24
孝太郎が桃子ちゃんを遠ざけた理由がわかった、と思った。孝太郎は桃子ちゃんを離れに入れたくないのだ。だから入る方法を伏せたいに違いない――そのときの私はそう考えた。それが合っているかどうか確かめる前に、孝太郎は続きを話し始めた。
『いや、鍵がないわりには「入るな」って、ずいぶん注意されるなと思ったんだよ。絶対に入れないものだったら、いちいちそんな風に言わないと思わない? まぁ確かに鍵はない。処分しちゃったらしくて、おやじも工務店も持ってないんだ。でも外からドアを開けようとして、取手を引っ張っても開かないから、施錠されていることは確からしい。まぁ鍵なんかなくたって、窓を壊せば入れるかもしれないけど、そういうのはなるべく避けたいよね。離れにいる人たちが怒ったら、俺じゃなくて桃子が危険になるかもしれない』
そういうこと考えるのか。一応、桃子ちゃんのことは大事らしい――私はそのことにほっとしつつ、同時に不安も感じていた。正反対の気持ちがどっちも確かに存在している。おかしな気分だった。
「それで、どうやって開けるの?」
気味が悪くなってきて、私は返事を急かした。孝太郎は落ち着いた口調で、
『これがすっごい簡単で笑っちゃうんだけどさ、中から開けてもらえばいいんだよ』
と言った。
「中から?」
『そう。簡単でしょ?』
孝太郎はそう言って、電話の向こうで短く笑った。
『あの家で死んだ人は、みんな離れにいるらしいからね。そこに無理やり押し入ろうとしたって、上手くいくわけがないよ。ちゃんと挨拶して、中から開けてもらわなきゃ』
「挨拶してって、どういうこと?」
『だから、堅苦しく考えなくていいんだよ。玄関のドアをノックして、何の用事で来たか言えばいい。これも適当でさ、「挨拶に来ました」とかで開けてもらえたから』
「試したの!?」
『中には入ってないから安心してよ。一応入ったらいけない決まりだからね』
「なんだ……って、入ってないの?」
それはそれでおかしい。孝太郎はあの離れの鍵を、かなり熱心に探していたらしい。だったらどうして入っていないのか――
『入ってないよ。まぁ、ちょっとだけ中に入るくらいなら大丈夫そうだから、一度くらいはお邪魔してみようかな』
「何それ……」
『まぁ、中に入る方法についてはこれで一旦置いといてさ。別の話をしたいんだよ。桃子がいないところで』
私はぎょっとした。本題は離れのことよりもむしろ、ここだったらしい。
建物の方をふり返った。桃子ちゃんの姿はない。さっき言っていたとおり、建物の中で待っているのだろう。
『今いない? 桃子』
「いない。何の話なの?」
『桃子のお腹にいた赤ちゃんが死んだり、赤いエプロンの女が庭をうろうろするようになったりした理由の話。奈緒ちゃんから聞いてない? 赤いエプロンの女』
電話ごしに聞く孝太郎は、こんな時なのにどこか楽しそうだった。
『これ正解を確かめようがなくてさ。だからあくまで俺の仮説なんだけど、怒らないで聞いてよ? たぶん、姉さんがきっかけだったと思うんだよね』
「私?」
『そう』
もちろん心当たりなんかない。なのに膝が震えて、立っていられなくなりそうだった。
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