12
何の変哲もない、そのへんのキャラクターショップにでも売っていそうなものだった。よく見かける、人気アニメのキャラクターをかたどったものだ。ふいに、同じアニメのキャラクターの人形を、最近見かけたことを思い出した。桃子ちゃんに会いにいったとき、あの家の玄関に置かれていたはずだ。
鬼頭さんがノートをめくった。あらかじめ文字が書かれている。
『これはお守りです。身代わり人形と言ったほうがわかりやすいと思います。差し上げますので、お持ちになってください』
「これがですか……」
そういえば桃子ちゃんも「お守りというよりは身代わり」と言っていたっけ。あれは鬼頭さんが渡したものなんだなと見当はつけたものの、やっぱり「お守り」というイメージの見た目ではない。実は手作りだったりするのかな、と思ったけれど、タグを見る限り普通に工場かどこかで作られたものだ。これに不思議な力があったりするのだろうか……と眺めていると、鬼頭さんがノートにすらすらと何か書き足した。
『それは先日ゲーセンのクレーンゲームでとったもので、人形自体に曰くはありません』
「クレーンゲームですか」
鬼頭さんがゲーセンの大きな筐体の前でクレーンゲームに興じているのを想像すると、意外性も相まってちょっと和む……と同時に、なぜか彼女に対しては不信感を覚えないということに気づいた。オカルトに傾倒しているとかいうわけでもないのに、これまで関わったことすらもない「霊能者」という肩書の、初対面の女性について、どうしてこれほどの信頼感を抱いているのか、不思議だった。警戒すべきだろうか? 少し考えて、止めた。今のところすぐに頼れるのは彼女だけだ。疑ってみたところで何か別の手が打てるわけじゃない。信じてみるしかない。
『谷名瀬さんは、すでにあの家になんらかの関わりを持ってしまっていると思います。こちらにお邪魔したとき、谷名瀬さんからあの家の気配を感じました。この人形は、なるべく肌身離さず持ち歩いてください』
鬼頭さんがノートに言葉を追加する。関わりを持ってしまっている――改めてそう言われると、冷たい手で背中を触られたようなギョッとする感覚に襲われた。「わかりました」素直に受け取ると、鬼頭さんはホッとしたように微笑んだ。
「失礼ですけど、このお守りってお代はおいくらでしょうか」
そう尋ねると鬼頭さんは、
『わたしは、わたしの不始末の後始末をしているだけですので、このお守りのお代はいただけません。元々こちらは本職ではないですし』
と答えた。そういうわけにはいかないと思うけれど、気弱そうに見えて頑として受け付けてくれない。仕方なく今日のところは諦めることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます