第7話 お嬢様な金策編⑦
宿屋の部屋に着いたころには、血生臭かった暗い夜は明けて、昇りたての太陽が辺りを照らしている時間になっていた。
リーシャはいまだにうつ向いたまま、暗い表情のままでベッドの側で立ち尽くしていた。
それに見かねた女戦士は、身軽なリーシャをまるで綿を持つように軽々しく両手で持ち上げた。
「ちょっ、なっなにするのっ」
不意にお姫様のように持ち上げられたリーシャは、女戦士の両手の上で足をバタバタさせ、よほど恥ずかしいのか、今すぐ地に足をつけたいかのように暴れようとしていた。
だが、鉄の剣を日常から振り回している女戦士にとっては、子供があがくようなものと同じこと。
両手に抱えられたリーシャは、女戦士によって優しくベッドの上に寝かしつけられた。
「ほら、目を閉じな?」
「なんで、あなたの言うことを聞かなきゃ――」
女戦士は、リーシャが寝ているベッドの上に腰を下ろし、そっと彼女の瞼に手を当てた。
「ほら、もう寝ることしかできないけど?寝ないの?」
「ちょっと、どけてよっ」
リーシャは必死に女戦士の手を解こうとするが、生まれたての赤子のようにジタバタとしているだけになってしまっていた。
しばらくすると諦めがついたのか、ジタバタするのをやめて、静かにベッドの上に横になっているリーシャになった。
そこから、彼女がスヤスヤと寝息を立てるまではほんの一瞬の話だった。
女戦士はリーシャが眠りについたことを確認すると、座っていたベッドの上から立ち上がった。眠りについた彼女を起こさないように、静かにベッドから少し離れた床の上に座ると、壁に身を預けるようにすがり、目を閉じた。
リーシャが目を覚まそうとしたころには、外の景色はオレンジ色に染まり、夕日が今にも身を隠そうとしていた。
「んーーっぅ」
無邪気にベッドの上で背伸びをしたリーシャは、眠そうな目を擦りながら、周りを寝ぼけた顔で見渡した。
「おっ、お目覚めかい?」
床の上で片足を立てて座り込んでいる女戦士が声をかけた。
「まだいたの?」
「追手が来たらいけないからな。どうせ外以外で寝る場所もなかったしな、私の仕事はこれで終わりさ」
女戦士は床に置いた剣を手に持って立ち上がると、部屋のドアの方へ歩いていこうとした。
「ちょっと待って!!」
さっきまで寝起きだったリーシャが、勢いよくベッドから飛び降りて、彼女のもとから去ろうとする女戦士の手を取った。
「なに?」
「もう少し一緒にいてほしいの」
ただ、無慈悲にも女戦士は、リーシャの華奢な手を振り払った。
「もう金貨一枚分の仕事はした。これ以上を求めても応じられる義理も筋合いもない。じゃあな」
細く弱弱しい手を軽々しく振り払った手は、何の戸惑いもなく、薄汚れた扉のさびれたドアノブへ向かう。
「話があるの!!」
諦めの悪いといえばまだいい。リーシャのわがままという方が実にふさわしい。弟が生まれて以来、ケンベルク家では蓋をしていた感情。
けれど、今のリーシャは欲しいものは自分で手に入れるしかないという選択肢しかない。
自らの采配で。
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