第5話 お嬢様な金策編⑤

 夜も半ばの頃。リーシャは生まれて外で寝ることも初めてで、暗闇に包まれた夜の中。それに一人きりでの野宿でも、スヤスヤと寝息を立てながら、夢の中にうつつを抜かしていた。


 かわいい寝顔をしながら寝ているリーシャにガサガサと物音と、月夜に写る黒い影が忍び寄ってくる。

 黒い影はリーシャを起こさないように、足音を立てないように静かに近寄っていた。


「おい娘!!こんなところで寝てたら襲われるぞ」

「ふぁ~?」


 リーシャは黒い影の声のせいで、夢の中から引きずり出され、寝ぼけ眼で上を向いた。


 寝ぼけ眼に映るのは紛れもなく人影で、寝起きの霞んだ目では顔までもは認識できないでいた。

 ただ分かっているのは、少し低めの芯の通った女性の声だということ。


「ん?誰ぇ?」

「寝ぼけている場合ではない。今すぐ立つんだ」


 リーシャは手を引っ張られるまま立ち上がり、連れられるがまま、急に現れた人物に走らされた。


 ――眠たい。走るの辛い。


 無理やり走らされていれば嫌でもすぐ目が覚めてはいたが、いまだ目が霞む中、目を擦りながら寝ぼけたピントを合わせようとしていた。

 ようやくピントが合った目に映るのは、褐色の肌で、剣を腰に携えた女戦士だった。


 ――綺麗な髪ね。


 女戦士の白い髪の毛が、月夜に煌めき銀色に輝いて、あまりの美しさに思わず見とれてしまったリーシャだったが。


 お嬢様の手を引くのは女戦士、日ごろから幾多の鍛錬を積んでいて、走ることなんて朝飯前にも及びはしない。


 息を切らすことなくただひたすらに走る女戦士とは、対の存在であるリーシャはもう死にそうな顔をしながら、息も絶え絶えの状態で、もうほとんど引きずられているようなものだった。


「はぁはぁはぁ、ちょっ、ちょっと待ってっ」


 伯爵のお嬢様は、音を上げるように女戦士に声をかけるが、褐色の肌の女戦士は、自らの白い髪をたなびかせて、ただひたすらに月夜に照らされている道なき道、森の中を走っていた。


 ――足は疲れて棒のようだし、血反吐を吐きそうなくらいに息をするのが辛いし、もういい加減にしてよ!!


 永遠と走り続けることに耐えかねたリーシャは、残り少ない体力を振り絞って女戦士の手を振りほどいた。


「ちょっと待って!!もう走れない!!」

「おっと」


 走っていた女戦士は、リーシャの手が振りほどかれたのと同時に立ちどまり、振り返った。


 リーシャは手を膝に置いて、うつむいたまま息を切らしていた。

 それを見かねたかのように女戦士は、リーシャの側に近づき片膝をついて、目線を合わせてから、話しかけた。


「死にたいのか?」

「死にたいって、はぁはぁ。そんな……わけないじゃない」

「じゃあ走るんだ。」

「だから無理だって!!」


 会話をするのも辛そうな呼吸を荒げているリーシャに、淡々と話しかけた女戦士は、お嬢様の彼女の弱音を聞くとふと立ちあがり、森の中の暗闇の遠くを見つめ始めた。


「では、私は先にいくが、よいか?」

「好きにすればいいじゃない」


 女戦士が見つめる方向から、重厚な足音が聞こえ始める。人の足音ではないし、森

の木々が擦れる音とは明らかに違う、もっと力強い地面を蹴り進む動物の音。


 リーシャは、息も絶え絶えの中、音のする方向、女戦士が見ている方へ振り向いて、その正体を確認しようとした時だった。

 男の野太い声が、森の中を響かせると同時に、馬の大きい体とそれに跨る野蛮な姿たちが見え始めていた。


「捕まえろ!!奪え!!」

「「「うぉーーーー」」」


 リーシャは思わず、さっき振りほどいた女戦士の手を取った。


「あなた、見たところ戦士といったところでしょ!?ここで倒してよ」

「は?」

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