06
自分の家で食事をとったり、入浴したりしているうちに、気持ちが落ち着いてきた。やっぱり体のコンディションが悪いとよくない。特にお腹が空いているときは駄目だな、と思った。
身代わりだとか人形だとか、そういう話を突っ込んで聞いてこなかったことを、私は今さらながら後悔していた。あのときはなんだか自分でもおかしいと思うくらいゾッとしてしまって、何も聞かずに辞してしまったのだ。
そういえば、桃子ちゃんも私を引き留めなかった。もしも引き留められていたら――と想像すると、穏やかになっていたはずの気持ちがまたザワついた。
やっぱりなにかおかしなことが、あの家で起きている。無性にそんな気がした。
奈緒ちゃんに仕事を頼まなければよかったかもしれない。あんな家に送り込んでしまって、悪いことをしてしまったんじゃないか――遅すぎるけれど、そんなことも考えてみる。そもそも不穏な噂が山ほどあるところだ。そんなところに毎日通わされるなんて、あまり気分のいいものではないだろう。もう少し彼女のケアをすべきかもしれない。
(とはいえ、桃子ちゃんがなぁ)
あの離れに入ろうとすると言って、孝太郎がずいぶん気にしていた。奈緒ちゃんに日中見張ってもらって、助かったことも確かだ。
孝太郎は奈緒ちゃんの後釜を探しているらしいけれど、なかなかお手伝いさんが見つからないと聞いた。色々あった土地だから、近所ではよくない噂が回っているのかもしれない。それ以前に、奈緒ちゃんみたいに一日中いてもらうとなるとお金がかかるだろう。幸い今は落ち着いているみたいだけど、これからどうなるかはわからない
(あの家にはもう怖くて行けません)
そう話していた奈緒ちゃんの、ただごととは思えない表情を思い出した。それと同時に、ひとつ思いついたことがあった。
人形や身代わりについて、奈緒ちゃんに聞くことはできないだろうか?
桃子ちゃんと一緒にいる時間が長かった彼女なら、なにか知っているかもしれない。もっともあの家でのことを思い出してもらうわけだから、いやがられてしまうかもしれないけれど……どうしようかな。
そんなことを考えながら、仕事用の部屋に引っ込んでメールをチェックしているうちに、夜の十一時を過ぎた。部屋のドアをノックする音が聞こえた。
「どうぞ」
ドアを開けたのはもちろん達彦で、パソコンに向かっている私を見ると、「まだ仕事やってんの」と声をかけてきた。
「まぁ、ちょっとね」
「適当に休めよー」
「はいはい。寝てる間に、小人が仕事をやっといてくれたらいいんだけどね」
靴屋じゃないから無理だね、と深刻ぶった顔で言われた。こういうどうでもいい冗談をいちいち拾ってくれるあたり、波長が合う相手だとは思う。でもやっぱり結婚は怖い。
「おれはもう寝るけど」
「わかった。私も適当に切り上げるから」
おやすみ、と言い合って達彦がドアを閉めようとする。そのとき、わたしのスマートフォンがぶぅんと振動した。
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