第11話
早く目が覚めた。
冬の寒さが一段と厳しくなって、部屋の中がとても寒く感じる。
それはきっと毛布を首元までかかっていなかった事が原因だけど。
ベッドに横になったまま聖術で部屋の空気を温める。
まだ起きているのは私だけで、狭いベッドに私、フィル、フランの順で3人が川の字に横になっていた。
……あぁ、昨日はフランの部屋にお泊りをして、フランから面白半分で秘密を聞き出そうとして。
全て話したフランはそのまま眠ってしまったので、寝間着を着せてフィルと協力してベッドに運んだんだのだ。
少し酷いことをしてしまったかもしれない。
フランに毛布を深く掛けて寒くないよう温める。
私が動くとフィルが眠ったまま絡みついてきた。
まるであの事は共犯だと言ってくれている様だった。
勝手にそう解釈した私は、フィルを抱き寄せて、その耳に顔を埋める。
少し、落ち着いた。
===
昨日、フランから聞いた事の中で私が覚えているのは大きく分けて2つ。
1つ
やはりフランは騎士団の騎士ではなく、領主様によって村から保護された魔力持ちの子供だった事。
領都で魔法の勉強をしていた所に、騎士団を通して領主様から今回の護衛の命令が下ったのだという。
つまり、護衛ではあるが、騎士団の騎士様ではなく、自分の事はただの平民だと思っていたのだ。だからこの町で騎士様として敬われる事に申し訳ないと思い続けていたといっていた。
知らない事がいくつもあったが、それらは予想出来ていた内容だった。
正直、一番印象的だった事は、フランが12歳だったこと。
服を着せながら、改めてそう思った。
そしてもう1つ。
それは、その日の夕方、ヘムロックから共有された情報についてだった。
この町には、私を誘拐したら多額の報酬が得られるという噂が流れているらしい。
当然、出所の調査を騎士団で行ったが、調査した騎士が数名消息不明になるという結果だった。
想像以上、想定外の相手の対応に、私の護衛の危険度が上がり、追加の護衛を手配しているという。
…確かにこれは話せないよね。
本当に私が聞いてはいけない秘密だった。
===
……さてどうしようかな。
私は、フランの秘密を知ってしまった上に、騎士団の機密情報まで知ってしまった。
相手は、騎士様を数人相手に取る実力者。そんな相手が私を執拗に狙っている。
囮というのは、引っかかった相手を吊り上げられる事で初めて成立する。
…つまり、相手がこちらより強かったら意味がないわけで。
今まで私が落ち着いていられたのは、イトラなら何とかしてくれると思っていたからなんだけど、これ程の実力者が相手だとどうだろう。
うーーん、いいや。
直接聞いてしまおう。
(…イトラ)
(なに?)
(イトラって……つよい?)
(つよいけど…? どうしたのよ、いきなり)
何が聞きたいのか分からなかったイトラの声を聞いて安心した。
イトラは、私がイトラの実力と相手の実力を比べていると思ってもいない。
そうはっきりと分かった。
(イトラが居てくれるなら安心だね!)
(……あなた、まさか私とその誘拐犯どっちが強いかなんて心配していたの? 失礼ね…)
呆れられてしまったが、問題ない。
イトラは私を『裏切らないし、見捨てもしない』のだから。
「……ん、んーあ~おはよう、お姉ちゃん…」
腕の中でフィルが目覚めた。
そのまま、伸びをしてまた私の腕に戻ってくる。
「おはよう、フィル。よく眠れた?」
「ん~、もう少し寝る~」
「わかった、後で起こしてあげるからゆっくり寝てて」
頭を撫でてあげると、すぐに寝息が聞こえる。
この無防備さが無性に好ましく思える。
(フィルの事も守れるように、強くならないと…)
私も微睡の中へ落ちていった。
朝日が昇り、すっきりとした気分で起きた。
「ん~~」
伸びをして部屋を見ると、フィルもフランも起きていた。
でも様子が変だ。
フランは、顔を青白くして膝を抱えて丸まっており、フィルがその頭を撫でて励ましている。
「フランお姉ちゃん、お姉ちゃんも起きたし、しっかりしよ~」
「…わ、私は…昨日…うがあああぁ!」
膝を抱え丸くなったフランの体は、とても小さく見えた。
改めて見れば、身長も私と大して変わらない、ただの少女。
まだ12年くらいしか生きていないのだから当然だった。
庇護欲とほんの少しの同情心を揺さぶられ、私もフランの頭を撫でる。
「大丈夫、大丈夫だよ~。フランは悪くないよ~。昨日は、ナニモナカッタ、ナニモナカッタンダヨー」
ダメだ、後半の言葉に感情が乗らない。何もなかったなんて、真剣に言えなかった。
「………何もなかった…? 昨日の事は夢…?」
「ウンウン、ユメダヨ~、ヒミツナンテ、ナニモハナシテナイヨー」
「話してないよ~」
うん、私たちに話してしまった事など、フランが忘れてしまえばいい。
私たちの目的は、秘密の内容ではなく秘密を話させる事だったんだから。
フランが昨日のことを忘れるまで、2人で励ました。
「おはよう、フィル、リタちゃん、フランさん」
着替えて食堂に降りると、ミレーヌさんが既に朝食の準備をしている所だった。
「おはようございます、昨日はフィルちゃんを貸してくれてありがとうございます、とても楽しかったです」
「うん! 楽しかった~、またお泊りしてもいい~?」
「フランさんが良いって言ったらだよ? あんまり迷惑かけないようにしなさい」
「は~い、フランお姉ちゃん、またお泊りしてもい~い?」
「…は、はい、大丈夫、です。…あれ? 昨日何してたんだっけ…?」
フランがまた思い出すと大変だ。
「…ん、昨日フランは疲れていたのか、すぐに眠ったから何もしていない。昨日は私とフィルが2人で話していただけ。次は一緒に話そう?」
「…はい、そうでした。…フィルさんが望むのなら、また…お泊りしましょうか」
フランが柔らかい笑顔でそう答えた。
そんなこんなで、丸く収まった。
◇
今日から中級魔法の実習が始まった。
初級魔法と比べると魔力が多く使われていくのを感じるが、大した負担にならないのでそれは問題はなかった。
問題は、呪文の長さだ。
初級魔法なら長くても5秒程度、簡単な物なら2秒もかからない魔法ばかりだった。
でも。中級魔法の呪文は短くて10秒前後、長いものは30秒程かかる。
実習の工程は初級魔法と同じで、まず呪文の意味から学習し発音、魔力量を調整する。
多少慣れてはきたが、頭で考えながら呪文を唱えるというのは、呪文が長くなるほどに苦労することを理解させられた。
「……はい。その調子です。その…リタさんの魔力量ってどうなっているんですか? 朝からずっと呪文に魔力を込めてますが、まだ魔力に余裕があるんですよね?」
「う、うん。まだ大丈夫」
感覚なので大雑把だが、まだ半分くらい残っていると思う。
でもそんなに多いのかな?
私に教えているフランも大体同じ分の魔力を消費しているはずなので、フランも魔力が多いことになる。
「……すごいです。初級魔法を覚えた後に初めに躓く所は、消費魔力量なのに…」
「リタちゃんは、10歳にもなっていないのに既に並の魔法師以上の魔力量があるんだろう。成人した時にどのくらい増えているか楽しみだね」
「そうですね。リタさん、まだ余裕があるならこの調子で進めてもいいですか?」
とりあえず肯定する、魔力的には特に問題を感じていない。
それに新しい呪文魔法を覚える度に、イトラがそれを聖術で再現して覚える、という毎日は工夫にあふれていて実は結構楽しんでいたりするのだ。
呪文魔法は単語が増える毎に複雑化していく、それは聖術も同じで、起こしたい事象が明確にわかっている魔法の方が再現しやすいという理由もあった。
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