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 週刊誌の記事によれば、当時の住人のうち二人が火事によって亡くなったという。これは別の新聞記事でも確認しているので、正しい情報だということにしておこう。

 この火事によって家は半焼、住人もふたたび住むことはなく、取り壊されることになったようだ。和洋折衷のレトロなお屋敷だったというから、更地にしたのがもったいない気もするが、家族が不幸な死に方をした建物に住み続けるのは辛いだろう。

 週刊誌によれば、火事が起こる前、この家からはすでに二度も葬式が出ていたという。さらに火事の後、焼け残った家の中で一人が自殺。たった一人生き残った女性は、辛い記憶が残る家を売却して出ていった――ということになっている。もしもこれがすべて本当なら、とんだ事故物件だ。

 さらに、過去にも痛ましい事件があったという。当時の住人すべてを巻き込んだ無理心中だ。たった一人の錯乱によって一家が全滅……ここまでやられるともう現実味がなくなって、いっそ「ウソくさいな」なんて思えてしまう。

 仮にここに書いてあることがすべて真実だとしたら、大変なことだ。「幽霊なんか信じない」という人でも、ここまで人死にが続いた土地に住むのは気が進まないだろう。私だってイヤだ。

 記事によれば、一家心中を引き起こした当時の主はカルト宗教にはまっていた――なんて噂もあったらしい。いよいよホラー映画か何かの世界だ。

 私はため息をつき、週刊誌を元の棚に戻した。こんなものを何度も読み返している場合ではない。私の前には、さまざまな問題が山積みになっているのだ。


 色々気がかりなことはあるが、中でも緊急性が高いのは、両親の会社の経営状態が芳しくない、ということだった。

 国内外からインテリアや服飾雑貨を買い付け、販売する。高級志向が強く、新規の顧客を開拓して手広く商売をするというよりは、長い付き合いのあるお得意様を重視する方針を、基本的にはとっている。それ自体はいい。問題は両親――特に父が、何十年も昔のバブルの頃の感覚を、未だに引きずっているということだった。

 どう考えても分不相応なお金の使い方をしている。まだ十分乗れる車を買い替え、年に何度も海外旅行に出かける。去年はようやく、使っていなかった別荘を手放させることに成功した。あの維持費だってバカにならなかったのだ。

 このいい加減傾きかけた会社を、父は私に継いでほしいという。嬉しくはない。ババ抜きでババを引かされたような気分だ。

(私も、孝太郎みたいに全然関係ない仕事に就いてしまえばよかった)

 それができなかったのは、引け目があるからだ。私は父の前妻の娘で、現在の母とは血縁関係がない。だから特に母に対しては「引き取ってもらった上に、育ててもらった」という気持ちがあって、強く出ることができない。両親はその辺りを見抜いているのだろう。

(お願いよ、早和子ちゃん。あたしたちの面倒をちゃんとみてね)

 母はよく私にそう言う。私は愛想笑いをしながら、その実頭の中では苦虫を噛みつぶしたような顔をしている。

 私が何とかしなくちゃならないのは、どう考えたってこっちの家の方だ。それでも気がつくと、私は弟たちが住む家のことを気にかけているのだった。

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