第8話 お嬢様な金策編⑧
リーシャは家を飛び出してからずっと、大切に隠し持っていたティアラを、女戦士の前に差し出した。
気だるそうに振り返った女戦士は、そのティアラを見るようにして、少し姿勢を低くして顔を近づけた。
「こ、これは本物か?」
「ええ、本物よ」
「私自身、あまりそういった装飾品に興味がないのだが、そんな私でさえも目の前にあるこれが、どれだけの価値を持っているかは容易に想像がつく」
部屋に差し込む夕日によって、より一層キラキラと輝き、女戦士の目をくぎ付けにしていた。
じっくりとティアラを眺めた女戦士は、そのまま顔をあげてリーシャを睨んだ。
「で?どこで盗んだ?」
「は……はい?」
「だから、どこで盗んだのかと聞いている。お前みたいなみすぼらしい小娘が、そんな高価なものを持っていること自体おかしな話だ。いっそのこと報奨金目当てで、お前をティアラごと自警団に突き出してやろうか?」
女戦士のあまりにも見下すような上からの物言いに、生粋のお嬢様育ちの少女は歯をくいしばって苛立ちを押さえるように口を閉ざしていた。
「そもそもが、あんな夜中にあんな暗い森の中を一人でうろついていたこと自体おかしな話だったか。どうせ、それを盗んでから逃げ隠れしていたのだろ?」
耐えるようにして口を閉ざしていたリーシャだったが、ケンベルクという生まれのもとから、必死で逃げてきたのに、泥棒扱いにされたことで、とうとう口を開けてしまった。
怒りをぶちまける為……ではなく、リーシャ自身の今後のために。
リーシャは女戦士に一歩力強く近づいて、お嬢様の堂々とした風格を漂わせながら、女戦士と出会ってからは、一度も見せたことのない凛とした表情を浮かべた。
「ケンベルクという名は御存じ?」
「は?当たり前ではないか。貴族筆頭と言っても過言ではないくらいだぞ」
「お見知りいただき光栄ですわ」
「お前とは何ら関係ないだろう。とりあえず外へ行こうか」
女戦士はリーシャの言ったことに聞く耳を持たずにして、無理やりにでも連れ出すために腕を掴もうとした。
「おやめになったほうがよろしくてよ?」
お嬢様のリーシャは、女戦士が掴もうとしてくる手を、軽々とあしらう様に振り払った。
「あら?私としてはお恥ずかしい。自己紹介を忘れていましたわ。私の名はリーシャ・ケンベルク。この名の通りケンベルク家の本家に名を連ねるものですわ。」
目の前のボロボロな服を着ている少女が、堂々と権威ある自己紹介をしたことによって、女戦士は再び腕をつかみ返す隙なく、呆然と固まってしまった。
「え?」
「はい!!」
リーシャは満面の笑みで、女戦士の目を見つめた。
女戦士の脳裏によぎるのは、これがただの”はったり”だという可能性と、事実だという可能性。
こんなボロボロの服を着ている少女がお嬢様なわけがない。しかも、護衛をつけずに夜中の森を歩いていた。考えれば考えるほどにケンベルク家の人間だとは思い難い。
ただ、後者の可能性。目の前の少女がケンベルク家の人間だということが本当だとしたら、何のいわれもない有数の貴族のお嬢様を自警団に突き出すようなものなら、
女戦士自身が処罰を受けてしまうかもしれない。
女戦士の表情は、苦笑いをするかのように、みるみる内にひきつっていく。
親が決めた結婚は嫌なので、家から飛び出して商業ギルドを作って自立してみた!! 入江 郊外 @falie
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