使い分けている。

「わ、身弱ですね。我が弱い。つまり、ひとの意見に柔軟に対応できます」

 かくいう沙良の命式はこうだ。


一九九五年七月五日十九時十一分


   天干 地支 蔵干 天通変 地通変 十二運星

年柱 乙(木)  亥(水)  壬(水)  偏印  正官  胎

月柱 壬(水)  午(火)  丁(火)  正官  比肩  建禄

日柱 丁(火)  酉(金)  辛(金)      偏財  長生

時柱 庚(金)  戌(土)  戊(土)  正財  傷官  養


年柱 乙木 亥水木

月柱 壬水 午火

日柱 丁火 酉金

時柱 庚金 戊土火金


 十干の数え方は、まず日干から順番に数えていく。

 月令を得ていれば地支が三点。その他は二点だ。地支の点数に天干の数をかける。つまり、天干がなければ地支があっても零点。天干のみはひとつにつき一点が加算される。これは中国式四柱推命の数え方で、日干が強いか弱いかで身強、身弱を決めていく。


(火)一干二支九点月令

(土)0干一支0点

(金)一干二支四点

(水)一干一支二点

(木)一干一支二点


 比劫(火)が強い身強。喜神は財星(金)と官星(水)。

 身強とは、比劫(日柱)がいちばん高い点数の場合を指す。沙良の場合は(火)だ。身強の場合、火を弱める食傷(土)、財星(金)、官星(水)が喜神となるが、沙良の場合、比劫が強すぎるため、水を剋す土は喜神から外れて、金と水が喜神となる。

 沙良の四柱を読むとこうだ。

 日柱丁と月支午でどちらも火の五行の為、『月令を得ている』。つまり、日干が強められている状態だ。この場合強められているのは丁だ。

 丁酉。物静かで落ち着いた雰囲気。頭が回るが慎重で苦労性。しかし奉仕の精神があり感受性が豊かだ。

 日柱丁と月柱の蔵干の丁で月支元命の通変星は比肩。比肩は自我の星で、独立心が旺盛で、負けず嫌い。

 通変星は全部で十個。

 日柱の天干を頂点にして、自星が比肩(負けず嫌いで自立心旺盛)・劫財(お金・地位・名誉、全てを手に入れる剛腕)。

 自星から右回りに、食神(衣食住に恵まれる。感受性豊か)と傷官(頭の回転が速く鋭い直感力。それゆえ他者を言葉で傷つけたり他者を敵味方で色分けしがち)、偏財(商才と人気運。他者の役にたつことを喜びとする)と正財(勤勉で真面目、面白みがない)、偏官(行動力があるが、敵とみなすと攻撃する気質)と正官(組織に与すると力を発揮できる)、偏印(自由で芸術家気質。才能が豊か)と印綬(名誉と学問の象徴)。

 ちなみにカイと沙良の相性はお互いを補う関係だ。


一八四二年十一月十八日0時三十五分


   天干 地支 蔵干 天通変 地通変 十二運星

年柱 壬(水)  子(水)  癸(水)  傷官  食神  長生

月柱 庚(金)  戌(土)  戊(土)  劫財  印綬  冠帯

日柱 辛(金)  亥(水)  壬(水)      傷官  沐浴

時柱 己(土)  丑(土)  己(土)  偏印  偏印  養


年柱 壬水 子水

月柱 庚金 戌土火金

日柱 辛金 亥水木

時柱 己土 丑土金水


(金)二干二支八点

(水)一干三支八点

(木)0干一支0点

(火)0干一支0点

(土)一干二支九点月令


 印星が強い身強。喜神はと財星(木)と官星(火)。

 カイの命式の喜神は木と火のため、同じ喜神を持つ人間と相性がいい。この部分ではカイと沙良は相性はよくない。

 だが喜神は、自分の喜神が相手の命式の中で強い喜五行だった場合、お互いに補い合い惹かれる関係ともいえる。

 また、カイの日柱辛は、沙良の日中丁の火に鍛えられるため、その点の相性としてはいいと読める。

 また、カイの命式は身強、沙良の命式は身強で、こちらの相性も悪くはない。

 が、沙良はあえて自分の命式とカイの命式の相性は見ないようにしている。

 なぜなら沙良は、占いを信じていない。というより、カイを信じ切れていない。

 カイは巷では放蕩王子と言われ、いつも酒とか女を連れて、街をうろうろしているのだそうだ。

 しかし実際、カイは沙良が占いの仕事を始めてからは、いつも沙良のそばを離れなかったし、そもそもカイが、酒を飲んでいるところを見たことがない。

「王子さまって、お料理上手ですよね」

 沙良は料理があまり好きではない。日本にいたころは、いつもコンビニ弁当とか、サラダチキンとかプロテインとかサプリメントとか、そんな不健康な食生活を送っていた。

 沙良がこの世界に来て一か月、占いの仕事もなんとか軌道に乗ってきた。

 その間、沙良の食事の世話は、カイがすべて担っていた。

「変か?」

「いえ、変とかではなく。すごいなって話です」

 今日は魚介のパスタだった。ショートパスタだ。トマトとチーズがたっぷりの。

 沙良とカイは、ここに来てからずっと行動を共にしている。沙良が魔物に襲われても、すぐにカイが対処できるようにだ。

 そして、沙良はここで占いをしながらカイに魔力のコントロールを学んでいるのだが、いかんせん『理論』しかわからない。なぜなら、カイにもまた、魔力がないからだ。だからカイは、魔力はこうやって操る『らしい』ということしか教えられない。

 対して沙良も、魔物に襲われた魔法使いたちを治したあの一件以来、まるで魔力を扱えていない。だから自分があの時どうやって魔法を使ったのか、どうすればあの力をものにできるのか、まるで分らないのだ。

「むむむ、私って才能ないですね」

「それは否定せん」

「否定してください」

 加護魔法、は最初からは難易度が高い為、風を起こす魔法から始めてみたのだが、風どころかなにも起こらない。

「はあ。王子さま。ここは誰か、魔力の扱いに長けた人を師匠に迎えませんか」

「……俺では不服だと」

「いえ、そういうわけじゃ。でも、このままでは私はただの占い師ですよ」

 そもそも、本来沙良は占い師ではあるのだが、この世界では聖女らしいのだから、聖女らしいことをしたいのだ。

 沙良の意見に、カイが黙り込む。難しい顔をして、

「ならば、ひとり、宛てがある。が、あまり気が進まん」

「そんなこと言ってられないでしょう。そのひとを師匠として迎えましょう? ね?」

「……ソナタ、後悔しても知らぬからな」

 その言葉の意味を、沙良は翌日理解することとなる。

「それはそうと」

 食事を終えて、沙良が皿をシンクに運び終えたとき、カイがポケットからなにらやら取り出して、沙良に渡す。

 赤い宝石のついた髪留めだった。

「え、私に……?」

 よく見ると、王子のジャケットの下、シャツの袖のカフスボタンと同じ、赤い宝石だった。おそろい?

「え、あの。いただくわけには」

「いや。これは魔物除けの宝石……魔石だ。少しは役に立つだろう」

「ああ、そういう」

「なんだ、ほかになんの意味がある?」

「そうですね、意味なんてあるはずがなかったです」

 受け取って、沙良は自分の髪に髪留めを挿す。が、うまくいかない。細く絹のような髪の毛はさらりとして、髪留めがうまくとまらなかった。

 ふたまたに分かれた、いうなればかんざしとかコームに近い形状の髪飾りだ。

「貸せ」

「わ」

 カイがあきれるように髪留めを沙良から奪い取り、沙良の髪にそれを挿した。

「うん、似合っている」

「お、王子さま。ありがとうございます」

「ああ。これからは、毎日それを身に着けるように」

 王子が毎日堅苦しい服を身にまとうのは、魔物除けのカフスボタンを身に着けるためだろうか。カフスボタンが魔物除けだとばれないように、カモフラージュするためだろうか。

 沙良にはまるで、わからなかった。魔石はみんな、赤色をしているのだろうか。


 一時占い業を休業して、カイと沙良はとある場所へと向かっていた。

 王都を離れて南の地方。

「うい~、あれ、俺の馬鹿弟子が女連れてきた?」

「へ? この酔っ払いが……」

「師匠。俺です。これは聖女――の候補と言いますか」

 カイが連れてきたのは、陽気な酔っ払いのいる家だった。女を両手に、昼間っから酒に酔っている。

「カイ。ソナタ、これか?」

 カイの師匠が小指を立てる。からかうつもりだったらしいが、カイがあっさり「はい」と返事をしたことで、師匠がスン、と真顔になった。

「ソナタ、俺の弟子だから女を見る目はあると思っていたはずが」

「なんです、師匠」

「こんな……」

 師匠が両手の女性から手を離して、まじまじと沙良の顔を覗き込む。

 じっと見てから、にぱっと笑う。それで。

「ひゃあ!?」

「かわいいなあ、こんなかわいい子どこで見つけてきた?」

 セクハラよろしく、沙良に抱き着いた。硬直する沙良に対し、カイは慣れた様子で――しかし、顔に怒りをにじませて、師匠を沙良から引き離した。

「おやおや、やるのか?」

「師匠、酔いすぎです」

「なんだ。ケチだな。して、今日はなんの用だ?」

 女性たちを下がらせて、師匠の面持ちに沙良は体を強ばらせた。

「師匠。今一度わたしを、弟子にしてください」

「都合のいい時だけ師匠呼ばわり。いいだろう、ソナタの今の実力を見て、再び弟子入りを許すか判断する。よいな?」

 師匠――イルの顔が真剣なものに変わる。その迫力に、沙良は呆然と立ち尽くした。

 このカイの師匠はやはり、ただものではない。そう思わせる雰囲気が、イルにはあった。


 場所を外に移して、カイは剣を片手にイルと対峙している。イルもまた、剣を腰に据えている。しかし、抜こうとはしない。

「ああ、本当に変わらぬな、ソナタは」

「俺だって、アナタとわかれてから修行してきた。師匠にだって劣らぬ――」

 はずだ! と、カイが地面を大きく蹴った。

 シュ、と俊足でイルとの距離を詰め、剣を振りかぶり、切り下す。

 イルが抜刀した勢いでそのままカイの剣を受け、いなした。カイの剣の勢いを、きれいに殺して横に流したのだ。

 カイの体勢が崩れる。しかし、瞬時に立て直して次の構え。

 左下から右上へ切り上げる。それを、イルは笑いながら後ろに退いてかわした。

 カイの身体能力もさることながら、イルはその上を行く。

「カイ。なかなかやるな。だが」

 イルが剣を振る。

「魔法……?」

 イルの剣に風がまとう。その風ごとカイを切りつけて、カイの服がはらりと切れ、胸のあたりから血が流れた。

 ひるむことなくカイがイルに剣を向ける。真っ向から突っ込んで、しかしイルは、カイの力づくの剣を柔の動きですべていなした。

 最後に、カイの剣がカイの手から弾かれて、カイの敗北が決まった。

「ほうら、ソナタはこんなに弱い。あの時、俺のもとを去らずに修行を続けていれば、こんなことにはならなかった」

 カイが顔をしかめて胸の傷に手を当てている。

「帰れ。俺はソナタに教えることなんてない」

「あ。あ……王子さま!」

 沙良がカイのもとへ走る。沙良はいまだ、自分が聖女であることも、その力の使い方もわからない。わからないのに、体が勝手に動いた。

「なに……!?」

 ぽっと沙良がカイの傷を回復させる様を見て、勘のいいイルはすべて察したようだった。

「カイ。まさかそちらのかたは」

「はい。聖女にございます」

 はっと頭を抱えて、イルが笑った。

「そういうことか、カイ。ソナタが自ら帰ってくるなど、ありえぬと思っていたところだ」

 こちらへ、とイルが家の中に案内する。沙良はカイの傷を癒したその足で、イルの家へと入っていく。

 不思議と、聖女の力を使っても、今日は倒れるどころか疲れさえ感じなかった。


 家に入って客間のソファに腰かけて、沙良はイルをまじまじと見た。

「あの、アナタが王子さまのお師匠さまですか?」

「ああ。俺はイルというものだ。なに、昔ちょーっと勇者なんてものをやっていてな」

「え! 勇者さまなんですか!?」

「すごいだろぉ?」

 また、イルが沙良に抱き着こうとしたため、今度はカイが断固触れさせなかった。

「おうおう、そんなにこの子が大事か? カイ?」

「師匠、そういうのは今いいので」

「はいはい。冗談もわからんのは相変わらずだな。さて、そうだな。結論から言おう」

 すっとイルの雰囲気が変わった。沙良はごくりと生唾を飲み込む。勇者だと言っていた。ならば、相当の手練れに違いない。そもそも、カイの剣技を鍛え上げたのがこの人物だとすれば、その腕は確かなものだろう。

「ソナタ、本当に聖女になる覚悟はおありか?」

「え?」

 沙良の予想に反し、厳しい言葉を投げられた。

 沙良だって、生半可な覚悟で聖女になりたいわけじゃない。いや、そもそもなぜ聖女になりたいのだったか。この世界を救うため? 王子さまの立場を守るため?

「先代の聖女さまは、死ぬまでこの国の籠の鳥だった。加護魔法をこの国にかけ続けるために、生涯この国から出ることなく、聖女としてのお役目を全うされた」

「……! それじゃ……」

 そもそも、沙良は元の世界で本当に殺されたのだろうか。本当は生きていて、もしかしたら元の世界に帰れるかもとどこかで思っていた。それまでの間に、聖女としてこの国で生きて、加護魔法を施せばと、沙良はそう、軽く考えていた。

「先代さまも、召喚者さまだった。俺は勇者として、旅の話を先代さまに話し聞かせていてね。親交があったんだ。いつも言っていたよ。郷の家族は元気だろうかって」

 沙良は口を結んでなにも言わない。カイは沙良を見守っている。

 沙良は試されている。この世界に骨をうずめる覚悟はあるのか。

 そんなもの、なかった。あるはずがない。生まれ育った場所で生きたいと思うことは、悪いことなのだろうか。

「でも、私がやらなければ、この国の人たちが、困ります」

「だからって、ソナタがやろうとしていることは、国民をぬか喜びさせるだけだ。加護魔法を使うだけ使って、はい自分は郷に帰るので加護魔法はここで終わります。それじゃあ、最初から聖女なんていないって言われたほうがあきらめがつくってもんじゃないかい?」

「それ、でも……」

 それでも、この国に加護魔法が必要ならば。

 ……いや、そもそも、なぜこの国は加護魔法を必要としているのだろうか。魔物は本当に、理性もなく、ただやみくもに人間を襲っているだけなのだろうか。

「お師匠さま。そもそもこの国は、いつから聖女の加護魔法を必要としてきたのですか?」

「カイ。それも話していないのか?」

「必要ないでしょう。このものはこの国の人間ではないのですから」

 意味深な言い方に、沙良はカイに向き直る。

「教えてください」

 しかし、カイは首を振るだけだった。なぜ、なにも教えてくれないのだろうか。

 沙良は再びイルのほうを向き直った。

「はるか昔、人々と魔物は手を取り合って生きていた。そりゃあ、仲良くとまではいかないが、不可侵条約を結んで、各々の土地で平和に暮らしていた」

 ならば、なぜ今、こんなことになっているのだろうか。

「だけど、約束を破ったのは人間のほうだよ。ソナタの世界にも戦争は存在するだろう? それだよ。戦争は儲かる。ある貴族が、魔物の子供を殺したんだ。戦争を始めるためにね。あとはもう御察しさ。不可侵条約を破った人間は、魔物を国外へ追いやった」

「そんな……じゃあ、私がしようとしていることは、戦争に加担するようなもの……」

 だったらもう、自分の役割なんてないのではないか。

 聖女が加護魔法を施さなければ、この国は魔物によって滅ぼされる。しかしそれは、自業自得だ。戦争を仕掛けたのは人間のほうだ。だったら、人間がいなくなることでしかこのいさかいは終わらない。

「王子さま、は……知っていて私を生かしたんですか?」

「あの場でソナタを見殺しにせよと? それはあんまりだろう。ソナタはこの世界の人間ではない。ならば、この国の魔物と人間の争いに巻き込むには酷すぎる」

 折を見て、元の世界に返す手立てを見つけるつもりだった。カイが声を絞り出す。

 自分だけが蚊帳の外だった。沙良は自分の浅はかさを恥じた。この世界に来て一か月、沙良はこの世界のことを知ろうとはしなかった。どこかで他人事だった。自分はいつか、元の世界に帰るのだと、漠然とそう思っていた。

 だが、今は違う。沙良はこの世界を『本当の意味で』救いたい。そのためにはまず。

「王子さま。私、やりたいことができました」

「……だからソナタをここに連れてきたくなかった」

「そうですね。王子さまには王になっていただいて、魔物と人間のこのいさかいを終わらせていただきます。そのためにも。師匠」

 沙良は誓った。自分はもっと、強く、強く、強くなって、この世界を救いたい。

 沙良はこの世界のことをなにも知らない。知らないからこそ、知らねばならないと思った。

 戦争はどこの世界にも存在する。それがいたく悲しくて、どうにかなりそうだった。

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