20
誰かと思ったら、インターホンを鳴らしていたのは義姉の早和子さんだった。
「どうも〜。仕事で近くに寄ったから、来ちゃった」
そう言ってはいたけど、どうもわざわざ立ち寄ったような気がする。
「勝手にお祝い持ってきちゃった。今生モノとかダメでしょ?」
と言われて初めて、そういえば何がお祝いに欲しいか連絡するのを忘れていたな、と思い出した。
「すみません、連絡してなくて」
「いいのいいの。いつか自分でも食べたいもの選んできたから、今度感想聞かせてよ」
新築祝いは、レトルトのおかずの詰め合わせだという。早和子さんは勘がいい、と思う。こういうものは食べたらなくなり、その後目にすることはない。私はともかく、孝太郎はそちらの方がいいだろう。
「グルメな友達におすすめ聞いて買ったの。有名ホテルシェフ監修の、量が多くておいしいやつだって。ご飯作りたくない時にでも使ってね」
「ありがとうございます」
食事の支度をしなくて済むのはありがたい。早和子さんはリビングを一通り見渡し、いいおうちじゃない、と嬉しそうに言った。
「孝太郎も元気?」
「はい、おかげさまで」
「よかった。私のせいで色々割食っちゃってるからさ、孝太郎は」
そう言って、早和子さんは少しさびしそうな顔をした。
「そうですか」
「そうだよぉ。うちの親ヘンだし、あの子も大変だよね」
早和子さんは何となく話しにくそうに口をつぐみ、それからまた「あのさ」と口を開いた。
「ここの土地のこと、色々聞いちゃった。うちの会社のお客さん、この辺にいなくもないからさ。自然に耳に入ってくるっていうか……なんかすごいね、聞いた限り」
「すごいですよね、ほんと」
私もつい、笑ってしまう。ほかにどんな顔をしたらいいというのだろう?
早和子さんは私に応えるようにくすくす笑いを漏らし、それから「見栄っ張りなんだわ、うちの両親」と言った。
「見栄っ張りだから、一応見た目だけでもいい感じのとこに……って感じなんだろうね。まったく、困った困った」
笑いまじりにそう言ってから、少し改まって「桃子ちゃん、一応言っといたほうがいいと思って言うけど」と真面目な口調で言う。
「なんですか?」
「うちの会社、あんま良くないかも」
急に幽霊屋敷だの事故物件以外の話が出てきて、ちょっと驚いてしまった。
「あんまりよくないって?」
「経営状態がね。それでも生活水準は落とせないんだから、両親には困ったもんよ。やれやれ」
わざと大袈裟な手振りで「やれやれ」と言ってため息をつく。
「……だからさ、ハナから家出て、関係ないとこで勤めてる孝太郎のほうが、結局はラッキーかもね――なんて」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます