第3話 お嬢様な金策編③

 質屋とは、店に品物を預けて、その価値の分お金を借りられる店のことである。もちろん返せなければ、預けた品物は店の物になり没収される。

 リーシャは質屋に入ると、店の中には誰もいない。店の奥にいるであろう店の人に向かって声をかけた。


「お店の人はいらっしゃいますか?」

「あぁ」


 しゃがれた声、老けた声が見せの奥から聞こえると、店の奥から腰を曲げたおばあちゃんがやってきた。

 質屋のおばあちゃんは、店の受付のカウンターの椅子に、重そうな腰をおろして気だるそうに口を開けた。


「なんじゃ、こんなお上品な嬢ちゃんがどうした?」

「このドレスとティアラを売りたいのですが?」

「ドレスはいいがの、そのティアラはこの店じゃ無理。店がつぶれちまうがな」

「そこをどうにかできませんか?」

「できんし、そんな大層な宝石のついたティアラなんか、質屋じゃ扱えきれん。この街にもあるじゃろ、宝石屋が。そこで買い取ってもらいな」


 質屋のおばあちゃんは、街の宝石屋に行くよう勧めたが、リーシャにはそれができなかった。この街にある宝石屋は、ケンベルク家もとより、貴族の行きつけだったり顔なじみだったりするわけで。そんなところに、貴族のお嬢様が宝石や装飾品を売りに来たとなれば、すぐに情報は伝わるし、そもそも金に困ることを知らない貴族が、自ら所有している物を売ること自体で怪しまれる。


 リーシャは、頭に着けているティアラを外して、腰の曲がったおばあさんに聞いた。


「このティアラを、この街以外でお金にするところをご存じでしょうか?」

「それは少し難しい話なね。この街もかなり大きい街じゃし。港町の商人なら買い取ってくれそうだが」

「港町ですか?そうですね……、ここから一番近いところで”シザード”なら買い取ってくれそうですか?」

「そこなら大丈夫じゃろう。貿易も盛んじゃし」

「ありがとうございます」


 リーシャはティアラの売り先の目途が付くと、両手を自分の背中に回して、ドレスの紐を解き始めた。

 質屋のおばあちゃんは、ドレスを脱ごうとしているリーシャに対して、思わず椅子から立ち上がって、それを制止しようとした。


「おいおい、お前さん。そのドレスを今すぐ売るのかね?」

「えぇ、そうですが?」

「ドレスを売るのは構わんが、嬢ちゃん、すっぽんぽんで店をでるのかい?」

「あっ、失礼しましたわ。では、この店で一番安い服を買わせてもらえないかしら?」

「そうしてくれ。今持ってくるから少し待っておれ」


 質屋のおばあちゃんは、リーシャのドレスの代わりとなる服を取りに行くために店の奥に行くと、すぐに服を持って店の奥から戻ってきた。


「これでよいかの?」


 質屋のおばあちゃんは、そう言いながらニヤリと不気味な笑みを浮かべ、服を受付のカウンターの上に無造作に置いた。店の奥から持ってきた服は、とても安価で手に入りそうな白い無地の生地の服でありながらも、歴史を感じるほどに黄ばんでいた。


 ――とても年季が入った服、ぼったくりかしら。


 お嬢様であった彼女は、それに動じることもなく、値段を聞いた。


「それ、おいくらですか?」

「んーそうじゃの、その前にこのドレスの金貨を出しておくかの」


 質屋のおばあちゃんは、金貨を三枚カウンターの上に置いた。

 カウンターの上には、ボロボロの服とドレスの代金である金貨三枚。まるで天秤の上に掛けられているかのように置かれた二つの対の価値の物。


 質屋のおばあちゃんは、ニヤリと不気味の笑みを浮かべながら、リーシャに尋ねた。


「嬢ちゃん、この服いくらで買い取ってくれるかの?」

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