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「直接的な害って、具体的には何が起こるんですか?」
『最悪の場合、命を落とすようなことです。あの土地に以前建っていた家でも何人か亡くなりました』
思わずぎょっとしてしまう。「命を落とす」なんて、本当だろうか? それは置いておくとしても、そこまで曰く因縁のついた土地をよくも買ったものだ――
私の心の中には、両親への憤りが生まれていた。彼らはその土地を、単に安いからというだけで購入したのだろうか? そうやって費用を抑え、かつ上物だけは立派なものを建てて、「息子夫婦にこれだけのことをしてやった」という見栄を張ろうとしたのだろうか? だとしたら愚かだ。吐き気がするほど愚かだ。
鬼頭さんは、なおも鉛筆を動かす。
『本来であれば、あの家で何かあったとしても、せいぜいあの離れから人の声がするとか、窓から誰かが外を覗いているとか、それだけのことに過ぎなかったはずです』
「私には、『それだけのこと』とは思えませんけど」
私が言うと、鬼頭さんはふふっと小さく笑った。『すみません。商売柄、わたしはその辺りの感覚がマヒしていると思います。とにかく、離れにあそこまで積極的に誘い込むようなものではなかったはずです』
「どうしてその、積極的に誘い込むようなものが増えたんでしょう?」
『それはわたしにはわかりません。なにかきっかけがあったのだと思います。それに、正直にいいますと、想定外のものがあの離れにいます』
想定外。鬼頭さんはそこをぐるぐると丸で覆った。
『元々この家のものではなかったものが追加されて、よくないことが起きているんです。うかつでした。わたし以外にも、もっと目のいい人と組むべきだったと思います』
「目のいい人?」
『実際に視力がいいとか、そういうことではないのですが、そういう人です。もう一度呼ぶことができるかどうかはわかりませんが』
そこまで書くと、鬼頭さんはふーっと息を吐いた。疲れたのだろう。体調もあまりよくはなさそうだ。
鬼頭さんの話が途切れたタイミングで、尋ねてみた。
「鬼頭さん、お話ししたとおり、昨夜義妹から電話があったんですけど」
確か、桃子ちゃんは気になることを言っていた。
(やっぱり早和子さんだ。縁ってこんなことでつながっちゃうんですね)
その言葉が妙に気持ち悪かった。もしかすると私は私が知らないだけで、すでに何かとんでもないことをやらかすか何かして、とっくに巻き込まれているのかもしれない。
『もしかすると、谷名瀬さんが知らないだけで、何か縁がつながるような行動をとってしまったのかもしれません。もちろん、あなたが悪いわけではありません』
鬼頭さんはノートにそう書き込み、ひとつ深いため息をついた。それから急に、肩にかけていたバッグをごそごそと探り始め、取り出したものをぽんと机の上に置いた。
それは人形だった。
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