14
何かを叩くような音は続いていた。そのせいで夢と現実の境がぼんやりと曖昧になって、夢の中に出てきた子供が今にも姿を現しそうな気がした。
コン、コン、という感じ。本当にノックのような音だ。
急にお腹が張って、痛みが襲ってきた。顔を伏せ、ゆっくりと呼吸をする。一定時間を超えればピークを過ぎて、少しずつ痛みが弱まっていく。
コン、コン
音はまだ聞こえる。
ドアじゃない。もっと近く――窓の方から音がしている。
(離れが見える窓だ)
今見たら、また離れの窓に灯りが点いているかもしれない。
わけもなくそう思った。
私はおそるおそる立ち上がった。お腹の痛みはもう、さほどでもない。窓の方に一歩ずつ近づく。そのたびに音がくっきりとして、
(やっぱりあっちの方から音がしてるんだ)
怖いはずなのに、確かめずにはいられなかった。
カーテンに手をかけ、またゆっくり息を吸って、吐く。もうガラスに映った自分には驚かない。大丈夫、何があるのか確認するだけ。窓が閉まっているんだから、何がそこにいても危なくなんかない。
厚いカーテンとレースのカーテンを一度に握って、勢いよく開いた。
私の目が、オレンジ色の光を捉えた。灯りが点いている。
(やっぱり離れだ)
なぜか奇妙な安心感を覚えた。そのとき、コン、とすぐそばで音がした。
窓の下の方から、白い腕が伸びていた。そこにあるべき体は見えない。こぶしを握った手の甲がガラスを叩く。
コン
「桃子!」
いきなり名前を呼ばれた。
次の瞬間、強い力で肩を後ろに引っ張られた。転びそうになったところを支えられて中腰になる。強い光が目に入ってクラクラした。
「桃子、大丈夫?」
声がする方を見ると、孝太郎の顔があった。
「あれ……?」
「あれっじゃないよ。どうした? 桃子。何やってるの?」
私にもわからない。
私たちは庭に立っていた。足の裏が冷たいと思ったら、靴も何も履いていない、素足のままだ。孝太郎が持っている懐中電灯の明かりで見ると、手にも土がついている。膝も少し湿っているようだ。
「今、夜中の二時だよ。こんな時間に庭に出てさ……本当に何してたの?」
孝太郎は怪訝な顔をする。そのすぐ背後に、私は見覚えのあるものを見た。
離れだ。
私たちのすぐ近くに、離れの玄関があった。その横に大きめの窓。子どものようなものが写っていた、あの窓。
いつの間に、こんなところに立っていたのだろう。
「……わかんない」
「ん? なに?」
「ごめん、どうしてここにいるのか私、全然わからない。ちゃんと部屋で寝てたのに」
とっさにお腹に手を当ててみた。こっちは大丈夫そうだ。痛みは強くなっていない。
「それどういうこと? 桃子」
「わかんないんだってば……うそ? 私、寝ながらここまで歩いてきたってこと? 孝太郎は? 何でここにいるの?」
「下からガタガタ音が聞こえたから、見に行ったら桃子が窓から外に出るところで……」
「私が? 自分から?」
「ほんとに覚えてない?」
孝太郎は不安そうにそう言うと、私の右手をぎゅっと握りしめた。
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