第10話 避難所で

 俺は、地竜を連れ避難所に向かう。半泣き状態の地竜になんて声をかければいいのか分からず、ただ黙って歩き続ける。兄さんには、少しがっかりだ。今まで地竜をからかうことがあっても、傷付けることはなかったのに。焦る気持ちは理解できるが、もう少し言い方があったはず。それに。ここから避難所は遠くない。危険はないはずなのに・・・俺ってそんなに頼りないのかな?

色々考えていたらすっかり日が暮れていて、目の前には避難所が見えた。高台にある大きな洞窟。緊急用に場所を教えてもらったことはあるが、使うのは初めてだ。遠くからしか見たことなかったけど、思った以上に大きな洞窟のようだ。入ってしばらく辺りを見渡していたら母さんが俺達に気付き、声をかけてきた。


リリア「ギルちゃん、地竜ちゃん、こっちよー・・・あら、ウォルちゃんは?」

闇胡「・・・父さんのとこ」

リリア「そぉ・・・あなたは、よかったの?」

闇胡「・・・地竜を任された。すみません、疲れたから寝てきます」

リリア「そぉ、おやすみなさい」

地竜「兄貴・・・」


兄さんのバカ、一緒に連れていって欲しかったのに。俺は、やるせない気持ちで入り口近くで伏せて待つことにした。ちらっと地竜の方を見ると元気そうに振舞っているが、あいつも色々追い込まれているようだ。さっきまで眠そうだったのに、今は上の空で会話している。しばらく待っていると、楽しそうな父さんの笑い声が聞こえてきた。戻ってきたんだ!嬉しさで立ち上がり、声のした方を見た。だがそこには、兄さんの姿は無かった。俺は焦り始めた・・・そうだ!少し遅れて来るんだ!しかし兄さんが現れることは、無かった。

母さんは地竜を連れ、出向えに来た。


リリア「アナタお帰りなさい。あら、ウォルちゃんは?」

ヴォルク「ただいま。あいつなら避難所に来てるんじゃ?」

リリア「っえ?ギルちゃんがアナタのとこに行ったって・・・」

ヴォルク「っな!おいギルス!どういうことだ!」

闇胡「・・・ごめんなさい」

ヴォルク「ガルルルル」

リリア「説教は、後にしなさい!それより・・・」

ヴォルク「分かってる!お前らここは任せる」

一同「っは!」

闇胡「お、俺も一緒に行きます!」

ヴォルク「ダメだ!お前はここで待っていろ」

闇胡「おねがぃ・・・」

ヴォルク「・・・分かった、ただし側を離れるな!」

闇胡「はい!」

地竜「ぼ、僕もいっしょ」

リリア「地竜ちゃんダメよ。アナタ、後は任せてちょうだい」

ヴォルク「ああ。行くぞ」

闇胡「はい!」

リリア「気を付けていってらっしゃい」

地竜「・・・」

リリア「地竜ちゃん?あなたは、私のお手伝いよ」

地竜「・・・はい」

リリア「いい?あなたは、足が遅いのよ。一緒に行けば置いて行かれちゃうの。苦手なものは、しょうがないのよ。だから、あなたの得意なことでみんなを支えてちょうだい。あなたには、誰よりも器用なおててがあるでしょ。戦うことがすべてじゃないの。強さに憧れるのは、分かるわ。だって、男の子だもの。でもね、あなたが強さに憧れるように、器用なあなたのことをうらやましいって思っているものも沢山いるのよ?才能は一つじゃないの。あなただっていつかは、強くなるわよ。私が保証するわ。」

地竜「!」

リリア「さぁ、こっちにいらっしゃい」

地竜「はい!」


なんとか父さんと一緒にこれてよかった。あのまま避難所で、じっとなんてできなかった。あの時強引にでも付い行けばよかった!どこか兄さんなら大丈夫だと、思っていた自分が憎い。俺は必死に父さんに付いて行った。涙で前が良く見えないが、それでも必死に探し続けた。だが、どこを探しても兄さんの姿はなかった。しばらくすると、父さんが一本の木の近くで立ち止まる。何だろうと思い、俺も近くに行く。そこには血と思われる物が地面に染み付いていて、兄さんの匂いが強く残っていた・・・

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